肩関節挙上を阻害する「小胸筋」
どうも!しーご(@Hs041300)です。
STMマガジン”第6段”!
いつも読んで頂いている先生方、初めて読んでいただく先生方に拝読頂き、感謝致します。
初めて拝読される先生方もおられると思いますので、これ何のマガジンだ?と思った方は下記の記事を是非ご参照ください!
今回は肩甲骨の動きを阻害する「小胸筋」についてです。
小胸筋については私が臨床上、肩関節挙上制限を考える上で最も着目する筋肉です。
結論から言いますと
”小胸筋の単独の評価と介入”
が重要と考えています。
それでは始めていきたいと思います。
最初に肩関節挙上と小胸筋のイメージを膨らましてもらいます!
1.肩関節挙上時の機能的要素
まず肩関節挙上最終域が100%と考えた時、どの程度肩関節周囲の関節が可動しているかご存知でしょうか。
上記図のように言われています。
このように考えた時、肩関節挙上において肩甲骨の動きに寄与する関節の役割は40%以上あることがわかります。
以前も口すっぱく言っていますが肩関節挙上時の肩甲骨については
・上方回旋
・後傾
・外旋する
※スキャプラプレーン上ではない、肩関節屈曲においては肩甲骨の内旋・外旋が両方生じる。
また肩関節挙上時の肋骨は
・第5胸椎が最大に挙上する
・第3〜6胸椎で伸展する
・胸椎伸展に伴い肩甲骨は後傾する
(立原久義ら:肩関節 2012年36巻3号p795-798)
肩関節挙上時の動きについて気になる方や復習したい方は下記をご覧ください。
肩関節挙上時の肩甲骨動態や肋骨の動きを考え、それに起因する機能異常をしっかりと捉える必要性があります。
このような動きがある一方で肩甲骨の動きを阻害する方向に作用する要素も沢山あります。
2.肩甲骨の阻害因子とは?
無症候性の腱板断裂患者ではありますが、
上肢挙上時、健常者と比べ
・肩甲骨上方回旋量に変化なし
・肩甲骨後傾量は明らかに低下していた
と報告されています。
さらに
肩甲骨の上方回旋においては
・肩鎖関節
・胸鎖関節
の動きが関わっている為、胸鎖関節上の挙上に伴う肩甲骨の上方回旋で補うことが可能です
このように負担なく肩関節挙上するためには肩甲骨後傾が重要となり、胸鎖関節上での肩甲骨上方回旋で肩関節の挙上を代償していることがわかります。
また腱板断裂発症のアルゴリズムについては
・骨の形態(肩峰の形態、肩峰下・肩鎖関節の骨棘)
・上腕骨のキネマティック
・肩甲骨のキネマティック
に分けられ、
この時の肩甲骨キネマティックの阻害因子として
・小胸筋の短縮
・肩甲骨周囲筋の筋活動
・胸椎のアライメント
・後方関節包のタイトネス
が挙げられています
(Seitz AL, et al. Mechanisms of rotator cuff tendinopathy: intrinsic, extrinsic, or both? Clin Biomech (Bristol, Avon). 2011 Jan;26(1):1-12.)
このように肩関節の動きの機能異常については沢山の阻害する要因があります。
この内の
・肩甲胸郭の静的アライメント評価
・肩関節挙上時に必要な肩甲骨の筋活動について
気になる方は以下をご覧ください。
この時の阻害要因の一つである「小胸筋」についてここで解説していきます。
3.小胸筋とは!?
