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「観る将」が観た第74期王将戦七番勝負第二局

1月25-26日、第74期ALSOK杯王将戦七番勝負第二局が、京都市の伏見稲荷大社で行われました。先勝した藤井聡太王将がリードを拡げるのか、永瀬拓矢九段がタイスコアに戻すのか、注目の一局となっています。

前夜祭で、藤井王将は「鳥居が二手に分かれるところで記念撮影した。将棋は分岐の分かれ道が続いているようなゲーム。一手一手しっかりと読みを入れて指したい。充実した将棋を指すことができればと思う」と挨拶しました。永瀬九段は「千本鳥居は、現地に来ると神秘的で気持ちが引き締まった。後手番で厳しいが、精いっぱい頑張りたい」と話しています。


戦型は横歩取り

狐の置物が置かれた対局室に、永瀬九段が黒鉄色の着物と深緑色の袴に若竹色の羽織で入室すると、藤井王将は黄土色の着物と灰色の袴に深紫色の羽織で入室します。後手の永瀬九段が横歩取りに誘導し、藤井王将は青野流で受けて立ちます。永瀬九段が9筋の端歩を突いて前例の少ない局面になると、藤井王将は小刻みに時間を使います。研究手順と思われる永瀬九段がほとんど時間を使わずに角を交換すると、藤井王将は39分熟考して金で取ります。

8-9筋の攻防

永瀬九段は飛車を引き、藤井王将が更に37分考えて飛車を2筋に戻すと、8筋に歩を垂らします。藤井王将は7筋の銀を立って歩成を防ぎ、永瀬九段が9筋の歩をぶつけると、7筋に桂を跳ねます。永瀬九段は9筋の歩を取り込み、藤井王将が9筋に歩を垂らして香の利きを止めると、初めて手を止めて次の38手目に30分程使って昼休となりました。各8時間の持ち時間の内、残り時間は藤井王将が5時間34分、永瀬九段が7時間16分と1時間40分程の差となっています。

永瀬九段が大長考

永瀬九段が昼休を挟む31分の熟考で3筋に桂を跳ねて飛車に当てると、藤井王将は飛車を1つ前に進めてかわしつつ9筋の歩に紐を付けます。永瀬九段は歩で飛車を追い、藤井王将が飛車を3筋に寄せると、研究を外れたのか152分の大長考で1筋の歩を突きます。藤井王将は定刻後も30分近く考え続け、75分の長考で次の43手目を封じました。AIの評価値は藤井王将の62%と傾いています。残り時間は藤井王将が3時間47分、永瀬九段が4時間8分と拮抗しています。

藤井王将の連続長考

藤井王将の封じ手は▲5六角と左右を睨む位置に据える、あまり予想されていなかった手でした。永瀬九段は7筋に角を合わせ、藤井王将が66分の長考で6筋に桂を跳ねて角交換を阻むと、9筋の歩を成り捨てます。藤井王将は更に45分熟考して金で取り、永瀬九段が次の48手目を30分以上考えて昼休となりました。AIの評価値はほぼ互角に戻り、残り時間は藤井王将が1時間56分、永瀬九段が2時間32分となっています。

再び8-9筋の攻防

永瀬九段は昼休を挟む37分の長考で9筋の金頭を叩き、藤井王将が金を引いてかわすと、9筋の香を走ります。藤井王将が37分の熟考で残り1時間となり、7筋の歩を伸ばして角に当てると、永瀬九段は角を8筋に上がってかわします。藤井王将が9筋に歩を垂らすと、永瀬九段は角を7筋に上がって飛車先を通します。藤井王将が2筋に歩を合わせて飛車で取ると、永瀬九段は△2二歩と低く歩を打って受けます。

藤井王将が角切りの攻勢

藤井王将が9筋の歩を成って飛車に当てると、取ると王手飛車があるので、永瀬九段は角を上がって作ったスペースに飛車をかわします。藤井王将が再度2筋に歩を合わせて角で食いちぎると、永瀬九段も残り1時間を切り、構わず8筋の歩を成ります。藤井王将は金で取り、永瀬九段が角で6筋の桂を取りつつ後手陣の"と金"に当てると、"と金"で8筋の桂を取ります。AIの評価値は藤井王将の62%と再び傾き始めています。

永瀬九段も角切りから反撃

永瀬九段は金で2筋の馬を取り、藤井王将が飛車で取って竜を作ると、△3二角と自陣に打って竜を追います。藤井王将は歩で竜を支え、永瀬九段が竜角交換すると、"と金"を作ります。永瀬九段は角で8筋の金を食いちぎり、藤井王将が銀で取ると、△8八飛と王手銀取りに打ち込みます。藤井王将は桂で合い駒し、永瀬九段が3筋に歩を打って自玉のコビンを守ると、8筋に歩を打って飛車を追います。

角捨てからの寄せ

永瀬九段は飛車を自陣に引いてかわしつつ"と金"を取り、藤井王将が"と金"で3筋の歩を食いちぎって玉で取らせ、▲2三角とタダ捨てしてからもう1枚の角を▲4一角と王手で打ち込むと、歩で合い駒します。藤井王将が更に玉頭を歩で叩いて吊り上げ、3筋の歩を取って馬を作ると、永瀬九段は2筋に歩を打って凌ぎます。藤井王将は馬で4筋の銀を取って攻め駒を補充し、永瀬九段が飛車で8筋の銀を取って竜を作ると、▲3四金と後手玉の腹に打ち込みます。この金を取ると1手詰めですし、1筋にかわしても馬で桂を取られると受けがなく、永瀬九段はここで投了を告げました。

まとめ

本局は永瀬九段が横歩取りに誘導して前例の少ない研究手順をぶつけましたが、藤井王将は一手一手慎重に時間を使ってわずかに優勢の局面を維持しました。藤井王将の封じ手の角はAI的には評価値を互角に戻す手でしたが、左辺で"と金"を作る戦果を挙げてから右辺を突破する起爆剤となりました。永瀬九段は角を自陣に投じて竜と交換し、先手陣に飛車を打ち込んで反撃しましたが、2枚の角を手にした藤井王将は、1枚タダ捨てしてからもう1枚の角を馬にして寄せ切りました。
連勝の好スタートを切った藤井王将は、次局に向け「今度は後手番になるので、まずは序盤で立ち遅れることがないようにしっかり準備をしていきたいと思います」と話しました。永瀬九段も「先後が決まっているので、第三局も準備して頑張りたいと思います」と話しており、熱戦となるよう期待したいと思います。

ALSOK杯王将戦は、毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟が主催し、ALSOKが特別協賛、囲碁将棋チャンネル、立飛ホールディングス、inゼリー、富士フイルムが協賛しています。棋譜は公式サイトをご覧ください。

本稿は「王将戦における棋譜利用ガイドライン」に従い、利用許諾を得ています。 (https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#ousho)

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