ライバルは小学生|古森悠太五段
趣味は何ですか。
この質問に対して、すぐに答えられる人はどれくらいいるのであろうか。
カラオケ、テニス、卓球、ダーツ、音楽を聴くこと、ふらっと散歩に出ること・・・好きなことは多々あるものの、いずれも「趣味」と呼べるほどハマっていると言っていいのか、記者の方やファンの方に冒頭の質問をされる度に考えてしまう。
棋士になったときのプロフィールに書いたこともあり、趣味を聞かれた際にはカラオケと答えている。
しかし、棋士になった頃には週3回程度行っていたものの、今では数か月に1回程度であり、今も趣味として答えていいのかという葛藤がある(ただ、カラオケと答えていたおかげで、いつか出たいと思っていた詰将棋カラオケに出演させていただくことができた)。
そういえば、「趣味」とは、「専門としてでなく、楽しみとしてする事柄」(広辞苑、2008)を意味するらしい。
そうすると、常日頃から触れていて好きな将棋は趣味には当たらないことになる。
たしかに、専門的に将棋をすると、楽しさよりも苦しさが多いときもある。
しかし、プロ目線だからこそ見える世界もあり、特にゲームとしての奥深さを感じたときは、たまらなく楽しい。
先日、縁があって、囲碁の元院生(院生とは、棋士養成機関に所属する人のことで、将棋でいう奨励会員)の方と出会い、囲碁を教えてもらう機会があった。
一局を打ち終えた時の達成感と開放感。そして、なにより、局後に「この手がいい手だった」、「センスある」、「先生もそう打つ」という言葉をかけてもらえたときの嬉しさ。
いつの間にかどんどん囲碁にハマっていった。
思い返すと、将棋を始めた頃も同じような感情を抱いていた。
思えば、囲碁と将棋は、頭を使う点、お互いの良いところ・悪いところを議論する点、極めれば極める程に新たな境地が見つかる点などで共通しており、私が囲碁にハマるのも自然な流れであった。
私はこのようにして遂に「趣味」を手に入れることができた!
「趣味」を手にいれる過程で思わぬ発見もあった。
囲碁をやり始めた当初、先生や格上の方を相手にして「この1手は変じゃないかな」、「無駄な粘りになっていないかな」などと考えてしまい、碁石を掴んだ手をなかなか盤上に伸ばすことができなかった。
その際、将棋の指導対局会に来てくださる初心者の方も、このようなことを考えながら指されているのかもしれないと気付いた。
指導対局会では、リラックスして自由に楽しんで指してもらいたいと思っていたものの、いざ自分が教えてもらう立場になると、それがなかなか難しい。
このことを体感して以降、指導対局会では、初心者目線でわからないことを予想しながら指導することを心がけるようにしている。
ちなみに、「好きこそ物の上手なれ」なのか、囲碁の棋力は半年で初段程度にまで伸びた。
今年の春には、初めて大会に出場し、小学生にコテンパンにやられた(個人成績は1勝3敗。ただ、団体戦であったため、チームメイトの活躍により、なんと結果は3位入賞)既に小学生恐怖症になっているが、20歳近く年下に負ける経験は初めてであり、勝負師として燃えるものがあった。次はみっちり特訓して勝つぞ!と意気込んでいるものの、子供の成長の早さは自分が一番よく知っている。勝つことは厳しくても、「おじちゃんなかなか強いね」と言ってもらえるようになりたい。
囲碁も将棋も、初心を忘れることなく、楽しみながら、さらなる深みを探求していきたい。