ヘルパーなのに突然「サービス提供責任者(サ責)」に任命されたら?
サービス提供責任者(サ責)は訪問介護の要となる存在です。
ですが、ヘルパーとして仕事をしている身で突然サ責に任命されても、何をすればいいのかよく分からない人も多いのではないでしょうか。
先輩や前任者に頼れればいいのですが、そうもいかない場合も少なくありません。そんなときに役立つ本が『現場で使える【訪問介護】サービス提供責任者 便利帖 第4版』(翔泳社)です。
本書ではサ責になったら知っておくべきことが網羅されています。その仕事や責任から、訪問介護計画の作り方、ヘルパーの手配方法と業務管理、事故対応と対処方法など、分かりにくいこともしっかり解説しています。
訪問介護やサ責を取り巻く環境は、昨今の感染症や自然災害への対策、直近の介護報酬改定によって大きく変わりました。
口腔ケア関連の加算やBCP策定へのかかわり、処遇改善加算への対応など、必要な知識を1冊で学べる本です。
今回は本書からサ責の仕事や業務の流れ、役割について紹介します。サ責に任命されたばかりの方や、サ責を目指している方は参考にしてみてください。
サ責はサービスマネジャー
利用者の自立支援に向けたさまざまな業務を担う
サ責の仕事を一言でいえば、「訪問介護が適切に行われるためのマネジメントを担う」ことです。訪問介護は、利用者の居宅における自立生活を支援するためにあります。その「自立支援」がしっかりと進むように調整するのがサ責となるわけです。
その大きな目的をかなえるうえで、細かい実務がいくつも必要になります。
まず利用者の訴えをきちんと聞き(相談援助)、ケアマネジャーやほかの居宅サービス担当者とともに支援の方向性を確認し(多職種連携)、利用者の自立支援につなげるうえで訪問介護としてなすべきことを計画します(訪問介護計画の作成)。
もちろん、利用者側とサービス契約を結んだり、サービス提供に際しての重要事項などをしっかり説明したりしなければなりません(契約書と重要事項説明書の準備)。
ヘルパーが安心してサービス提供できる環境づくり
サービス提供に際しては、ホームヘルパーを手配し(ヘルパー調整)、計画通りにサービスが提供できるよう準備します(サービス提供手順書の作成や初回等の同行訪問)。
そして、ヘルパーからの日々の業務報告を受け、利用者の口腔管理や服薬状況などの気づきに関してはそのつど情報をケアマネジャーに伝えます。現場で何らかのトラブルなどが生じた場合は速やかに指示・対応するのもサ責の役割です。
さらに、自立支援に向けて安全にサービス提供を進めるためには、日頃からのヘルパー教育も欠かせません。そのためのヘルパーの研修なども計画的に行う必要があります(ヘルパーの研修計画の作成やその実施)。
業務の流れを押さえる
早朝・夜間の訪問に対する業務記録を受け取る
サ責を任された上田くんは、実際にどんな流れで仕事をこなしているのでしょうか。
ある1日の様子を追いかけてみることにしましょう。
上田くんは朝8時30分に出社し、早朝訪問のヘルパーから来ているメールでの業務報告を確認します。A事業所では、業務を記録できるアプリを搭載したスマートフォンをヘルパーに支給していて、そこからのデータが送信されてきます。
その内容を確認しつつ、必要があればヘルパーへ連絡をとります。早朝・夜間の訪問時の緊急連絡については、上田くんのほか、所長、先輩サ責の吉川さんで連絡用スマートフォンを交代でもち、そこに連絡が来ることになっています。
新規の利用者情報をケアマネジャーから受け取る
朝のミーティングで、支援経過が気になる利用者(状態変化などのリスクが認められるケースなど)についての申し送りを行った後、ケアマネジャーにその旨をメールや電話で報告します。規定の情報連携シートを活用することもあります。
ちなみに、上田くんは、前日に別のケアマネジャーから新たな利用申し込みも受けていました。ヘルパーのスケジュール調整を行ったうえでサービス提供を承諾すると、必要な初期情報を得るためにケアマネジャーに連絡します。
通信手段が進化するなかで、初期情報についてもメールやICTでのやり取りになることも増えています。ただし、もう少し突っ込んだ情報を得たい場合、サ担会議とは別にケアマネジャーと一対一(テレビ電話等を含む)で面談することもあります。
キャリアの浅いヘルパーに対する念入りな同行訪問
午後はまず、ヘルパーとの同行訪問を予定しています。同行による初回訪問も行ったのですが、担当ヘルパーの経験年数がまだ浅いこともあり、念のために2回目も同行します。今回は、上田くんは口を出さず、業務の見守りに徹するつもりです。
