ふたごやみつごの妊娠が分かったら、まずは知っておきたいこと
ふたごやみつご(多胎)の妊娠が分かった瞬間、喜びと同時に「どうすれば?」と不安や戸惑いを感じている方も多いと思います。
そんな方にぜひ手に取っていただきたい本が、『ふたご・みつごの安心! 妊娠・出産・子育てブック 多胎育児の基礎知識と使える制度・ノウハウ』(翔泳社)です。
本書は、多胎育児に関する悩みや疑問を一つひとつ丁寧に解消し、安心して妊娠・出産・子育てに臨めるようになるための情報を紹介しています。
たとえば、妊娠中に心がけたい過ごし方や、出産後の心と体のケア、子どもたちとの日々を豊かにするアイデア、そして活用できる行政の制度やサービスも詳しく解説しています。
今回は「妊娠が分かったらまず知っておきたいこと」として、日本での多胎出産の現状、リスクと健診、病院選び、利用できる制度について、本書から一部を抜粋して紹介します。
不安な気持ちを少しでも軽くするために、参考にしていただければ幸いです。
多胎妊娠と出産の現状
ふたごを妊娠していると知り、きっと驚いたのではないでしょうか? まずはふたごの出生数を見てみましょう。
2種類の多胎妊娠
ふたり以上の胎児を同時に妊娠している状態を「多胎妊娠」といいます(それに対して、ひとりの妊娠を単胎妊娠といいます)。また、胎児の人数に応じて双胎(ふたご)、三胎(みつご)、四胎(よつご)などと呼ばれることもあります。
多胎妊娠は、大きく2種類に分類することができます。ひとつの受精卵がふたつに分離してふたりの赤ちゃんになる一卵性と、ふたつの卵子が同時に受精してふたりの赤ちゃんになる二卵性です。
これは3人以上を妊娠している場合も同様で、例えばみつごの場合は、一卵性か二卵性か三卵性のいずれかになります。
日本における多胎出生率の増減
日本において、自然妊娠におけるふたごの出産は、出産1000に対して6組程度といわれていました。
しかし、1980年代半ばに体外受精が本格化したころから徐々に増加し、不妊治療の普及とともに2005年には出産1000に対して12組近くまで増加しました。これは不妊治療で排卵誘発剤を使用して妊娠した場合や、体外受精で複数の受精卵を子宮に戻して妊娠した場合などに、複数の受精卵が着床しやすくなるためです。
また、高齢妊娠は多胎妊娠となる可能性が高いといわれ、昨今の妊婦の高齢化も多胎妊娠の増加に影響しているといわれています。
現在は体外受精・胚移植での移植胚数を原則1個にという日本産科婦人科学会が設けた制限により多胎出産はピーク時より減少し、特にみつごの出産は激減しました。とはいえ、不妊治療が普及している傾向に変わりはなく、多胎の出産は、出産100に対して1組程度(1%)といわれています。
なお、自然に妊娠すると一卵性のふたごの出産は世界共通で同じ割合(おおよそ1000分娩中の4組が一卵性)であるといわれています。
日本人は二卵性のふたごが比較的少ない人種で、一卵性のふたごは二卵性のふたごの倍の頻度でした。しかし、不妊治療が普及した現在では二卵性のふたごが多くなっています。現在では、多胎児の約98%がふたごです。
多胎妊娠におけるリスクと妊婦健診
「膜性」は「卵性」と比べて耳にすることが少ないかもしれませんが、とても重要なことです。早い段階で正しく理解しておきましょう。
妊娠中は「膜性」が重要
ふたごを妊娠したと知った際、一卵性か二卵性かが気になる方は多いでしょう。しかし、妊娠中は卵性ではなく「膜性」の診断が重要です。
膜性とは、妊娠中におなかの中の赤ちゃんたちを隔てる膜がどのような状態なのかを表したものです。膜の状態によって、おなかの中での赤ちゃんの環境が左右され、赤ちゃんたちの発育にも直接影響します。
子宮の中には卵膜という膜の中に羊水があり、赤ちゃんはその中にいます。卵膜は三層構造になっていて、いちばん外側の一層は赤ちゃんの人数に関係なく1枚です。
一方、その内側の2種類の膜はふたりの赤ちゃんで共有する場合と、それぞれに存在している場合があります。ふたごの場合、可能性として考えられるのは下図の3種類です。
ふたりを隔てる膜が多い場合、お互いに影響し合うことは少なく、膜の数が少ない場合はお互いに影響し合う可能性が高くなり、その影響の仕方によっては赤ちゃんの命にかかわることもあります(ただし、図のいちばん下の膜性はめったに見られません)。
膜性の診断可能時期は限られている
