フレンチロックミュージカル「赤と黒」を観劇した
某日、池袋の東京芸術劇場プレイハウスでフレンチロックミュージカル「赤と黒」を観劇した。
今年の初めに同じくフレンチロックミュージカルであった「キングアーサー」を観劇してからというもの、フレンチロックは私の好みにドストライクであるということが明らかになっていた。
よって、今回の赤と黒を観劇しようと思い立ったことも必然である。
また、この赤と黒に関しては、プロモーションビデオが私の観劇意欲を煽った。
「影が付き纏う 黒い闇に赤い血潮 闇が突き刺す この怒りで染めてしまおう」
これは赤と黒の主題歌であるが、この歌詞に唆られる人間はきっと私だけでは無いだろう。何とは言わないが、未だ患っていてすまない。
このnoteでは、個人的に印象に残ったことをいくつか挙げていく。
⚠️なお、ネタバレ有りなのでそこのところはお気をつけください。
物語に関して、自分の中で引っ掛かってしまった部分が少々存在していた。
話の雰囲気は好きだったし、あれはあれで良かったのかもしれないが…矢張り尺の問題など関わってくるのだろうか。
私にはジュリアンとルイーズが恋に落ちた過程も納得できなかったし、ジュリアンがマチルドと愛し合ったにも関わらず、最後までルイーズのことを想い続けていたことにも疑問が残ってしまった。結構駆け足で物語が進んでいたから、そのせいだと思う。
どっちつかずで愛に振り回されるだけの青年を描きたかったなら、別にジュリアンが野心家でブルジョワを憎んでいるような設定は要らなかったように思う。もっと野心家の描写があれば納得できたのだが、舞台上ではジュリアンは恋をして裏切られての繰り返ししかしていないように思えた。
愛も掴み損ね、野心も砕け散ったジュリアンって結局どうなりたかったんだろう。何にも残ることのない、ただの空虚しかそこには無かった。
恋に溺れる暇のあるくらいの憎悪しかブルジョワに抱いていなかったのなら、そんな思いは捨ててしまえ。いっそ愛だけにうつつを抜かしている方がまだマシだったかもしれない。
ジュリアンに関しては、上記のように愛か野心かどっちかを選べともやもやした部分はあった。しかし、ジュリアンのような男性が身近に現れたらうっかり恋に落ちてしまうなぁとも思った。知的な男性に、弱いので………(ジュリアンの内実は知的、理性的どころか完全に本能に振り回されまくりな男性なわけですが…。そんなこと、ジュリアンと対峙している女性は気づかないよね)
ジュリアンのお相手として添えるなら、個人的にはマチルド派です。ルイーズとの蜜月よりもかなり健全で応援したくなる感じで、とても良かった…。最終的にルイーズはとんでもないことをやらかしますからね…………許されないぞ本当に……。守るためとはいえ自分でジュリアンを追い出したくせに、勝手に落ち込んでお祈りをし続けますからね……。ジュリアンくんは彼女を聖人視しすぎな節がありますよ、本当に………。
マチルドは最後までジュリアンを庇い守ろうとしてくれてたからね、あの小さな背中と小さな手で…大事なものを見落とすんじゃ無いよ、ジュリアン……。
マチルドは二幕から登場するキャラクターだった。
その登場シーンには華があり、マチルドを演じた田村芽実さんの魅力が爆発した瞬間だったと思う。マチルドが現れ、口を開いた瞬間から私はマチルドしか目で捉えることが出来なくなった。一瞬にして心奪われて、とろけるような心地がした。あの瞬間のマチルドは何かしらの罪に問うても誰も咎めはしないだろう。魔性としか言いようがなかった。
ルイーズが所有するものが成熟した女性としての艶やかな美しさであるとするなら、マチルドは少女から女性への過渡期に立ち現れる甘酸っぱい可憐さを携えた瑞々しい果物のような存在であった。
ジュリアンの暗い一面を暴いたのはマチルドであったし…………矢張りマチルドを選ぶべきだったよジュリアンは…………。
ルイーズは、ジュリアンの暗がりを暴くことはできなくとも、その影を照らすことに長けた聖母のようなあたたかさを持った女性であった。
対してマチルドは、ジュリアンの深淵を覗きそこに足を踏み入れることで、ジュリアンの内面をより近いところで見つめ受け入れることのできた女性であった。
こうして考えると、私はマチルド派ではあるものの、ジュリアンが最終的にルイーズを選んだことの理由がわかってきてしまうような気がする。だって、誰だって救いが欲しいものね。
理解し合えるのはマチルドだけれども、一方的ではあっても照らしてくれるのはルイーズで…。
いや、何度でも言いますが私はマチルド派ですけどね。
二幕終盤での「赤と黒」をずっしりと、時に掠れた声で歌う三浦宏規さん演じるジュリアンには痺れた。愛憎、嫌悪、絶望、諦念………露悪的で、人は必ず持っていたり経験したりする感情が一気に押し出されたあの瞬間。思わず指の先が冷たくなってしまった。
このミュージカルは、絶対に観て前向きになれる作品では無い。人間の奥底を定点カメラで捉え続けたような、地獄の凝り煮を提供されているようなものであるから。でも、それが良かった。如何にもこうにも救われないこの感じが刺さる人間は、数多く存在するだろうと思われる。
2023年、最高の観劇納めとなりました。