「観る将」が観た西山女流三冠の棋士編入試験五番勝負第一局
9月10日に、西山朋佳女流三冠の棋士編入試験五番勝負の第一局が東京将棋会館で行われました。女性として棋士編入試験に臨むのは、里見香奈女流五冠(現姓福間)に次いで2人目となります。3勝して合格すれば将棋界初の女性棋士誕生となる、非常に注目度の高い一局となりました。
西山女流三冠は、7月4日に行われた朝日杯一次予選1回戦に勝ち、棋士編入試験の資格を得ました。直前の6月23日に放映されたNHK杯では木村一基九段を破り、昨年度の朝日杯ではダブルタイトル戦に挑んだ佐々木大地七段を倒すなど、その実力を十分に示しています。今年度の女流棋戦では20勝2敗と絶好調で、8月31日に行われた白玲戦第一局で福間女流五冠に勝ち、9月6日に行われた女流王座戦の挑戦者決定戦では香川女流四段を圧倒して挑戦権を獲得しています。
第一局の試験官となる高橋佑二郎四段は、2024年4月にプロ入りしたばかりの25歳で、プロ入り後の通算成績は6勝4敗です。順位戦C級2組では9月5日に行われた4回戦に勝って3勝1敗と、大幅に順位を上げそうな勢いです。
西山女流三冠は三間飛車
紺のスーツ姿で入室した西山女流三冠は、少し俯き加減で対局開始を待ちます。報道陣が大勢いる場での対局は初めてと思われる高橋四段は、振り駒で先手と決まり、対局開始を告げられると、少し緊張した表情で飛先の歩を突きます。西山女流三冠が6手目に三間飛車に振り、美濃囲いに構えると、高橋四段は持久戦調の駒組みを進めます。
高橋四段の仕掛け
西山女流三冠が△3四飛と浮くと、高橋四段は▲2六飛と浮いてから▲6八角と引き、後手の飛頭を睨みます。西山女流三冠は4筋の歩を伸ばし、高橋四段が▲4六歩とぶつけて取り込むと、△4五同銀と応じます。高橋四段は5筋の歩を伸ばして後手の銀の退路を断ち、次の42手目を西山女流三冠が考慮中に昼休となりました。AIの評価値はほぼ互角、各3時間の持ち時間の内、残り時間は高橋四段が2時間5分、西山女流三冠が2時間11分と拮抗しています。
西山女流三冠の反発
西山女流三冠は昼休を挟む40分の長考で、6筋と3筋の歩を突き捨ててから5筋の歩をぶつけ、高橋四段が▲6六銀と上がって6筋の歩を支えると、△4六歩と垂らします。高橋四段は▲4八歩と受け、西山女流三冠が飛車取りに△5三角と上がると、飛車を引いてかわします。西山女流三冠は△3六飛と走り、高橋四段が▲3七歩と打って追い返し、2筋の歩を突き捨ててから▲8六角とぶつけると、△4四角とかわします。
高橋四段の馬
高橋四段は▲3一角成と馬を作り、西山女流三冠が△2五桂と跳ねて飛車の利きを角に当てると、▲7五馬と引き付けます。西山女流三冠は5筋の歩を取り込み、高橋四段が7筋に桂を跳ねると、△5三角と引いて馬にぶつけます。高橋四段は馬角交換に応じてから飛車取りに▲2三角と打ち、西山女流三冠が△3五飛と浮いてかわすと、▲4一角成と再度馬を作ります。ほぼ互角が続いていたAIの評価値は、西山女流三冠の59%とわずかに傾いてきました。
飛車の取り合い
西山女流三冠は△5六銀と金にぶつけ、高橋四段が▲4二馬と引いて金に当てると、金銀交換してから△6二金打と金銀4枚の堅陣を築きます。高橋四段が▲2四馬と引いて飛車に当てると、西山女流三冠も△3七桂成と飛車に当て返し、お互いに飛車を取り合います。高橋四段が▲5四歩と金頭を叩いて引かせてから9筋の歩をぶつけると、手抜いて成桂で2筋の桂を取ります。
高橋四段が馬切りの強襲