膜性は、赤ちゃんの出生後に出てきた胎盤や卵膜などを医療者がチェックすればわかります。しかし、先ほど述べたように膜性によって妊娠中の異常の発生頻度が異なるため、妊娠初期に診断してもらうことが重要です。
診断は超音波で行われます。この診断は妊娠10週前後の限られた時期しかできないため、妊娠初期から、高度医療が可能な大きな病院にかかるように医師から促されることもあります。また、妊娠がわかったときに受診した病院によっては、その病院で膜性の診断をした後、状況に応じて高度医療が可能な病院に妊娠の途中で移ることもあります。
高度医療ができる病院が自宅から遠かったり、出産したいと思っていた病院と違っていたりして不自由を感じるかもしれませんが、ふたごの妊娠はその経過中に何らかの異常が起こる可能性が高いため、妊産婦や赤ちゃんたちの体のことを考えるとやむを得ないことです。
妊婦健診の頻度や入院について
通常、妊婦健診では、妊婦や胎児の状態をチェックし、異常が起きていないか、異常が起きる兆しがないかなどを医師が診断します。
ふたごの妊娠では、チェックする赤ちゃんの人数が多く、また赤ちゃんたちが相互に悪い影響をおよぼし合っていないかなども調べる必要があります。
また、妊婦の体への負荷も大きく、さまざまな合併症が起こりやすいため、健診でのチェックポイントは数倍になります。そのため、ひとりの赤ちゃんの妊娠よりも妊婦健診の頻度が高かったり、妊婦健診以外の受診をする必要があったりします。
妊娠中に起こりやすい合併症については本書で詳しく説明しますが、合併症が悪化して入院が必要になることもあり、ひとりの子の妊娠よりもかなり高い頻度で入院することになります。
また、病院によっては、ふたごの妊婦は特定の妊娠週数で全員が必ず入院すると決めているところもあります。病院の方針などは、妊婦健診の際にあらかじめ説明されることもありますが、必要に応じて医師や助産師に尋ねてみてもいいでしょう。
ふたごの妊娠・出産の病院選びで大切なこと
ふたごの出産は対応できる病院が限られているなど、気をつけるポイントが複数あります。
「いざ」に対応できる病院を選ぶ
ふたごの妊娠・出産は、ひとりの子の妊娠・出産とは異なり、高度医療が必要な状況になる可能性が非常に高いです。そのため、病院選びは重要です。
家から近くて通いやすいクリニック、ちまたで話題のおしゃれな病院など、魅力的な病院やクリニックがありますが、ふたごの場合、「妊娠・出産に関する高度医療ができる病院」という条件を満たす必要があります。
妊産婦や赤ちゃんたちの体を守るために、産科と新生児科(新生児が専門の小児科)が併設されていて、いざというときに対応できる病院を選ぶことになります。「周産期母子医療センター」として認定されている病院は、ふたごの妊娠・出産に対応可能で、インターネットなどで検索することができます。
しかし、それぞれの病院の特性などもあるため、病院選びは妊婦健診でかかっている病院の医師に相談するほうが確実かもしれません。
ちなみに、大学病院など規模の大きい病院が必ずしも周産期母子医療センターとは限りません。妊娠がわかったときにかかった病院から高度医療ができる病院に移る時期は、状況により異なります。
妊娠10週前後に膜性診断を受ける必要があるため、その時期より前に病院を変える必要があることもありますし、妊娠がわかったときにかかった病院で膜性診断を行い、膜性によって、または妊婦や胎児の経過を見ながら病院を移る時期を医師が判断することもあります。
自宅近くで出産するか、それとも……
ふたごの子育ては、とにかく人手が必要です。産後に育児を手伝ってくれる人が近くにいるほうがいいのであれば、その点も考慮して居住地以外の地域で病院を探す場合もあるでしょう。
経産婦で最初の子を産んだときに里帰りをしなかった人でも、ふたり目以降の出産で里帰りをして数カ月実家で子育てをした、という人もいます。
居住地と異なる地域で手助けを受けながら出産・育児をすると、メリットとして、「①産後の体力が回復しやすい」「②子育ての先輩がそばにいる」「③上の子のお世話をしてもらえる」などがあります。
しかし一方、「①親世代との育児方針の違い、些細ないさかいが生じる」「②自分のペースがつかみにくい」「③子が生まれてすぐにパパを育児に巻き込めない(パパが育児に参加できない)」などのデメリットもあります。
また、出産したときの住所と住民票の住所が異なるため、新生児訪問や未熟児訪問指導などの公的サービスがスムーズに受けられないことも、デメリットとして挙げられます。予防接種など地域によってシステムが違うこともあるので、このようなサービスがきちんと受けられるよう注意が必要です。
