自分の設計を「これがいい」と自信を持って勧めることが出来るか (建築設計実務の教科書 vol.2)
建築は「これがいい」の積み重ねでその質を高めていく。
建築設計は大きく分けて「基本設計」→「実施設計」→「確認申請」の順番で進み、その後「現場工事」が行われる。
この中で最も重要な段階が「基本設計」だと私は考えている。これは漫画で言うところの下書きに当たる。
建築の全体像、外形、骨格がある程度ここで決定する。
基本設計でイケてない建築はその後も相変わらずイケてないままだ。
では、基本設計で美しい図面が描けていれば実際に美しい建築が立ち上がるかと言われれば、答えはNOである。建築はどこまでいっても実物であり、二次元の線図である図面だけでは読み取れない情報が山のようにあるからだ。パースであっても所詮は「紙に描かれた絵」である。実物の情報量を現わせる訳はない。
それに建築は椅子や家具などと違い、試作品を作ってその質を確かめることが出来ない。言わば、一発勝負の代物である。建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞を受賞した西沢立衛さんでさえ「原寸大の模型を作って確かめたい」と言われていた程である。図面を描いても、パースを描いても、模型を作っても、実物を完全に頭の中にイメージする事はほぼ不可能である。「この人はありありとイメージ出来ていたのでは」と感じる過去の名だたる建築家もいるが、それが出来るのは天才だけだろう。
だから、図面やパースを描き、模型を作って一生懸命イメージして進めていくしかないのである。
では、所詮イメージ出来ないからと言ってそれらを疎かにしていいかと言われれば、これまた答えはNOである。これらの作業を真剣に積み重ねていく事で建築の質は確実に高まっていくのである。しかも、
現場で実際に形が出来るまで決して妥協なく「これがいい」と言う図面、パース、模型を追求し続けなくてはならない。
お客様に否定されても、現場監督や職人にしかめっ面をされても、自分が自信を持って「これがいい」言える図面、パース、模型を提案し続けなくてはならない。最後の最後まで。
今のところ、この他に建築の質を高める方法を私は知らない。
今後、テクノロジーの進化でもしかしたら変わるかもしれないが。