小胸筋の起始は個体により異なります。
1602側の献体よる調査では
第2〜5肋骨 39.2%
第3〜5肋骨 28.2%
第2〜4肋骨 26.7%
第3〜4肋骨 3.9%
第3〜6肋骨 0.9%
(改訂版第2版 骨格筋の形と触察法より)
このように解剖学書や人種による個体差はあり、大体の解剖書では第2〜5肋骨か第3〜5肋骨と書かれていることが多いと感じています。
また作用は肩関節挙上と真逆を示します。
小胸筋の作用は
⚫︎下方回旋
⚫︎前傾
⚫︎内旋(外転)
に関与する
小胸筋は解剖学書によっては外転の作用を有すると書いている解剖書が多いですが実際には肩甲骨を内旋させると考えています。
これに関しては
肩甲骨外転は胸鎖関節上での動きに寄与することが大きいのに対し、
小胸筋は肩鎖関節上の肩甲骨の動きに寄与することが大きいと考えているからです。
また小胸筋の短縮を有する者は上肢挙上時の
肩甲骨外旋と後傾が低下すると報告されています
(Borstad JD, et al. The effect of long versus short pectoralis minor resting length on scapular kinematics in healthy individuals. J Orthop Sports Phys Ther. 2005 Apr;35(4):227-38.)
このように小胸筋は主に外旋と後傾の動きを制限し、肩関節挙上の阻害因子となることがわかります。
そうすると気になるのは小胸筋の評価方法についてだと思います。
4.小胸筋の評価方法
私の相棒、まつうらさんが先日Tweetしていました。笑
①烏口突起と第4肋骨胸骨尾側端の距離
②肩峰と床面距離
が筋の短縮を示す指標となります。
③臨床でエコーを使用できる環境ですとエラストグラフィーを使用して筋の粘弾性いわゆる筋肉の硬さを評価
することができます。
個人的には臨床で簡便に精査できる指標は
②肩峰と床面距離と考えています。
①は女性で正確に測れないのでは?(男性なら良いかも!)
③はエコーが施設に必要。
もちろん②に関しても沢山の評価バイアスがあります。
なぜなら烏口突起に付着している筋肉は複数あるからです。
しかし
唯一烏口突起に付着する筋肉で肋骨に向かうのは小胸筋だけで
その他の組織は上腕骨へ付着します。
私は臨床で
烏口突起と肋骨に向かう小胸筋の線維を想定し、烏口突起を把持しながら
肩関節を外転、外旋させます
※肩関節の外転や外旋の動きはより肩甲骨外旋が必要だからです
また小胸筋を触診する際は
①第3(2)肋骨に向かう線維
②第5肋骨に向かう線維
の硬さを確認し、小胸筋がどこの肋骨を制限しているのかも確認します。
そのような徒手介入を加えながら筋肉を伸ばすこともあります。
もしこれで
②肩峰と床面距離に変化がないあるいは制限が残っている場合は
上腕二頭筋短頭由来の制限を確認するために肩関節を外転・外旋位で前腕の回内に制限がないかを調べます。
上記図を見て分かるように鳥口腕筋と上腕二頭筋短頭は共同腱として烏口突起に合流するのでそれぞれの筋肉を分けて考えることは少ないです。
このように徒手介入で
①小胸筋
②鳥口腕筋、上腕二頭筋短頭
を分けて考えます
小胸筋の評価に関しては簡便にできる評価は今のところ
肩峰と床面距離と考えていますが
精度を考えるとエコーのある施設に所属の先生方はエコーを用いて評価しても良いかもしれません。
小胸筋の評価に関しては臨床上で私が使用している徒手的な評価・介入をご紹介させて頂きました。
もしご質問や、私はこのように評価している!というものがあればご教授いただけますと幸いです。
まとめ
⚫︎小胸筋は肩関節挙上の阻害因子である
⚫︎その理由は肩甲骨の後傾と外旋を制限するためである
⚫︎小胸筋の評価は単一のものはなく工夫が必要
⚫︎烏口突起に付着している組織をイメージし介入することが臨床では必要な知識!?
皆さんいかがだったでしょうか?
小胸筋と一括りにしてもいろんな知見があり、知見に惑わされます…
正直、わからないことばかりですよね。
そのような沢山の疑問に対して是非議論できれば、私も嬉しく思います!
最後まで読んでいただきありがとうございました。
是非、今回の記事が皆様の臨床感に役立てれば幸いです!
今後ともどうぞ宜しくお願い致します。