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「観る将」が観た第55期新人王戦決勝三番勝負第一局

10月4日、新人王戦決勝三番勝負第一局が関西将棋会館で行われました。新人王戦は、26歳以下で六段以下の棋士、女流棋士4名、アマチュア1名、奨励会三段リーグ上位者によるトーナメント戦で、決勝のみ三番勝負が行われます。若手にとっては登竜門とも言うべき棋戦で、過去の優勝者には羽生善治九段や森内俊之九段、渡辺明九段、藤井聡太竜王名人、伊藤匠叡王らが名を連ねています。

今期の決勝三番勝負は、服部慎一郎六段と高田明浩五段の顔合わせとなっています。

服部六段は2020年4月プロ入りの25歳です。第53期の新人王で、加古川青流戦でも優勝経験があります。既に王将リーグ入りや王位リーグ入りも経験しており、タイトル戦登場も期待されています。昨年度はやや不振でしたが、今年度は18勝2敗と勢いを取り戻してきたようで、今期の新人王戦では、山下三段、齊藤(裕)四段、廣森三段、川村三段を降しています。

高田五段は2021年4月プロ入りの22歳です。藤井竜王名人や伊藤(匠)叡王と同学年であり、まだ目立った活躍はありませんが、新人王戦優勝からタイトルホルダーに駆け上がっていった2人の背中を追いかけたいところだと思います。今年度の成績は15勝7敗で、今期の新人王戦では、古井三段、柵木四段、原アマ、上野四段を破って決勝に駒を進めています。


服部六段の矢倉に高田五段が仕掛け

振り駒で先手となった服部六段が矢倉を選択すると、高田五段は急戦調の駒組みを進め、5筋の歩を交換してから飛車を5筋に回します。服部六段が▲4六銀とぶつけて角を引かせ、飛車先の歩を交換すると、高田五段は△5六歩と垂らします。服部六段が手堅く▲5八歩と受けると、高田五段は歩で飛車を追い返してから、△4四歩と突きます。

服部六段の反発

服部六段は▲5九金と陣形を引き締め、高田五段が△4三銀と歩を支えると、3筋の歩をぶつけます。次の40手目を高田五段が考慮中に昼休となりました。各3時間の持ち時間の内、残り時間は服部六段が2時間32分、高田五段が1時間30分と1時間近い差が付いています。

天王山の角

高田五段が昼休を挟む28分の熟考で7筋の歩を突き捨ててから4筋の歩を伸ばし、銀で取らせてから飛車取りに△5五角と出ると、服部六段は飛車を1筋にかわして辛抱します。高田五段は銀取りに△8五桂と跳ね、服部六段が銀を8筋に引いてかわすと、3筋でぶつかっていた歩を取り込みます。

高田五段が角切りの強襲

服部六段は▲3五同角と応じ、高田五段が銀取りに△3三桂と跳ねると、▲5六銀と垂れ歩を取ってかわしつつ角に当て返します。ここで角と銀2枚を交換して強襲する手もあったようですが、高田五段は△7七歩と金頭を叩き、服部六段が桂で取ると、△7七同角成と食いちぎり、△5六飛と走って銀を取ります。駒割りは角と銀桂の2枚替えとなり、形勢はほぼ互角の範囲で揺れています。

服部六段の2枚馬と高田五段の竜

服部六段は取られそうな銀を▲6六銀とかわし、高田五段が△3六飛と角に当てつつ飛成を狙うと、▲5三角成と馬を作ります。高田五段は銀で馬を追ってから△3九飛成と竜を作り、服部六段がもう1枚の角を王手香取りに▲7三角と打ち込むと、△4二玉とかわします。服部六段が取れる香を取らずに▲8四角成と2枚目の馬を作って桂に当てると、高田五段は△4三金と上がって馬に当てます。

