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病気やケガ、生活が苦しい……障がいのある子とその親が頼れるセーフティネット

障がいのある方とその親が頼ることのできる社会保障制度(セーフティネット)には、状況や内容に応じたいくつもの種類があります。

親御さんの立場からすると、ご自身で情報収集や手続きができるときは問題なくても、自分や家族が亡くなったあとにお子さんをどう支えるかについては、不安を感じているのではないでしょうか。

そんな方のために、翔泳社の書籍『障がいのある子とその親のための「親亡きあと」対策』では、いまから利用できる制度、また将来に備えて知っておきたい制度を解説しています。

◆著者について
鹿野佐代子

大阪府在住。33年勤めた社会福祉法人大阪府障害者福祉事業団の「通勤寮」で、知的障がいのある人の結婚と出産後の支援をきっかけに、「性」と「お金」に関する支援の大切さに気づく。その後、性教育・金銭教育プログラムに関する研究活動を行い、ファイナンシャル・プランナーの資格を取得。現在はフリーで活動し、当事者向けに楽しく学んで実践できる性やお金の勉強会や、家族向けに親が元気なうちにできる「親亡きあとの対策」について全国で講演を行っている。
NPO法人ら・し・さ理事。保育士、幼稚園教諭二種免許、AFP・2級FP技能士、終活アドバイザー。

本書では例えば、お子さんが病気やケガをした、生活が苦しくなった、あるいはトラブルに巻き込まれて罪を犯してしまったときなどの具体的な状況を交えながら、困ったときにどんな制度を利用でき、どこの窓口に相談すればいいのかを紹介しています。

この記事ではそうした制度を抜粋して掲載しますので、参考にしていただければ幸いです。もっと詳しく知りたい方は、ぜひ本書をチェックしてみてください。

また、お子さんの老後(リタイアしたあと)の生活と必要なお金について、4つのケースをもとに解説した記事もあります。こちらにも目を通していただくことで、不安をどのように解消していけばいいのかが少しずつ見えてくるのではないでしょうか。

お金の心配の前に、使える制度を知っておく

何層にも設けられたセーフティーネット

「お金がないと、子どもは生活に困る」と心配されるかもしれません。しかし、社会保障制度には、生活に困っている人に対してさまざまな手厚い支援があります。

例えば、病気やケガで障がいのある状態になった場合、請求手続きによって障がい年金を受給できます(子が20歳未満の場合は、20歳になったときに手続き)。受給額は、障がい基礎年金なら月額で1級
が8万1,020円、2級が6万4,816円です。要件を満たせば障がい基礎年金に上乗せして、障がい年金生活者支援給付金ももらえます(月額5,020~6,275 円)。

さらに、精神または身体に著しく重い障がいがあり、日常的に特別な介護がいる人(在宅で20歳以上)には、特別障がい者手当の支給もあります(月額2万7,300円)。

「病気やケガなどで不測の出費があるかもしれない」という心配もあるでしょう。ですが、健康保険により医療費の自己負担は3割。入院や手術で医療費が高額になっても、高額療養費制度により、収入に応じた自己負担額以上を支払う必要はありません。

継続的な治療が必要であれば、自立支援医療という公費負担医療制度があります。重度障がい者の場合は、重度障がい者医療費助成制度を申請して障がい者医療証の交付を受ければ、保険診療の自己負担の一部が助成されます(市区町村によっては無料の場合も)。

就労しているお子さんが失業したとしても雇用保険があり、失業手当や職業訓練で給付金を受け取れます。離職により生活が困窮しても、働く意思がある人に対しては、自立を促す一時的な支援として生活困窮者自立支援制度があります。

世帯全員の資産や能力その他あらゆるものを活用しても生活が維持できない場合には、生活保護が支給されます。

さらに、あまり想像したいことではありませんが、障がいのある子がトラブルに巻き込まれるなどして罪を犯してしまったら……。その場合も、地域生活定着促進事業という制度があります。障がいのため釈放後に自立した生活が困難な人や釈放後の行き場のない人が、福祉サービスを受けられます。

「子にお金をいくら残すか」「親亡きあとのために何を対策すべきか」を考えるときは、まずこうしたセーフティーネットの存在を知っておくと、「福祉とつながってさえいれば何とかなる」という安心感が得られます。

病気やケガをしたときは?

