【バチバチに】BREAK FREE STARSの観劇レポート【個人の感想】
<ネタバレ満載なので、読む際はご注意ください>
某日、IHIステージアラウンド東京にてBREAK FREE STARSという舞台を観劇した。演出は植木豪さん、脚本は亀田真二郎さんと大西雄仁さんという豪華なタッグで観劇前から期待値は高かった。
私はまず第一に推しの阿部顕嵐くんが出演する時点で行くという選択肢しか残されていなかったわけだが、演出や脚本にあのヒプステ陣が強く絡んでいるという点でも行かねばならないという謎の使命感にも駆られていた。
とはいえ製作陣も、ヒプステとはまた違うメッセージ性を込められた実話に基づいた作品(と、亀田さんは仰っていた)にしつこくヒプステだ何だとオタクたちから言われることは望んでいないだろうから、私も同一視はしないように注意しながら観劇することを決めていた。
あらすじとしてはこうだ。
舞台はヒップホップ禁止条例の制定された世界。一人の人間によるヒップホップへの苦言に世間は共感し、その波紋が大きくなったが故の措置であった。
そんな世界で、ヒップホップの聖地であるクラブ「BREAK FREE」に集まっていたスター達は政府から目をつけられ監獄に入れられてしまう。そんな絶望的な状況から物語は始まる。
仲間だったはずの人間が政府側に回っている困惑や逆に政府の人間がスター達に手を差し伸べようとする感動、群衆心理の曖昧さ___多くの混沌が絡み合い結びつきながらも、スター達は一筋の光に手を伸ばして足掻いていく。「Hip Hop is not a crime.」その想いを胸に。
まず、感想を一言で言うならこうである。
超絶、楽しかった!!!!!!
広いステージの中を自由に、楽しげに踊り、或いは韻を踏んで盛り上がる様は客席を巻き込んでのエンターテイメントで非常に興奮した。芝居とパフォーマンスが折り重なるようにして順番に訪れて、緩急がしっかりとしていて見ていて飽きるなんてことはあり得なかった。
私は今回ステアラに訪れたのが初めてだったのだが、客席が回転するのはアトラクションのようでわくわくした。時折平衡感覚がわからなくなってしまったが、躍動感があってとても良かった。
また、この舞台ではバリバリ客降りがあるので大変だった。私は5列目に座ったのだが、目の前が通路で役者が走り回るのなんの。ちょっとだけ足を伸ばして座っていたものだから、大慌てで座席の下に足を引っ込めた。物凄い勢いで駆け抜けていくんだもの、転んでしまわないかヒヤヒヤしました。
客降りで推しが信じられないくらい近い距離にいる事態が起きて、客降りであの近さは体感したことがなかったので震えました。正直動揺してしまってあまり覚えていません。客席全体に役者が居たと思うので、おそらく前方でも後方でも楽しめるスペシャル仕様だったと思います。最上級の供給に涙。
次に、ストーリーについて。
所々違和感を覚えたが、しかしそれこそ作品のリアリティに繋がっているのだろうなと感じた。
ヒップホップ禁止条例が制定されてスター達が監獄にぶち込まれる。これはわかる。そんな法律ができたからにはきちんと措置を取らねばならんからね。
しかし、よくわからないのは刑務官だ。特にコウチ刑務官(高野渉聖くん)のような人間が、なぜあちら側にいるのだろうか。
彼は最初からヒップホップに肯定的で、投獄されたスター達にもこっそり差し入れをしたりしている極めて友好的な存在であった。元々警官で、やむを得ず上の命令に従っているという可能性も考えたが、がっつりヒップホップに携わっていたソーマがスルッと警官になれている時点でその可能性は低いように思う。
そもそもヒップホップ禁止条例というのが曖昧で、それを支える確固たる理由がないから、刑務所内でもそのような事態になっているのではないか。極めて杜撰で暴力的な措置。制定された時点で既に内部には亀裂が入っており、最初からこの法律は成り立ってなどいなかったのかもしれない。コウチ刑務官という異質の存在、アクセントがあったからこそ辿り着ける考察とも言える。
