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ウマが言える日まで|大石直嗣七段

 今年も残り僅かとなりました。コロナ渦で生活が変わり、主に自宅の生活が中心となりました。以前のような、N六段の千鳥足からI八段が笑みを浮かべて駆けつける姿など。その他にも珍光景はありましたが、和気あいあいと楽しむ光景には、有難い生活だったと感じております。今は少しでも、元の生活に戻ることを願うばかりです。

 今回は地元の志紀将棋センターに触れたいと思います。キッカケは奨励会三段、高校を卒業した頃です。毎日が日曜日のように過ごしてしまいそうな私を心配した両親が、将棋に打ち込める環境をとの想いがあり、父親の事務所を半分のスペースに使わせていただく形で開業しました。当時の営業日は週3日、平日には来場者数が0人の日もありましたが、何より静かな環境で将棋の研究に打ち込めたことで、私にとっての有意義な時間を過ごすことができました。1年後にはプロ棋士の誕生に繋がり、改めて両親へ感謝の気持ちです。

 開業には、師匠森信雄七段の後押しもありました。上手(うわて)の立場として、指導対局を経験したのは、奨励会6級に合格した後です。当時は小学校6年生でありましたが、師匠の大人教室に、講師役として声を掛けていただきました。
 教室が始まると「大石君、そこで○○さんに指導して」と言われたことを思い出します。当時の流行したキムタクの「ちょ、待てよ」な気分に陥りましたが、イケメンではないし、当然ながら師匠に反論なんてできません。
 やや戸惑いながらも「はい!」の2つ返事で取り組みましたが、何も知らない大石少年は、駒落ち指導で快勝譜を披露するわけです。するとお客様から「もう、あなたには教わりたくない」と言われたことがありました。当時の私は「なぜ快勝してはいけないの?」と同時にショックを受けました。
 しかし横で指導をしていた兄弟子の丁寧な教え方、そして下手(したて)が緩手を指すと、その場でアドバイスして元の局面に戻す光景など。指導対局を行う上での振る舞い方に、大石少年は大きく感動しました。
 “師匠や兄弟子のように、ウマくなりたいなぁ“
 教室には、奨励会に在籍した約7年半の間お世話になり、社会勉強の1つとして、学ぶこともできました。

 コロナ渦の影響で、師匠とお会いするのも年に1、2回程度ですが、園田競馬場でご一緒させていただくことが1つの楽しみです。
「あと一歩で、冴えんなぁ」と苦笑いする師匠ですが、実は私もよく重なります。それは師弟とも狙いの馬が、惜しくも4着に敗れてしまう状況です。競馬は、最低でも3着以上に絡まないと的中馬券になりません。
 その光景に“ウマが合いますね!”と外れた時こそダジャレが浮かんできますが、師弟がダブル的中した際、喜びのお言葉に。

 話は戻りますが、今年から有段者コースを開設しました。従来は指導対局を中心に活動しておりましたが、大盤解説や指導対局に加えて、少人数制を生かした質問しやすい環境作りを心掛けております。近くにお住いの方や興味がございましたら、志紀将棋センターのホームページを検索していただけたら幸いです。
 大勢の方にお越しいただき、席が“ウマる日“を楽しみに、今月も志紀将棋センターへ向かいたいと思います。