公的医療保険

国民皆保険制度がとられている日本では、国民健康保険、被用者保険(協会けんぽ、健康保険組合、共済組合など)、後期高齢者医療制度があり、誰もが何らかの公的医療保険に加入することになっています。病院の窓口で健康保険証を提示すると、医療費の自己負担は1~3割ですみます。

とはいえ、入院や手術をすると医療費が高額になり、自己負担が1~3割でも数十万円になってしまうことも。ですが、公的医療保険には高額療養費制度があり、医療機関や薬局で支払った額がひと月(月のはじめから終わりまで)で上限額を超えた場合に、その超えた金額(入院時の食事代や差額ベッド代等は含まず)が支給されます。

上限額は年齢や所得によって異なり、所得が高い人は自己負担額の上限が上がり、所得が低い人は上限が下がります。

以前、筆者が入院して腹腔鏡による手術を受けた際、約100万円の医療費がかかりました。ですが、健康保険の3割負担や高額療養費制度により約9万円の支払いですみました。

さらに、筆者の職場の福利厚生により入院手当を受け取ったので、実際の支払い額は約7.7万円でした。

【窓口】住所地の市区町村役場
入院や手術が決まったら、市区町村の窓口で限度額適用認定証を申請し、交付を受けておきます。医療機関でこの認定証を保険証とあわせて提示すると、窓口での支払いが自己負担限度額までとなります。

医療機関での支払いを終えたあとで市区町村役場に申請しても、限度額を超えた分の払い戻しが受けられますが、一時的とはいえ高額な支払いをするのは負担なので、事前に認定証をもらっておくとよいでしょう。

自立支援医療制度(精神通院医療)

治療が長期に及ぶと「薬代がもったいないから」と通院をやめてしまう人もいます。そのせいで病気が重症化したり、治療が長引いたりすることもあります。

そうした事態を防ぐため、自立支援医療制度では、指定医療機関で医療を受ける際の患者の負担が過大にならないよう、所得に応じてひと月あたりの自己負担額が軽減されます(自己負担免除の自治体もあり)。通院で生じる医療費(診療や薬代)や、往診・デイケア・訪問看護などに適用されます。

〈自立支援医療制度の対象者〉
統合失調症、精神作用物質による急性中毒またはその依存症、知的障がい、精神疾患を有する人で、通院による精神医療が継続的に必要な人

【窓口】住所地の市区町村役場か保健福祉センター
窓口で自立支援医療受給者証の交付を受けます。

重度障がい者医療費助成制度

健康保険に加入している重度の障がいのある人が医療機関を受診する際に、健康保険証医療証を提示すると医療費の自己負担額が一部助成される制度です(所得制限あり)。

入院中の差額ベッド代など保険診療の対象とならない費用、及び食事代は助成されません。

精神障がいのある人への助成は通院のみとなります。

〈重度障がい者医療費助成制度の対象者〉

  • 身体障がい者手帳1級または2級の人

  • 療育手帳Aの人

  • 身体障がい者手帳を持ち療育手帳B1の人

  • 精神障がい者保健福祉手帳1級の人

  • 特定医療費(指定難病)受給者証または特定疾患医療受給者証を持ち、障がい年金1級または特別児童扶養手当1級に該当する人

【窓口】住所地の市区町村役場か保健福祉センター
窓口で障がい者医療証の交付を受けます。

訪問看護サービス

訪問看護サービスは、看護師や保健師が自宅を訪問して、その人の病気や障がいに応じた看護を行うものです。子どもから高齢者まで、障がいが重くても軽くても受けられます。

主治医の指示や健康状態の悪化防止のため、療養上の世話やバイタルチェックなど診療の補助を行います。

〈訪問看護師が主にしてくれること〉

  • 健康状態の観察

  • 病状悪化の防止・回復

  • 療養生活の相談とアドバイス

  • リハビリテーション

  • 点滴・注射などの医療処置

  • 痛みや服薬管理

  • 緊急時の対応

  • 専門機関との連携

【窓口】受診している医療機関、最寄りの訪問看護ステーションや地域包括支援センター

障がいのある人がもらえるお金とは?

障がい年金

障がい年金は、知的・精神・身体障がいだけでなく、がんや糖尿病などの病気によって就労や日常生活に著しく制限を受ける状態になった場合も対象です。障がい基礎年金と障がい厚生年金の2つがあります。

障がい基礎年金

障がいの原因となった病気やケガの初診日が国民年金加入期間や20歳前などであり、障がいの等級や保険料納付の要件を満たした場合に支給される年金です(20歳前に初診日がある場合は納付要件不要)。

障がい年金生活者支援給付金

障がい年金生活者支援給付金は、障がい基礎年金の上乗せの給付金です。障がい基礎年金の支給を受けていて、前年所得額が「472万1,000円+扶養家族の数× 38 万円」以下の場合に対象となります。

特別障がい者手当

在宅の20歳以上の人で、精神または身体に著しく重度の障がいがあり、日常生活において常時特別の介護を必要とする特別障がい者に対して、精神的・物質的な負担を軽くするための支給です。

障がい厚生年金

障がいの原因となった病気やケガの初診日が厚生年金保険加入期間であり、障がいの等級や保険料納付の要件を満たした場合に支給される年金です。

就労経験のある人は老齢厚生年金もお忘れなく!