これらのことを考慮して、自分の出産場所はどこにするのか、各家庭で相談してよりよい方法を選んでください。
病院を移るための準備は早めに
病院によっては、ふたごの出産を取り扱えない場合もあります。居住地と異なる地域に移動して出産・育児することが決まったら、出産を考えている病院に問い合わせをして、ふたごであることと、そして出産予定日を伝えましょう。
ふたごの場合、病院の移動時期は、遅くても妊娠28週までにしましょう。移動先が遠方であれば、さらに早く移動したほうがよいでしょう。いずれにしても、移動の時期や移動方法などを医師に早めに相談し、妊婦個人の体調に合わせて安全に里帰りができるようにする必要があります。
みつごの場合、妊娠初期に受け入れ病院を決めて、妊娠20週ごろまでに移動するようにしましょう。もちろん、体調によってはもっと早い時期の移動が必要なこともあるため、ふたご同様、移動時期は医師に相談しましょう。
多胎妊娠がわかったら利用したい制度やサービス
頼れる人には頼り、利用できるものは利用することが、家族の幸せにつながります。躊躇せず、遠慮せず、活用していきましょう。
妊娠が判明したら制度などを早めに調べる
ふたごやみつごの育児で大切になるのは、家族だけで頑張らずに、妊娠生活や育児を支援する制度やサービスを大いに利用することです。
「自分が利用してよいのだろうか?」と利用を躊躇したり、周囲に協力を求めづらいと感じてしまったりすることもあるかもしれません。しかし、これらの利用は心に余裕をつくり、最終的には子どもたちや家族の幸せにつながります。
また妊娠中は産後の生活のイメージがつきにくく、「産まれたら何とかなる」と思いがちです。しかし、実際のふたごの育児が始まると、制度やサービスを調べる時間や余力もなく、利用まで手が回らないこともあります。
比較的に時間のある妊娠中に、お住まいの地域で利用できる制度やサービスの情報を、母子健康手帳交付時にもらった資料や市区町村のホームページ、見学などで調べておきましょう。
ここでは一部を紹介しますが、自治体によっては名称や内容が異なることがあり、また、内容が変更されている場合もあるため、詳しくは自治体の保健師に確認してください。
まずは母子健康手帳の交付
多胎の妊娠の診断がついたら、産婦人科などの医療施設で妊娠届出書を発行してもらい、自治体の窓口や保健センターに提出します。受付については自治体ごとに窓口が異なるので、ホームページで確認するとよいでしょう。
母子健康手帳交付の際には、保健師が面接することになっています。保健師には、多胎妊娠についてわからないことや出産してからの育児の支援など、何でも相談できるので、活用したい社会資源のひとつです。
産後ケア・産前産後サポート事業
自治体によっては、産前から支援の必要な家庭にヘルパーを派遣している事業もあります。
また、産後ケア事業は近年充実してきており、さまざまなサービスがあります。産後ケアも利用できるサービスや利用の方法を妊娠期から知っておくとよいです。
多胎家庭に特化した制度やサービスを展開する自治体もあるので、お住まいの自治体がどんな制度を設けているか調べてみましょう。
困りごとがあったら妊婦相談・訪問事業
すべての妊婦さんは、困りごとや心配ごとがあれば、自治体の保健師に相談することができます。
特に多胎妊婦さんは支援が必要です。体調などの都合で役所まで出向けないときなどは、訪問してもらうこともできます。
働くママも安心な産前産後休暇
労働基準法に定められている産前産後休暇(産休)は、通常、原則として産前6週間・産後8週間の休暇を取得することが可能です。これが、多胎妊婦の場合、産前休暇は予定日の14週前(妊娠26週)から取得できます。
体調不良や入院などあるので、多胎妊娠であることは、職場にはできるだけ早く伝え、理解を求めるようにしましょう。
母性健康管理指導事項連絡カード
母性健康管理指導事項連絡カードは、主治医などが行った指導事項の内容を、妊産婦である女性労働者から事業主へ的確に伝えるためのカードです。
多胎妊婦はハイリスク妊娠として位置づけられているため、勤務についても時差通勤や休息時間の延長、軽作業への転換など、必要な内容を医師に書いてもらって職場に提出することで、必要な措置を受けることができます。
もし「業務を変えてほしい」「配置を変えてほしい」などの相談を職場にしづらいようであれば、医師にこのカードの発行をお願いしてみるとよいでしょう。