服部六段が馬切りから攻勢

服部六段が▲4三同馬と金を食いちぎり、もう1枚の馬で桂を取って銀に当てると、高田五段は銀を引いてかわします。服部六段は▲3四歩と桂頭を叩き、高田五段が△4五桂と跳ねてかわすと、▲3七桂打と桂交換を狙います。残り30分となった高田五段は△3六角と打ち、服部六段が桂交換すると、角で取ります。服部六段は角取りに▲3七桂と跳ね、竜で取らせて自陣の脅威を緩和してから▲3三金と王手します。

飛車と竜の取り合い

高田五段は玉を5筋に上がってかわし、服部六段が▲4三金と銀と交換してから竜角両取りに▲4六銀と打つと、△1八角成と飛車を取ります。服部六段は銀で竜を取り、高田五段が△5四馬と引き付け、△5六桂と打って先手玉の可動域を狭めると、▲4六銀~▲5七銀右と引き付けて守りを固めます。高田五段は△8九飛と王手し、服部六段が桂で合い駒すると、△7六桂と打って攻め駒を足します。後手が攻め込んでいますが先手陣はまだ固く、形勢はわずかに先手に傾いてきたようです。

高田五段が1分将棋へ

服部六段が▲7七銀と引いて受けると、1分将棋に突入した高田五段は△6八銀と王手で打ち込んで殺到します。先手の金銀と後手の銀桂桂の交換となり、高田五段が再度銀取りに△5六桂と打つと、服部六段は▲8六馬と引いて守りに利かせます。高田五段は△4八銀と攻め駒を足し、服部六段が▲5七銀打と補強すると、△5五馬と上がって攻防に利かせます。

一瞬の大チャンス

服部六段は馬取りに▲2五飛と打ち、高田五段が△2二馬とかわしつつ飛成を防ぐと、▲5六銀と桂を取ります。高田五段は△8八金と打って詰めろを掛け、服部六段が▲5五桂と王手しつつ馬の利きを止めると、△3四玉と上がって飛車に当てます。服部六段が歩で飛車を支えると、先手玉には即詰みが生じていますが、秒読みに追われた高田五段は発見できず、△2四歩と突いて飛車に当てます。

九死に一生

九死に一生を得た服部六段は▲4六桂と王手しつつ自玉の詰みを消し、更に▲3五桂と王手で後手玉を追ってから▲2四飛と歩を取ります。高田五段が歩で先手の飛車を追ってから△9九飛成と香を補充して竜を作ると、服部六段は▲7七馬と引き付けて守りを固めます。高田五段は△8九金打と食らいつき、服部六段が馬取りに▲3四桂と跳ねると、金交換してから△3二馬とかわします。

桂3枚の寄せ

服部六段は▲4三桂左成と飛び込み、高田五段が銀で取ると、もう1枚の桂で銀を取って馬に当てます。この成桂を馬で取ると更にもう1枚の桂の利きがあって後手玉は詰んでしまうので、高田五段は△5九金と王手します。服部六段が落ち着いて同銀と応じると、先手玉に詰みはなく、後手玉は受けがないので、高田五段はここで投了を告げました。

まとめ

本局は高田五段が積極的に仕掛け、角切りの強襲から主導権を握りましたが、服部六段は徹底的に守りを固めてバランスを保ちました。高田五段は持ち時間を使い切り、攻めが切れ模様となる中で一瞬の大チャンスが訪れましたが活かせず、難を逃れた服部六段は反撃に転じて寄せ切りました。
対局後のインタビューで、先勝した服部六段は次局に向け「第一局よりも精度を上げて、良い内容の将棋を指せればと思います」と話しました。高田五段は「対戦成績や実力差を考えても苦しい番勝負だとは思っていました。ただ本局は思ったよりも善戦できたので、次は詰み逃がしだけはしないように気をつけたいなと思います」と前向きに話しています。次局も本局と同様に熱戦となることを期待したいと思います。

新人王戦は、しんぶん赤旗と日本将棋連盟が主催しています。棋譜等は下記サイトをご覧ください。


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