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「観る将」が観た第80期順位戦B級1組 藤井二冠1回戦

5月13日に行われた順位戦B級1組1回戦、藤井聡太王位・棋聖と三浦弘行九段の対局の感想です。

B級2組から昇級したばかりの藤井二冠ですが、1-2回戦でA級から降級したばかりの強敵との連戦が組まれました。13名が総当たりで2枠しかない昇級を目指すB級2組で、スタートダッシュを決めて欲しいところです。

三浦九段はA級在籍通算19期の強豪で、羽生七冠を倒しての棋聖位獲得や、名人挑戦経験もあります。本局が今年度最初の対局で、少し実戦の間隔が開いているのが気になります。

両者のこれまでの対戦成績は藤井二冠の2勝1敗で、2月に行われた朝日杯決勝で藤井二冠が逆転勝利を収めて3度目の優勝を飾ったのは記憶に新しいところです。

本局は、作戦家の三浦九段が後手番でどのような作戦を採用するか注目されましたが、横歩取りの将棋となりました。藤井二冠が青野流に構え▲3七桂と跳ねると、三浦九段は飛車取りに△2三金と上がります。この手順は、3月に藤井二冠と対局した松尾八段が指した手順と同じであり、三浦九段は事前に研究していたようで、あまり時間を消費せずに指し進めます。しかし松尾八段戦で序盤は「失敗したかと思った」と語っていた藤井二冠が先に変化し、角交換から▲7七桂と跳ねます。

三浦九段は△4四角から再度角交換して、藤井陣の6七の地点に空間を作ります。更に2筋に歩を垂らして、藤井陣の4九の位置にいた金を3九に移動させ、巧みに藤井陣に傷を作っていきます。どこまで三浦九段の事前研究だったかわかりませんが、玉型が薄くなった藤井二冠は強く攻め合うことを避け、お互いに飛車を取り合った後▲5六馬と引いて辛抱します。

夕休時点のAI評価値は藤井二冠が48%とほぼ互角になっていましたが、休憩を挟んで1時間近く長考した藤井二冠は、持ち駒の飛車を▲8五飛と打ちます。その後の展開を検討していた、ABEMA解説の遠山六段は「先手自信ない」と解説しています。対局後に藤井二冠も「一方的に飛車を手放してからは苦しくなってしまった」と、この手を後悔しているようでした。

ABEMA解説陣が「先手が悪くなる変化が多い」という通り、AI評価値は徐々に三浦九段に傾き70%を越えました。藤井二冠は背中を丸めて俯いています。本田五段は「後手に色々な攻め筋があるので、数字以上に形勢が傾いているように感じる」と解説しています。藤井二冠の師匠の杉本八段も、なんとか先手が良くなる手順を探っていますが発見できません。

藤井二冠は相手の角道を止め、金取りになる▲5六桂と打ちます。三浦九段は△5五金と力強く前進しますが、藤井二冠の▲2二角を見て△4五金と横に逃げます。この手はAIの推奨手でしたが、直前に指した手を否定するような手であり、杉本八段は「神が2人いましたね」と驚いています。形勢は60%程度と少し詰まりましたが、三浦九段が何とか踏みとどまりました。

続いて三浦九段が△2五角と出ると、藤井二冠は8九に引き下がっていた飛車を再度▲8五飛と活用します。杉本八段が「神の手返しですか」と評したこの手が、三浦九段の読みを外す勝負手だったのかもしれません。三浦九段は残り少ない持ち時間の中、14分程考えて△4六桂の王手から相手陣に殺到しますが、藤井二冠は飛車で相手の角を外します。三浦九段は△3七飛と打ち込み、更にもう1枚の飛車を取って△4八飛打と迫力ある攻撃を続けますが、藤井二冠に金を縦に2枚重ねて受けられると切れ模様となってきました。AI評価値もついに逆転しています。

三浦九段は飛車を1枚切って竜を作りますが、藤井二冠は▲6五歩から待望の反撃です。三浦九段は時々頭を抱えながら藤井玉を攻め、詰めろを掛けて下駄を預けます。藤井二冠は慎重に確認してから▲6三歩成と王手を掛けましたが、既に即詰みが生じていたようです。自玉の詰みを当然承知している三浦九段はもう1手指しましたが、藤井二冠が桂で王手を掛けると投了を告げました。

本局は三浦九段の事前研究が奏功し、中盤まではかなり優勢の局面を築きました。藤井二冠は辛抱の時間帯が長く続きましたが、相手の攻めを切らして反撃に転じてからは、いつも通り鮮やかな寄せを魅せました。前期の順位戦では、中盤に得たわずかなリードを徐々に拡大し危なげなく押し切る展開が多かった藤井二冠ですが、久しぶりにリードされた状態から粘って逆転する展開となりました。「鬼のすみか」と呼ばれるB級1組での厳しい戦いを暗示するような激闘だったと思います。

藤井二冠は、B級1組の初戦で難敵を降して白星発進となりました。順位戦の連勝記録も単独2位の22まで伸びました。対局後に「今後も厳しい相手が続くと思うので、一層気を引き締めていかなければならないと思う」と語った通り、B級1組に楽な相手は1人もいません。2回戦もA級から降級したばかりの強豪稲葉八段との対局となりますが、1期抜けを目指して勝ち星を積み上げていくことを期待しています。

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