「観る将」が観た西山女流三冠の棋士編入試験五番勝負第三局
11月8日に、西山朋佳女流三冠の棋士編入試験五番勝負の第三局が関西将棋会館で行われました。ここまで1勝1敗の西山女流三冠にとって、何としても負けられない重要な一局となりました。
第三局の試験官となる上野裕寿四段は、2023年10月プロ入りの21歳で、プロ入り後の通算成績は25勝12敗です。デビュー直後に新人王戦に優勝し、今年度は加古川青流戦でも優勝しています。今回の5人の試験官の中でプロ入り後の実績は突出しており、西山女流三冠にとっては難敵ですが、勝てば夢の実現に大きく近づくと思います。両者は三段リーグ時代に1度対局しており、西山女流三冠が勝っています。
西山女流三冠は四間飛車
後手の西山女流三冠が角道を止めて四間飛車に振ると、上野四段は少し意外そうな表情を浮かべましたが淡々と駒組みを進め、▲6六角~▲8八銀とミレニアムを匂わせます。西山女流三冠が△6二銀と上がり、歩を突いて先手の角に圧力を掛けると、上野四段は8筋の歩を突いて▲8七銀と上がり銀冠を目指します。
西山女流三冠が6筋位取り
西山女流三冠は向かい飛車に振り直し、上野四段が4筋の歩を突くと、△6五歩と伸ばして先手の角を5筋に引かせます。次の40手目を西山女流三冠が考慮中に昼休となりました。形勢はほぼ互角、各3時間の持ち時間の内、残り時間は上野四段が2時間1分、西山女流三冠が2時間20分となっています。
上野四段の仕掛け
昼休が明けると西山女流三冠は銀を7筋に上がり、上野四段が▲4七銀と上がると、更に△6四銀と上がって位を支えます。上野四段は27分の熟考で4筋の歩を突き捨てて▲4五同桂と跳ね、西山女流三冠が△4四角とかわすと、2筋の歩を交換して飛車をぶつけます。後手陣は飛車を打ち込まれる隙が多いので、西山女流三冠は△2三歩と打って飛交換を避け、上野四段が飛車を下段に引くと、5筋の歩をぶつけます。AIの評価値は上野四段の56%とわずかに傾いています。
西山女流三冠の辛抱
上野四段は▲4六歩と打って桂を支え、西山女流三冠が5筋の歩を取り込むと、銀で取ります。西山女流三冠は△5四銀と繰り出し、上野四段が▲4八角と引くと、22分の熟考で△2四歩と突いて先手の角の動きを牽制します。上野四段が20分の考慮で残り1時間を切り、▲5三歩と垂らすと、西山女流三冠は△5一歩と打って辛抱します。先手の大駒が押さえ込まれ、AIの評価値はほぼ互角に戻っています。
上野四段の角が躍動
上野四段は3筋の歩をぶつけ、西山女流三冠が角で取ると、飛車を3筋に寄せて後手の角の動きを牽制します。西山女流三冠は桂取りに△4四歩と打ち、上野四段が9筋の歩を突き捨ててから▲9三歩と垂らすと、堂々と香で取ります。上野四段は6筋の歩を突き捨てて▲6六同角と飛び出し、西山女流三冠が△6五歩と打って角を追うと、▲3五飛と角と刺し違えてから▲4四角と歩を取って飛車に当てます。
西山女流三冠の勝負手
西山女流三冠も残り1時間を切り、飛車を1筋に寄って角成を防ぐと、上野四段は駒音高く▲8五桂と跳ねて香に当てます。西山女流三冠は△9四香とかわし、上野四段が▲2二歩と桂取りに打つと、△4三歩と打って角を追い、△4五銀と桂を食いちぎり、金の両取りに△6六桂と打って攻め合いに勝負を賭けます。ほぼ互角の範囲で揺れていたAIの評価値は、上野四段の69%と大きく振れます。
上野四段が飛車を捕獲
上野四段は▲2一歩成と香を取り、西山女流三冠が7筋の金と桂を交換してから△7五歩とぶつけると、▲2二"と"と引いて飛車を捕獲します。西山女流三冠は7筋の歩を取り込んで角に当て、上野四段が▲3三角成とかわしつつ馬を作ると、△7七金と王手で打ち込みます。上野四段は銀で取って清算し、西山女流三冠が△6九飛と打ち込むと、▲7八玉と引いて飛車に当てます。
鮮やかな銀捨てからの寄せ
西山女流三冠は△1九飛成と香を取って竜を作り、上野四段が"と金"で飛車を取ると、△7五香と王手します。上野四段が玉を6筋に寄ってかわすと、西山女流三冠は△7七銀~△1七竜と王手を続け、△8六銀成と桂に当てて下駄を預けます。上野四段が▲9一銀と王手で捨て、▲9三歩と垂らして詰めろを掛けると、先手玉には寄りがなく後手玉の受けも難しくなり、西山女流三冠はこの局面で投了を告げました。
まとめ
本局は西山女流三冠が珍しく四間飛車を採用し、上野四段は意表を突かれながらも機敏に仕掛けて主導権を握りました。西山女流三冠は先手の大駒を押さえ込んでバランスを保ち、上野四段が飛角交換して角を解き放つと、銀で桂を食いちぎって攻め合いを選択しました。上野四段は落ち着いて後手の攻勢を凌ぎ、銀捨てから鮮やかに寄せ切りました。
試験官の上野四段は「試験官というのは非常に難しい立場だということは感じていたんですけど、そういう中で自分の力がどれだけ発揮できるかが大事かなという気持ちでこの対局に臨みました」と話し、西山女流三冠を「中盤では押さえ込まれる展開で苦しいと感じていたので、そこは西山さんの強さだったのかなと思います」と評しました。
1勝2敗とカド番に立たされた西山女流三冠は「新しいことを試して結構充実感もありましたので、次回も課題を持って挑めれば良いなと思います」話しており、夢の実現に向け力を出し切って欲しいと思います。
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