コロナ禍を機に、サービス提供時の感染対策にも気を配ります。
同行訪問先の利用者は、家族が同居しています。家族も高齢なので、同行の機会を利用して「介護疲れなどの訴えはないか」という点をヒアリングします。
同行訪問が終わった後、事業所でヘルパーと簡単な振り返りを行います。次回からはヘルパーの単独訪問となるので、注意点などをもう一度確認しました。
サービス担当者会議に出席して重要事項を確認
その後、上田くんは別の利用者のサービス担当者会議に出席するため、担当ヘルパーと待ち合わせをして対象のお宅へ向かいます。A事業所では、利用者とヘルパーが早く信頼関係を築けるよう、担当ヘルパーも会議に出席させる方針をとっています。
事前にケアマネジャーからケアプラン原案を受け取っていた上田くんは、設定された長期・短期目標を「もっと掘り下げたほうがいいのでは」と考え、その点を利用者・家族を含めたほかの参加者に確認するつもりです。
この点があいまいだと、訪問介護計画の作成もしっかりできなくなるからです。
訪問介護計画の作成などのデスクワークも大切
会議が終わって帰社すると、サービス提供を終えたヘルパーと面談して業務報告を受けます。直行直帰で「電話だけの業務報告」となることもありますが、さまざまなリスクのある利用者については、面談で報告を受けることにしています。
その後、本日サービス担当者会議が開かれた利用者の訪問介護計画を作成します。これをケアマネジャーに送付した後、翌日に電話でやり取りをする予定です。
2024年度改定で変わった点
特定事業所加算の新規要件で看取り対応を強化
2024年4月に、再び介護報酬・基準の改定が行われました。
今改定は、物価上昇下での基本報酬引下げという訪問介護にとっては厳しい改定となり、2021年度改定の流れをくんだ新たな減算規定なども設けられています。
こうした報酬減を主にカバーするのが、訪問介護では特定事業所加算ですが、この加算では新たな要件が加えられました。特に注目したいのは、利用者の看取り期の対応強化が図られたことです。
その他の加算では、訪問系サービスの利用者の口腔機能を評価することなどを要件とした「口腔連携強化加算」も誕生しています。
BCP未策定時などの新たな減算にも注意を
気になる減算規定ですが、2021年度の運営基準改定で定められた「業務継続計画(以下、BCP)」の策定などを行っていないケースが対象となりました。なお、同減算は、訪問介護については2025年3月末まで適用が猶予されます。
一方で、すでに適用されている新たな減算もあります。それが「高齢者虐待防止の取り組み」が未実施の場合の減算です。高齢者虐待防止の取り組みについては、やはり2021年度の運営基準改定で義務化が図られました。3年の経過措置がありましたが、経過措置終了とともに減算規定が設けられたことになります。
いずれにしても、加算の取得や減算の回避によって事業所収入を上げるうえで、サ責の実務が大きく広がったことに注意しましょう。
業務継続計画とサ責の役割
BCP策定はもちろん、随時の見直しも重要
訪問介護では2025年4月から、業務継続計画(以下、BCP)未策定の場合に減算が適用されます。注意したいのは、すでに策定済みであったとしても、必要に応じた見直しが求められることです。
たとえば、自然災害にかかるBCPで、職員が入れ替わっているのに担当がそのままだったり、地域のハザードマップの更新が反映されていないというケース。行政の運営指導では、こうした点が指摘される可能性があります。
その点で、現場のヘルパーや地域の事情をよく知る立場でもあるサ責は、BCPの策定や見直しにおいて重要な役割を果たすことになります。
サ責の「強み」を活かしつつBCP策定に参加
重要なのは、サ責が日常業務を通じて把握できる課題の範囲です。
サ責の場合、利用者やヘルパーの在住場所、各利用者の状態像などを一元的に把握しやすい立場にあります。また、普段から多機関・多職種連携にたずさわっている点で、災害や感染症の発生時の連携方法などについても、「いざというときはどの機関のどの部署に連絡すればよいか」を確認しやすい立場にあります。
また、備蓄品の確保・管理については事務職などが対応しやすい立場にありますが、「利用者の数や状況に応じた確保」という観点でいえば、やはり利用者情報を把握するサ責の役割は大きいでしょう。サ責ならではの「強み」を自覚しながら、BCP策定のための委員会などにのぞみたいものです。