過去に厚生年金に加入した一般企業で就労経験がある人は、65歳から障がい基礎年金に上乗せして老齢厚生年金が支給されます。

老齢厚生年金の支給があるようなら、65歳からの収入がさらに増えます。将来もらえる年金額の目安は「ねんきん定期便」で確認しましょう。

障がい基礎年金と老齢厚生年金を併給するには「年金受給選択申出書」の提出が必要です。忘れずに手続きしましょう。

特別障がい給付金

国民年金に任意加入していなかったことにより障がい基礎年金の受給要件が満たせない場合、特別障がい給付金という救済制度もあります。支給されるのは次に該当する人です(障がい基礎年金や障がい厚生年金、障がい共済年金などを受給できる人は対象外)。

●1991年3月以前に国民年金任意加入対象であった学生
●1986年3月以前に国民年金任意加入対象であった被用者等の配偶者で、当時、任意加入していなかった期間内に初診日があり、現在、障がい基礎年金の1級、2級相当の障がいの状態にある人(ただし、65歳に達する日の前日までに当該障がい状態に該当し、請求した人)

*「学生」や「配偶者」の要件の詳細は、日本年金機構のホームページなどで確認してください。

【窓口】住所地の市区町村役場
請求手続きは、65歳に達する日の前日までに行います(審査・認定・支給にかかる事務は日本年金機構が行う)。

障がい者親の会などのネットワークや会報誌には有益な情報がたくさんあります。例えば、子どもが20歳になって障がい基礎年金の申請をする際に、診断書に理解のあるドクターがいる病院の情報交換なども行われています。

生活が苦しくなったときは?

経済的なセーフティーネット

離職により収入がなくなった、貯蓄がなく生活が困窮している、住んでいる家の家賃が払えない、税金を滞納している、いろんなところからお金を借りている……でも、一人ではどうにもできない、誰にも相談できない。経済的な困窮で孤独感が増してしまうこともあります。

生活困窮者自立支援制度

そのような窮地に立たされたとき、働く意思がある人に対して自立を促し一時的に支援するのが生活困窮者自立支援制度です。2015 年から始まった制度で、生活全般にわたる困りごとの相談窓口が全国に設置されています。

相談窓口では本人の状況に合わせた支援プランを作成し、専門の支援員が寄り添い、他の専門機関と連携しながら、解決に向けて支援します。

【窓口】住所地の市区町村の福祉事務所および支庁
相談窓口一覧(令和4年6月1日現在)
https://www.mhlw.go.jp/content/000936284.pdf

フードバンク

食料品そのものに問題はなくても、包装の破損や過剰在庫等により流通できない商品を、必要とする施設や生活に困窮する世帯に無償で提供する活動です。

【窓口】生活困窮者の総合窓口や支援団体のNPO 法人

生活保護制度

世帯全員の資産や能力その他あらゆるものを活用しても生活が維持できない場合には、生活保護を受けることができます。

【窓口】住所地の市区町村の福祉事務所(生活保護担当)
保護の申請をすると、保護を受けられるかどうかや、支給する保護費を決定するために、福祉事務所が訪問調査、資産調査等を行います。福祉事務所は、保護の申請から原則14日以内に生活保護について決定することとなっています。

罪を犯してしまったら?

地域生活定着促進事業

障がいのある子がトラブルに巻き込まれるなどして、罪を犯してしまうこともあるかもしれません。

矯正施設(刑務所、少年刑務所、拘置所、少年院)に収容されている人の中には、高齢または障がいのため釈放後ただちに福祉サービスを受ける必要がある人もいます。しかし、釈放後の行き場がないと必要な福祉サービスを受けることが難しくなります。

地域生活定着促進事業では、福祉的な支援を必要とする犯罪をした人などに対し、各都道府県の設置する地域生活定着支援センターが、刑事司法関係機関(保護観察所、矯正施設、留置施設、検察庁、弁護士会)や地域の福祉関係機関などと連携し、収容中から釈放後まで一貫した相談支援を行い、社会復帰や地域生活への定着をサポートします。

障がいのある人の65歳以降の生活とは?

65歳になると対象となる法律が変わる?

