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連載小説|ウロボロスの種

▲ 前回


七日目

 朝が来て、私は海へと向かった。道すがら、昨日の子どもたちとすれ違った。子どもたちは騒がしく飛び跳ねたりしながら歩いていた。
 海に着いた私は、目を疑った。遠くからでもわかるほど、私の立てた枝は太く高くなっていた。もはやそれは枝というより幹だった。そこから生えた枝も増え、さらに枝分かれまでしていた。
 数人の人々がそれを囲んで見ていた。少しの躊躇のあと、私はその場所に行ってみることにした。
 「砂浜に木が生えるなんて」と、人々は口々に言っていた。
 犬を連れた人が通りがかり、立ち止まった。犬もまた立ち止まり、〈木〉をじっと見ていた。
 「南国から木の種が流れ着いたのかもしれない」とある人は言った。
 「これは神の木かもしれない」と別の人は言った。
 私は大聖堂へ行こうと歩いたが、途中でフェデリコに出くわした。
 「町中の話題になっていますよ。ちょうどいまから見にいくところです」
 フェデリコはそう言い、私たちは二人で海へと向かった。
 〈木〉の場所に着くと、人がさらに増えていた。
 「何が起きているのでしょうか」と私は訊いた。
 フェデリコは答えられない様子だった。
 私は彼に言った。
 「バー・ニュクスのリリィは、生えているか刺さっているかの違いは、種があるかどうかの違いだと話していました。つまり、生えているものは種があったもので、刺さっているものは種がなかったものです。私は確かに、木の枝をここに刺しました。種などなかったのです。それなのに、これはまるで生えているかのようではありませんか」
 しばらくの沈黙のあと、フェデリコはこう言った。
 「リリィの話が正しければ、木の枝が種だったのかもしれません」
 木の枝が種。私は、リリィがマドリング・スプーンを上に向けたときのことを思い出した。もしかすると、本当の種は、どこか見えないところにあったのかもしれない。木の枝は、その種の影だったのかもしれない。そしてそれが、生長しはじめた。
 だとすると、どこかにある本当の種は、いま芽を伸ばしている。この〈木〉がその影だとしたら、本当の種は、本当の芽は、どんな形をしているのだろうか。
 
 夜、私はバー・ニュクスにいた。飲むブランデーの量が、夜ごとに増えていた。
 「リリィ、砂浜の〈木〉のことを知ってるかい」
 「ええ。今夜早くにいらしたお客様から聞きました」
 「あれは影ではないかと思うのだけど、どうかな」
 「影だとしたら、逆さに生えているのかもしれませんね」
 私はふり返り、自分の影を見た。椅子に座る私の影は、私の背筋から頭にかけての向きに対して、逆向きになって伸びていた。
 逆さに生えている〈木〉。それは根を上に伸ばし、枝を下に広げるのだろうか。 


▼ 次回


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