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「観る将」が観た西山女流三冠の棋士編入試験五番勝負第二局

10月2日に、西山朋佳女流三冠の棋士編入試験五番勝負の第二局が東京将棋会館で行われました。幸先良く第一局を制した西山女流三冠ですが、先月末に新型コロナに感染したことが発表され、体調の快復具合が心配される中での対局となりました。

第二局の試験官となる山川泰熙たいき四段は、2024年4月プロ入りの26歳で、プロ入り後の通算成績は5勝8敗です。8月以降6連敗と、やや調子を落としているのが気になります。三段リーグ時代に西山女流三冠と3局指しており、対戦成績は1勝2敗です。


西山女流三冠は中飛車

先手の西山女流三冠が初手に5筋の歩を突いて中飛車に振ると、山川四段は銀を繰り出し、銀対抗の形になります。西山女流三冠は美濃囲いに構え、山川四段が左銀も四段目に繰り出し、4二玉型のまま△7三桂と跳ねると、22分の熟考で飛車先の歩を交換します。山川四段は△6五桂と跳ねて角に当て、西山女流三冠が角を6筋に引いてかわすと、8筋の歩をぶつけます。

山川四段が飛車を捕獲

西山女流三冠は角で取って間接的に後手玉を睨み、山川四段が玉を3筋に寄って角のラインから外すと、▲5八金左と陣形を引き締めます。山川四段は△3一角と引いて6筋を補強し、西山女流三冠が高美濃に構えると、△5五歩と打って先手の飛車の退路を断ちます。西山女流三冠が次の41手目を考慮中に昼休となりました。AIの評価値は山川四段の55%とわずかに傾き、各3時間の持ち時間の内、残り時間は山川四段が2時間27分、西山女流三冠が1時間51分と30分程の差が付いています。

長考の応酬

昼休が明けてすぐ西山女流三冠が▲5六歩と合わせると、山川四段は67分の長考で7筋の歩をぶつけます。西山女流三冠も56分長考し、残り1時間を切って同歩と応じると、山川四段は△5三金と上がって飛車に当てます。西山女流三冠は同飛成と金を食いちぎり、山川四段が同銀左と応じると、7筋の歩を伸ばします。

桂の取り合い

山川四段が△7九飛と打ち込むと、西山女流三冠は7筋の歩を成り捨てて銀で取らせ、▲6五銀と桂を取ります。山川四段が25分の熟考で残り1時間を切り、飛車で桂を取って竜を作ると、西山女流三冠は3筋の歩を突き、桂を打たれる筋を消しつつ玉頭攻めを狙います。AIの評価値は山川四段の60%と更に傾いています。

山川四段の端攻め

山川四段は1筋の歩をぶつけ、西山女流三冠が手抜いて▲3五歩とぶつけると、△1六歩と取り込みます。西山女流三冠は1筋に歩を連打して香を吊り上げてから香取りに▲2五桂と打ち、山川四段が△4四銀と上がって3筋を補強すると、▲3四歩と取り込みます。山川四段は角を交換してから△3七歩と銀頭を叩き、西山女流三冠が力強く玉で取ると、△4二金と上がって玉頭を守りつつ自玉の退路を作ります。

激しい玉頭戦

西山女流三冠が▲4五歩とぶつけて銀で取らせ、銀取りに▲3五金と打つと、山川四段は△3六歩と玉頭を叩いて金銀交換し、金取りに△4四桂と打ちます。西山女流三冠は王手で▲3三銀と打ち込み、山川四段が△4一玉とかわすと、少し咳込みながら▲4二銀成と金銀交換します。山川四段は飛車で取り、西山女流三冠が飛車取りに▲5三金と打つと、飛車を8筋に戻します。西山女流三冠は攻防に▲4五角と据え、山川四段が△5二金と打って角成を防ぐと、▲4二歩と玉頭を叩きます。

懸命の粘り

山川四段は玉を5筋に寄ってかわし、西山女流三冠が金交換してから▲5四銀と繰り出すと、△3六桂と金を取って詰めろを掛けます。1分将棋となった西山女流三冠は角で桂を取って逃れ、山川四段が△3五銀と打って角銀交換し、金取りに△5七角と打つと、▲4五金とかわして粘ります。山川四段は▲3五金と打ち、西山女流三冠が同金と応じると、△4六角打ともう1枚の角で王手金取りを掛けます。先手玉は一手一手の寄り形となり、後手玉には詰みがないため、西山女流三冠はここで投了を告げました。

まとめ

本局は山川四段が周到に準備したと思われる手順でわずかにリードし、西山女流三冠は綾を求めて強く攻め合いました。山川四段は堅実に先手からの攻撃を封じ、徐々にリードを拡げての快勝となりました。
山川四段は終局後、「自分は将棋指しなので目の前の将棋を頑張って指すしかないと思い、自分のできる限りの準備を精一杯重ねて過ごしてきました」と複雑な心境を吐露しましたが、アウェイの空気もある中で見事に実力を出し切りました。
コロナ感染の影響を聞かれた西山女流三冠は、関係者に迷惑をかけたことをお詫びした上で、「体調が悪い中でもできることはしようと思っていました」と話しています。人生を懸けた対局に万全の状態で臨めなかったことは残念に思いますが、残り3局で2勝すれば夢が叶います。次局は昨年度の新人王戦に優勝して鮮烈なデビューを飾った上野四段が試験官となりますが、「その時々の自分の実力が出せる状態に持っていきたいなと思っています」と話しており、正念場となる一局に西山女流三冠らしい将棋が指せるよう応援していきたいと思います。


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