あと、コウチめちゃくちゃ可愛かった。きゅるきゅるしてて……。高野渉聖くん、BREAK FREE STARSが初舞台なんだよね。ニコニコして見ちゃった。
ソーマってどうして刑務官になったんだろう。
序盤に携帯が鳴って、その着信が全ての始まりだったように描かれていたけれど。
引き摺り込まれた理由がもっと知りたいなと思ったが、それほど複雑なことでは無いのかな。どうだろう。保身に走ったが故のことなのか、それとも他に別の理由があったのか。
我慢して我慢して、ようやく最後ブレイクダンスをしたソーマはとても美しかった。抑圧から解放されて、自身を曝け出した人間の様って、本当にあのように強烈で愛おしく思えるものなのかもしれない。
全てが終わって、全員揃ってクラブ「BREAK FREE」に帰ってきたときに見せつけられたパフォーマンスで、ソーマはものすごく楽しげに踊っていて。彼の指先、足の先まで行き届いた猛烈なパッションが見ている側にもしっかり伝わってきた。最高のハッピーエンドでした。
また、私がもう一つストーリーに関して感想を抱いたのは群衆心理について。一人の人間の「ヒップホップって怖いですよね」という、たったそれだけの発言が波紋を生み政治にまで影響を及ぼしてしまう。
公演中、2回ほどニュース番組の演出があったのだが、その際に1回目では「怖いですよね、子供には見せたく無いなあ」と言っていた人間が2回目には「ちょっとやりすぎだと思います。こんなの言論統制じゃないですか!」と憤慨していて私は恐れを覚えた。なんて人の心は不安定なんだろう、と。恐らくだが、2回目の発言を受けて「でもあなた1回目の時こう言ってましたよね」と質問をしたとしたら「ここまで大ごとになるとは思ってなかった」という返答が来るのではないだろうか。(もしかしたら都合上、同じ役者を使っただけでそれぞれ別の人間を演じている設定なのかもしれないが、その可能性は一旦置いておく。)
ちなみに今例を挙げたような発言をしたのは映像出演の廣野凌大くんです。彼もまた私の推しなので、台詞はきっちり覚えておりました。
対して、1回目の時に同じく「ヒップホップ怖いです」と言っていた人が2回目の時に「なんだって良いですよ、僕には関係ないし」と言っていたこともあった。結局、人間は自分の好きなものじゃないならどうだって良いし発言に責任なんて持つものではないのである。これは真理であるし、悍ましいことでもあると思う。
またまた補足ですが、この発言をしたのは映像出演の高野洸くんです。コウチ刑務官を演じた高野渉聖くんのお兄さんであり、私の推しです。ダンスをガッツリやってる洸くんが「僕には関係ないし」というのはなんだか面白くて笑ってしまった。すみません。
禁止条例の騒動が終わり、パフォーマンスで物語を締めくくる際に気づいたことがあるのだが、思わず感動した。
パフォーマンスをしながらキャスト全員が客席に降りてきて、それを観客は手拍子して音とリズムに乗りながら眺めるのだが…ここでハッとすることがある。「一緒だ」と。
感じたのは一体感。私も、周囲に座っている人も、キャストも、全員が同じ空間にいる。クラブ「BREAK FREE」でヒップホップを楽しんでいる。没入、本当の意味で我々は同じ空間を生きていたのだ。それに気づいた時の興奮と多幸感は尋常ではなかった。
開演前、劇場内で舞台上には垂れ幕のような映像が映し出されている。終演後もその映像が映し出されているのだが、これはもしかしたら「客席自体がクラブ『BREAK FREE』である」ことを暗示しているのではないかと思った。深く考察しすぎているのかもしれない、でももしそうであるならなんて素敵な演出なんだろうと高揚した。あまりにも体験型の舞台すぎる。
終演後、顔が火照っていることに気づいた。心もほかほかあたたかくて、楽しい気持ちで胸がいっぱいになった。
こんな素晴らしい舞台を見ることができて良かったと、思わず笑みがこぼれる。
観て良かった、見れて良かったと心から思う。