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古文字あれこれ【簪(かんざし)】その1

こんにちは、書道玄海社・師範の加藤双涛です。
こちらでは、シリーズで「古代文字あれこれ」について綴っていきたいと思います。


「斉」と簪(かんざし)
  新型コロナウィルスの感染者は、世界でついに1億人を超えたといいいます。医療関係者を始め人々の懸命な努力にもかかわらず、未だ世界規模の収束のめどが立たず、まさに“混沌”の渦中にあり出口がみえません。

この“混沌”の対極にあるのが、 “斉”で、“せい”あるいは“さい”といい、“ととのう、ひとしい、つつしむ”などと読まれます。一様に、きちんと整った、という意味です。コロナ前の普通の生活がなんと懐かしく思い起こされます。

斉の旧字は「齊」で、髪の上に三本の簪(かんざし)を立てて並べた象形に由来します(下図・斉の古文字参照、『字統』白川静より)。

この字はもともと祭祀に奉仕するときの婦人の髪飾りを表し、三本が直立する形から“ととのう、ひとしい”の意が生じたとされています。また、祭卓の前で神に奉仕するときの厳粛な気持ちと畏敬の念も表しているといわれます。

“斉はまた斎に通じて斎戒をも意味し“つつしむ、いむ”とも読まれます。 

斉の古文字

 斉(齊)の甲骨文は三本の簪を行儀よく並べた形をとり、金文ではさらに髪飾りの形に整えた姿のものもあります。
甲骨文・金文は今から3000年以上前の時代に使われた文字で、この時すでに簪が一般はともかく、少なくとも一部に用いられていたことを示しています。

簪(かんざし)という古文字
他にも、簪といった髪飾りを表すと思われる古文字のグループがあります。「毎」、「敏」、「参」、「妻」などの古文字で、いずれも女性が膝をついた側身形の頭部に髪飾りが見られます。「簪」という字そのもの(郭沫若氏による)も報告されています(下図)。

毎 敏 又の古文字a

參 妻 簪の古文字


 毎は髪飾りをつけて盛装した夫人の姿。その髪に手(又 ゆう)をそえて髪を整えている形が敏。
参は三本の簪を集めて頭髪に刺している形です。彡(さん)は簪の玉(ぎょく)の光ることを示すといいます(「字統」白川静より)。
敏と妻は似ていますが、前者は祭事にいそしむ婦人の姿、後者は婚儀のときの女の姿とのことです。
“簪”の甲骨文とされている字では、髪の中に柄のついた串状の棒を刺しているのが見られます。

 さらに「毒」という字ですが、甲骨文・金文はなく、小篆を下図に示します。多くの髪飾りをつけて祭事に奉仕する夫人の姿をいいます。その髪飾りの繁多にすぎることを「毒」と表現しています。

IMG_20210202_0003a毒 小篆

ちなみに「ウィルス」の語源はラテン語の「virus」で、毒や粘液をあらわすといいます。新型コロナウィルスの大きさは0.1μmと極めて小さく電子顕微鏡でやっとみえるほどで、“繁多に過ぎる”の対極にありますが、世界規模の感染症という点では「毒」といえます。


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