両者とも残り1時間を切り、AIの評価値はほぼ互角に戻って揺れています。駒損となった高橋四段は17分考えて▲6二馬と金を食いちぎってから▲9四歩と端歩を取り込み、西山女流三冠が歩で香を吊り上げ△9五歩と叩くと、▲8五桂と跳ねて詰めろを掛けます。素人目には先手の強襲が決まったかに見えますが、AIの評価値は西山女流三冠の70%と再び傾いています。
西山女流三冠のタダ捨ての角
西山女流三冠は△9七角と王手しつつ守りにも利かせます。この角はタダで取れますが、取ると歩で王手されて後手玉の詰めろが消えるので、高橋四段は▲9八玉と最善手でかわします。西山女流三冠が△9六歩と香を取って角に紐を付けると、残り10分となった高橋四段は秒読みの中、▲9三銀と王手で放り込んで清算し、▲9一飛と王手を続けます。
難解な終盤戦
西山女流三冠は口元にハンカチを当てながら考えて香で合い駒し、高橋四段が▲9五香と王手すると、桂で合い駒します。高橋四段は香で桂を取って王手し、西山女流三冠が△8四玉とかわすと、▲9二香成と桂を取ります。AIの評価値は西山女流三冠の98%と大きく傾いていますが、どちらの玉も一手間違えれば詰んでしまう難解な終盤戦が続いています。
激しく揺れ動くAIの評価値
西山女流三冠は△4二角成と馬を作って詰めろを掛けますが、AIの評価値は高橋四段の58%と大逆転を示しています。高橋四段は残り2分まで考えて▲8六桂と馬の利きを遮断し、詰めろ逃れの詰めろで応じますが、金を手放して王手する手が勝ったようで、AIの評価値は西山女流三冠の87%と再び大きく振れます。西山女流三冠は残り5分を切り、秒を読まれながら△9七歩成と成り捨て、△9六銀と王手で先手玉を引かせてから、△8六馬と桂を食いちぎります。
打ち歩詰めの形
この馬を取ると先手玉は詰んでしまうので、高橋四段は▲8五香と王手し、西山女流三冠が△9五玉とかわすと、▲9四金とタダ捨てし、▲9三成香と追ってから▲8六歩と王手で馬を取ります。西山女流三冠は△7四玉と引き、高橋四段が歩の王手を続けてから▲7六角と攻防に打つと、角取りに△8四桂と打ちます。高橋四段は▲6五銀と王手しますが、西山女流三冠が△6三玉と引くと、打ち歩詰めの形となり後手玉は詰みません。
激闘の終焉
高橋四段が▲8五角と王手で銀と交換して詰めろを掛けると、先手玉には即詰みも生じたようですが、西山女流三冠はわずかに震える指で△6四歩と打って手堅く詰めろを逃れます。後手の駒台には飛角2金桂香歩3と並んで先手玉には受けがなく、後手玉に迫る手段も尽きた高橋四段はここで投了を告げました。
まとめ
本局は持久戦模様の将棋となりましたが、高橋四段が仕掛けに西山女流三冠が反発し、お互いに飛車を取り合ってからは一気に激しい終盤戦に突入しました。わずかに劣勢を感じた高橋四段は馬切りから端攻めで後手玉に迫りましたが、西山女流三冠は怯まずタダで取られる位置に攻防の角を放ってリードを保ちました。AIの評価値が激しく揺れ動く白熱の攻防が続きましたが、最後は西山女流三冠が正確な受けで逃げ切りました。
132手の激闘を制した西山女流三冠は、対局後「5人の方々はそれぞれ全然違った武器で四段になられた方々ですので、またここから一局一局準備して当日に全力を尽くせるように過ごすしかないのかなと思います」と話しました。力の限りを尽くして戦った両者に拍手を贈るとともに、西山女流三冠の次局以降の健闘を期待して見守りたいと思います。
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