心理的安全性との出会いは、"目からうろこ"だった――『High-Impact Tools for Teams』著者・訳者トーク[3/3]
2022年9月14日刊行『High-Impact Tools for Teams――プロジェクト管理と心理的安全性を同時に実現する5つのツール』は、ベストセラー『ビジネスモデル・ジェネレーション』の著者陣が送る最新作。
著者のステファノ・マストロジャコモさんと、訳者の見形プララットかおりさんのオンライントーク最終回です。
心理的安全性との出会い、そして今後取り組みたいことについてもステファノさんに聞いてみました。
編集担当(以下、編):本書のまえがきで、エイミー・C・エドモンドソンさんはこう述べていますね。「私はずっと前から、シンプルなツールでチームの行動を正しい方向に促すことで大きな効果が得られると考えていました。本書にはそうしたツールがいくつも掲載され、どのチームにも役立つ手順やガイドラインが記されています」
ステファノ・マストロジャコモ(以下、S):エドモンドソンさんの研究を見つけたときは、目からうろこでしたね。当時の私は、いわゆるDesign Squiggleの最初のぐしゃぐしゃの段階でもがいていたんです。
なぜかというと、当時はチーム・アライメント・マップ(TAM)を開発しようとしていたんですが、TAMは、誰が何の作業をやるかを理解するための話し合いを手早く導くためのものです。自分が作業するために必要なものを手に入れて、相手が作業するために必要なものを手に入れないといけない。コラボレーションだから、相手の作業は自分の作業次第……。というように、私は作業の部分にばかり気をとられていた。
それで、TAMをチームで試していたところ、約95%のケースでうまくいっていたものの、チームがTAMを活用してくれないケースが5%くらいあった。そこで、「なぜ?」と考えたわけです。その5%のチームでは、お互いに話をしていなかった。プロジェクトのために作業はしているけれど、口をつぐんでいる。沈黙。
そんなとき、学会でコラボレーションについて発表していて、あるアメリカ人の学者にこう言われたんです。「あなたのツールは“信頼”を考慮していない」――。
見形プララットかおり(以下、K):それが、目からうろこだったと。
S:そう。うまくいっていなかった5%のケースでは、十分な信頼がなかった、というのがわかったんです。それで調べてみたところ、エドモンドソンさんの研究に出会い、“心理的安全性”が欠けていたということに気づいたんですね。
心理的安全性は、とてもわかりやすいコンセプトです。自分のチームはリスクをとれる安全な場で、思い通りにいかなくてもチームがサポートしてくれるという信頼があるということ。うまくいかなかったらほかのメンバーが助けてくれる、という感覚ですね。
エドモンドソンさんの研究は20年くらい前からあるんだけれど、2016年くらいからめちゃくちゃ有名になったんです。
編:Googleの社内調査で、心理的安全性の高いチームが最も生産性が高いことがわかったと発表して有名になったんですよね。
S:その通り。でも、私がエドモンドソンさんの研究を見つけたのは1999年のことでした。心理的安全性は、いわば新しい扉を開いてくれたんです。
エドモンドソンさんにまえがきを書いてもらえたのはとても光栄だったし、しかも強い支持の言葉をもらえて感謝しています。すばらしい人だし、学術界で認められているから。
最後に加わった、リスペクト・カード
編:「リスペクト・カード」は最後に追加したとおっしゃっていましたね。
S:本づくりのわりと最後のほうまで、実は4つのツールで行こうと思っていたんです。その4つは、実験済みで安定して使えていたし、“鉄壁”だったから。
でも、多文化のチームや、多文化共生について知れば知るほど、「ポライトネス」の大切さを実感するようになったんです。これは、衝突が起きる確率を下げるための言葉づかいをめぐる言語学の理論で、ペネロピ・ブラウンとスティーブン・レヴィンソンをはじめ、すばらしい研究やフレームワークがあります。
それから、ハーバード大学の心理学の教授、スティーブン・ピンカーの間接表現をめぐる研究もありますね。たまに私たちは、「今後の可能性とかー、プラス面やマイナス面について、探求してみても、面白いかもしれないですねー」とか言ったりしますね。「いや、Bのほうがいいと思います」ではなくて。
K:ありがちですね(笑)。
S:そこで、衝突がネガティブな形で起きてしまうのを防ぐため、どんな言葉づかいや表現をすればいいのかがわかるツールをつくろうと考えたわけです。このリスペクト・カードは、ほかの4つのツールとは違い、ポスターの前にみんなで座って書き込むものではありません。
編:個人で使うんですね。
S:正確に言うと、より良いチームメンバーになるために、個人で使うわけです。こういったポライトネスや間接表現などは、私が今後10年で考えていきたいことなんです。
編:これからまだまだツールを作るんですね!
S:そうですね。「陰」と「陽」のように、「コラボレーション(共同作業)」と「コンフリクト(衝突)」は日常の一部なわけです。なのに、コラボレーションのツールはたくさんあっても、コンフリクトを扱うツールは不足しているんじゃないかと。
意見が一致しないとき、感情が高ぶったとき、使えるツールがないから大ごとになったり、人事部や上層部に訴えることになったりしてしまう。コンフリクトは、そこから新たなものが生まれるとも言えるので、避けるのではなく建設的な方法で対処すべきではないかと。今後はもっとそういうツールをつくっていきたいと考えています。
K:今後の研究も応援しています!
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