「観る将」が観た第65期王位戦七番勝負第四局
8月19-20日、伊藤園お~いお茶杯第65期王位戦七番勝負第四局が、佐賀県唐津市の洋々閣で行われました。ここまで2勝1敗の藤井聡太王位がリードを拡げるのか、渡辺明九段がタイスコアに戻すのか、注目の一局となりました。
前日に行われた会見では、藤井王位は「王位戦もシリーズの中盤に差し掛かるという所で大きな一局だと思うので、2日間通して集中して全力を尽くしたいと思っています」、渡辺九段は「ここまで黒星が先行しているので、五分に戻せるよう頑張りたい」と意気込みを話しています。
渡辺九段は矢倉を採用
落ち着いた雰囲気の対局室に渡辺九段が明るい青緑の着物に灰色の袴と白い羽織で入室し、続いて藤井王位が白い着物に細い縦縞の袴と灰緑の羽織で入室します。先手の渡辺九段が最近は減っていた矢倉を採用し、早々に5筋の歩を突いて角を引き、2筋の歩を交換して角で取って王手すると、藤井王位は玉を4筋に寄ってかわします。
藤井王位は飛車を5筋に転回
渡辺九段は角を4筋の好所に引き、藤井王位が2筋に歩を打って飛車の直射を遮ると、7筋に金を上がって陣形を整えます。藤井王位は桂を7筋に跳ねてから飛車を5筋に回し、渡辺九段が3筋に桂を跳ねると、お互いに金銀を繰り出して戦機を探ります。渡辺九段が角を5筋に引き、藤井王位が次の38手目を考慮中に昼休となりました。各8時間の持ち時間の内、残り時間は藤井王位が6時間12分、渡辺九段が6時間41分となっています。
長考の応酬
一見、桂を跳ねて角銀両取りが掛かりそうですが、銀桂交換になると先手に桂の使い道が多いようなので、藤井王位は昼休を挟む39分の長考で5筋の歩を突き捨てて銀で取ります。渡辺九段が48分の長考で玉を8筋に入城すると、藤井王位は再び長考に沈みます。ABEMAのAIは△5六歩と角頭を叩く手を推奨していますが激しい展開が予想され、先手が有望と思われる変化も多いため指し辛いと解説されています。
藤井王位の踏み込み
藤井王位は51分長考してAIの推奨手を指し、評価値は後手の55%とわずかに傾いています。渡辺九段も意表を突かれたか大長考に沈み、157分考えたところで次の43手目を封じました。残り時間は藤井王位が5時間15分、渡辺九段が3時間12分と2時間程の差が付いています。
渡辺九段の辛抱
渡辺九段の封じ手は、角を取られないためには一択の、8筋の歩を取ってかわす手でした。藤井王位が飛車を下段に引くと、先手が角を切って2-3筋から攻め掛かる順が検討されていましたが、渡辺九段は右銀を5筋に引いて角の逃げ場所を作って辛抱します。藤井王位は飛車を8筋に回して角に当て、渡辺九段が4筋に作った逃げ場所に角をかわすと、43分の熟考で6筋に桂を跳ねます。
藤井王位の端角
渡辺九段は銀を上がって5筋を受け、藤井王位が銀桂交換してから△1三角と覗くと、5筋の「敵の打ちたいところ」に歩を打って催促します。藤井王位は構わず7筋の歩をぶつけ、渡辺九段が次の55手目を考慮中に昼休となりました。AIの評価値は藤井王位の65%と傾き、残り時間は藤井王位が2時間52分、渡辺九段が2時間15分となっています。
藤井王位が角切りの猛攻
昼休が明けると渡辺九段は同歩と応じ、藤井王位が5筋の歩を成ると、角で取ります。藤井王位は角を交換してから飛銀両取りに△3九角と打ち、渡辺九段が飛車を5筋に回して銀に紐を付けると、7筋の金頭を歩で叩いて吊り上げ、飛金両取りの割り打ちに銀を打ちます。渡辺九段は飛車を引いて角に当てますが、藤井王位は銀で金を剥がしてから△5七角成と銀を食いちぎって畳み掛けます。
ギリギリの攻防
渡辺九段は飛車で馬を取り、藤井王位が△5六銀打と飛車に当てると、下段に引いてかわします。AIは後手が一手緩めると逆転模様となることを示していますが、藤井王位は王手で銀を6筋に捨てて玉で取らせてから、飛車を8筋に飛び込んで竜で王手し、最善手を続けて先手玉に迫ります。渡辺九段は銀で合い駒し、藤井王位が△5六歩と垂らすと、31分熟考してもう1枚の銀を打って5七の地点を補強します。
玉の早逃げ
藤井王位は6筋に金を打って金交換し、渡辺九段が玉を5筋に早逃げすると、34分の熟考で6筋に銀を繰り出してぶつけます。渡辺九段が更に玉を4筋に早逃げすると、藤井王位は銀交換してから先手玉のコビンに銀を打って王手します。両者とも残り1時間を切り、渡辺九段は玉を3筋にかわし、藤井王位が7筋の銀を取ると、ずっと守りにしか働いていなかった飛車で歩を取って後手陣を睨みます。
渡辺九段の勝負手
藤井王位が竜で桂を取ると、ようやく攻める手番を得た渡辺九段は後手玉の逃げ道を塞ぎつつ竜取りに▲2二角と勝負手を放ちます。この角はタダで取れますが、取ると後手玉には長手数の即詰みが生じますし、もちろん竜を逃げる余裕もありません。
とどめは焦点の歩
起死回生の一手かとも思われましたが、藤井王位は△2六桂と王手してから、飛車と角の焦点に歩を打って竜取りを防ぎます。これは後手が優勢を維持する唯一の好手順だったようで、渡辺九段は少し肩を落として飛車で歩を取ってからいったん席を外し、藤井王位が飛車取りに銀を打つと、構わず桂で王手してから4筋に桂を跳ねて金に当てます。先手玉には即詰みが生じており、藤井王位が金で王手すると、渡辺九段はすぐに投了を告げました。
まとめ
本局は渡辺九段自身が昨年に指した将棋と同一の手順で始まりましたが、封じ手直前の前例を離れた辺りで何か誤算があったのか、封じ手以降は藤井王位が一方的に攻め続ける展開となりました。ABEMAでは早い終局もあり得ると解説していましたが、渡辺九段は辛抱を重ねて決め手を与えず、後手が対応を誤れば一気に逆転という勝負手を放ちました。ABEMAの解説陣が慌てて対応を検討する中、藤井王位は何事もなかったかのように最善手を指し続け、先手玉を鮮やかな即詰みに仕留めました。
対局後、防衛そして永世称号獲得まであと1勝となった藤井王位は「第五局は来週すぐにあるので、しっかり対局に向け状態を整えていきたいと思います」と、いつも通り淡々と話しました。「先手番としては拙い将棋を指してしまった」と反省を口にした渡辺九段は、「あまり日程はないですけど、できる準備をして臨むしかないかなと思います」と話しており、次局が熱戦となるよう期待したいと思います。
本稿は「お~いお茶杯王位戦における棋譜利用ガイドライン」に従っています。 (https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#oui)
伊藤園お~いお茶杯第65期王位戦第四局 主催:新聞三社連合、日本将棋連盟