「実測する」建築の勉強法 vol.6
最も効果的な建築の勉強法
文字通り、「実際に測る」ことである。
コンベックスで測っても良いが、今はレーザー距離計も普及している。
実測をする理由は二つある。
一つは、「寸法」を知ることができるからだ。
建築は木、コンクリート、鉄、ガラスなどの「素材」でできている。しかしこうも言うことができる。
建築は寸法で出来ている。
建築設計では部屋の大きさや高さ、また、素材を何ミリメートルで使うのか、なぜその寸法にするのか、その検討の繰り返しである。
すなわち、「寸法」を決定する作業が建築設計の要となる。
もちろん建築雑誌の図面を観ても寸法を知ることが出来る。しかし、図面だけで寸法を知るのと、生の実物を触りながら、その空間に浸りながら実測して寸法を知るのとでは、把握できる情報量に雲泥の差が出てくる。
ヨーロッパを旅した時、ル・コルビュジェのラトゥーレット修道院の修道院室を実測した。元々、図面でだいたいの寸法を頭に入れていた。修道院室の間口は1.8m(1間)ほどしかなく、「えらく狭いな。この部屋息が詰まりそうだな。ル・コルビュジェも設計ミスするんだな」なんて勝手に考えていた。
しかし、実際に現地におもむき、測ってみるとミスしていたのは私だと気付いた。
確かに間口は1.8mほどしかない。しかし、狭さなど微塵も感じなかったのだ。むしろ伸びやかで気持ちの良い空間であった。
その理由がわかった。窓が部屋の間口と高さいっぱいに設けてあり、その向こう側は開放的な森の景色が広がっていたのだ。
下記は私のつたない実測スケッチである。
その気付きは、現地で実測して初めて手に入れることができる。
実測するもう一つの効用、それは
実測することで対象と一体となり、時に作者の思いまでも知ることができるということだ。
西澤文隆という建築家をご存知だろうか。モダニズム建築の旗手でもあった坂倉準三の弟子で、既に故人であるが、晩年に有名な日本建築を実測してまわった方だ。
実測した図面の量と密度は誠に凄まじく、西澤がこの世を去った後に「建築と庭」という実測図集が刊行された。一冊七万円もするが、私は迷わず購入した。
西澤さんの言葉が建築を実測することの重要性を見事に言い表している。
「実際に体を使って測っていると、対象と自分が肉体的に結びついてくる。客観的に眺めたり、写真を撮ったりしていたような生やさしいものではない。それをつくった人と直に差し向かっている状態になる。一見普通のことを普通にやっているように見えていたものが、それぞれ苦心し、悪条件を全て美の条件に変化させて機能に立脚しながら素晴らしい水平思考を重ねて飛翔している心が直に伝わってくる。
上記は西澤さんの実測図(桂離宮)である。
より深く建築を観る手段として、実測以上のものはないと思う。寸法を知り、建築とより深く結びつくことができる。
ル・コルビュジェも旅に出ると、感動した建築をひたすら実測していたようだ。
実測はまさに建築の勉強法の王道ということができる。
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