筆者が現役のとき、いわゆる「65歳問題」というものがありました。障がいのある人が65歳になると、それまで利用していた障がい福祉サービスから介護保険のサービスへ移行しなくてはならないケースのことです。障がい福祉サービスは障がい者総合支援法、介護保険は介護保険法というように、制度の根拠法が異なります。

65歳以上の人で、40~64歳で特定疾病による介護や支援が必要となった人で、管轄する市区町村の判断で介護保険を優先させると決定された場合、基本的に介護保険のサービスを受けることになります(当てはまるサービスが介護保険にない場合や利用者の状況によっては、障がい福祉サービスを受けることができます)。

65歳を境に、通いなれた事業所と顔なじみのスタッフが一変します。障がい福祉サービスと高齢者の介護保険サービスでは、同じ福祉でも勝手が違います。中には「今までのサービスを受け続けたい!」と泣いて、怒って、地団駄を踏みながら抵抗する人もいました。

障がい福祉と介護保険のサービスは似て非なるもの?

筆者は現役時代、障がいのある利用者のニーズをもとにサービス提供を行うサービス管理責任者でした。障がい福祉サービスに関する専門知識は持ち合わせていましたが、高齢者の介護保険サービスとなると「専門分野外」という意識でした。

福祉のプロなら障がい者福祉も高齢者福祉も詳しいと思われるかもしれませんが、実はそうでもないのです。障がい福祉サービスと介護保険サービスでは、介護の度合いを示す区分設定も違えば、サービス量や負担割合も違います。

サービス等利用計画の作成も、障がい福祉サービスでは特定相談支援事業所の相談支援専門員が担当しますが、介護保険サービスでは地域包括支援センターや居宅介護支援事業所の支援専門員、いわゆるケアマネジャーが担当します。用語も異なるため、障がい者の福祉の専門家でも介護保険サービスまで熟知しているとは限らないのです。

とはいえ、「65歳問題」のように制度が切り替わるタイミングで当事者に不利益が生じそうな場面では、「知らない、わからない」ではすまされません。また、相互の情報を知ることは、支援者として強みにもなります。

筆者も、介護保険サービスのデイケア(通所リハビリテーション)や入所施設の視察を研修に取り入れ、他のスタッフとともに見学したことがあります。視察により、自身の中のデイケアに対するイメージががらりと変わりました。

介護保険サービス施設の特徴

筆者が介護保険サービスのデイケア施設を見学した経験をもとに、一部ではありますが、それらの特徴を紹介したいと思います。

デイケアは、要介護者が老人保健施設、病院、診療所などに通って、生活機能向上のための訓練や、食事・入浴などの生活支援を受けるための施設です。運営する主体によって、さまざまな特徴があります。

医療施設が運営するデイケアは、理学療法士による運動療法が充実していて、座る、立つ、歩くという基本動作能力を維持するための取り組みが専門的に行われていました。やや殺風景な印象でしたが、病院が近くにあるので、そのまま通えるメリットがあります。

軽スポーツに力を入れているデイケアは、フットマッサージ、全身マッサージ、エアマッサージなどのマッサージ機が充実していました。ある施設では、人の身長ほどある大型モニターに本人専用の運動プログラムが映し出され、ゲーム感覚で身体を動かすことができました。天井から吊るされたハーネスを利用して、音楽に合わせて楽しく安全に全身運動ができる施設もありました。

文化活動が充実したデイケアでは、利用者さんが着られなくなった着物や端切れを手縫いして、バッグやテディベアのぬいぐるみ、タペストリーなどを作られていました。男性も参加されていて、地域の人々も紙漉きや「さをり織り」などの作品展を楽しみにしているそうです。

よい施設に巡り合うためには

誰しも、清潔感があり、言葉遣いやサービス提供が丁寧で、利用者にいつも笑顔を向けてくれるスタッフに支援してもらいたいと願います。ですが、時折、障がい者施設や高齢者施設での、スタッフによる虐待事件がニュースで報じられることがあります。そうした報道に触れると、「自分が利用している施設は大丈夫だろうか?」「施設に入所しても安心できないのではないか」と不安になるかもしれません。

不安を減らすためには、実際に自分の目で見て確認することです。親も子も元気なうちに、いくつかの施設を見学して、候補を選んでおくのが理想的です。

前述の「今までのサービスを受け続けたい!」と抵抗した人も、しぶしぶ介護保険サービスのデイケア施設を見学したところ、思いのほか気に入って「早く行きたいので手続きしてください!」と気持ちががらりと変わりました。一方で、高齢者施設では障がい特性をなかなか理解してもらえず、見学のたびに落ち込んでしまう人もいました。

見学の回数を重ねるごとに、新しい環境に慣れようとしている自分の心の変化に気づいたという人もいました。実際に足を運ぶことで、徐々に変化に慣れていくのかもしれません。

施設見学でのチェックポイントとしては、実施するプログラムの内容が本人に合っているか、スタッフや入所者の雰囲気がよいか、緊急時対応がシステム化されているか、高齢者の認知症ケアなどの知識があるか、などがあります。


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