「観る将」が観た第71期王将戦第四局
2月11-12日、第71期ALSOK杯王将戦七番勝負第四局が東京都立川市のSORANO HOTELで行われました。カド番に追い込まれた渡辺明王将が1つ勝って流れを取り戻すのか、3連勝した藤井聡太竜王が一気にタイトルを奪取するのか、注目の一局となりました。前日に開かれたレセプションで、渡辺王将は「なんとか意地を見せられるように明日から頑張っていきたい」、藤井竜王は「ファンの皆様の期待に応えられるような、最後まで楽しんでいただけるような熱戦にできればと思います」と意気込みを語りました。
先手の渡辺王将が矢倉を選択すると、藤井竜王は早々に右桂を跳ね急戦調の駒組みを進めます。渡辺王将が右銀を四段目まで前進すると、藤井竜王は飛車を7筋に寄せて袖飛車に構えて牽制します。今年度の棋聖戦第三局と同じ進行となり、藤井竜王が雁木に構えると渡辺王将は少考で3筋から仕掛けます。藤井竜王が7筋から反発すると、渡辺王将は前局では銀を前進しましたが、本局では▲8八銀と引き前例を離れます。渡辺王将はここまでまだ22分しか使っておらず、用意してきた研究手順と思われます。
藤井竜王も研究の範囲なのか、わずか1分の考慮で玉を寄ります。渡辺王将が飛先の歩を交換すると、藤井竜王は△6五桂~△7五飛と7七の地点に戦力を集めます。一日目の午前中から一触即発の緊迫した局面となりましたが、渡辺王将は金を寄せて7筋を守り穏やかな駒組みに戻ります。渡辺王将が▲6六歩と催促して桂交換となり、藤井竜王が62手目を考慮中に昼休となりました。各8時間の持ち時間の内、残り時間は渡辺王将が7時間14分、藤井竜王が5時間50分と1時間以上の差が付いています。
藤井竜王は、昼休を挟む64分の長考で銀取りに△4四桂と打ちます。渡辺王将は29分の考慮で、なんと銀を見捨てて▲7四歩と垂らします。藤井竜王は更に45分考えて銀を取り、渡辺王将は飛車を浮き83分の長考で桂を取り返します。両者とも研究を外れたのか、午前中とは打って変わって時間を掛けて指し進めます。渡辺王将が取った桂を▲3四桂と打ち▲2二歩と打って"と金"作りを目指すと、藤井竜王が32分考えて次の72手目を封じました。形勢はほぼ互角、残り時間は渡辺王将が5時間7分、藤井竜王が3時間31分と1時間半以上の差となっています。
藤井竜王の封じ手は、解説陣の予想通り先手の銀頭を叩く△7六歩でした。渡辺王将が▲2一歩成と"と金"を作ってから銀を引いて避けると、藤井竜王は△4四銀と上がって"と金"を引かれた時の金の逃げ道を作ります。渡辺王将は109分の長考で金取りに"と金"を引きますが、藤井竜王は銀を上がって作ったスペースに金を逃げます。渡辺王将が7筋の垂れ歩を消しに△7七歩と打ち、藤井竜王が次の82手目を考慮中に昼休となりました。残り時間は渡辺王将が3時間0分、藤井竜王が2時間17分と少し差が詰まりました。形勢はわずかに藤井竜王に傾いてきたようです。
昼休が明けるとすぐ、藤井竜王は角で6筋の歩を取ります。渡辺王将が7筋の垂れ歩を取り払うと、藤井竜王は△3九角成と馬を作ります。渡辺王将は▲8六角と覗いて後手陣を睨み、馬取りに▲2九飛と引いて後手の攻めを催促します。藤井竜王は馬を金と刺し違えて先手玉を5筋に引きずり出し、△3六歩と桂取りに打ちます。渡辺王将は63分の長考で残り時間が1時間を切り、▲8三角と攻防に放ちます。
渡辺王将は▲6五角成と要所に馬を作りますが、藤井竜王はじっと△3七歩成と桂を補充し"と金"を作ります。渡辺王将も▲3二"と"と寄って後手玉に迫りますが、藤井竜王の△6四歩が先手の角道を遮断して馬取りとなる絶好の一手となります。藤井竜王の残り時間も1時間を切りましたが、△8五金~△7五歩と7筋から先手陣を攻略に掛かります。渡辺王将は▲2三飛成と竜を作って攻め合いに賭けますが、藤井竜王は構わず馬取りに△5四桂と打って攻め続けます。形勢ははっきり藤井竜王に傾いてきたようです。
渡辺王将は▲2三竜と入って4二の地点への利きを足しますが、藤井竜王は金で桂を食いちぎり△6六桂の継ぎ桂が厳しい攻撃になります。渡辺王将は残り6分まで考えて▲3三歩成と後手陣に攻め込み下駄を預けますが、藤井竜王は構わず△5八角と王手で打ち込みます。渡辺王将は1分程考えましたが、次の手を指さずに無念の投了を告げました。
本局は両者の棋聖戦での対局と同じ出だしとなり、お互いの研究の深さを感じさせるように一日目の午前中に60手以上指される進行となりました。渡辺王将が銀を見捨てる辺りまでは主導権を握っているように見えましたが、藤井竜王は慎重に時間を使って追随し決め手を与えませんでした。藤井竜王は二日目の午前中に銀を上がって金の逃げ道を作った辺りからペースを掴み、渡辺王将は長考を重ねてながらも次第に追い込まれていきました。藤井竜王は正確な速度計算で先手からの攻撃をかわすと、最後は馬や金を切って瞬く間に寄せ切ってしまいました。
藤井竜王は4連勝で王将を奪取し、史上最年少記録を大幅に更新しての五冠となりました。昨年度まで将棋界を牽引してきた豊島竜王(当時)と渡辺王将から、ともにストレートでタイトルを奪取したという事実には言葉にならない恐ろしさを感じます。対局後のインタビューで「自分の実力を考えると、ここまではでき過ぎの結果」と話していますが、現時点で藤井竜王が番勝負で敗れることは想像しづらく、誰がいつ倒すのかという方向に興味は移っていきそうです。
藤井竜王の今年度の対局は、恐らく順位戦の最終局を残すのみと思われますが、勝ってA級に昇級し、来年度は名人挑戦権を争って欲しいと期待しています。
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