「空間づくりの仕事に”健全”で”安全”な価値を届けたい」。内装・イベント業界の現場監督が、プログラミングを0から学び、業界の変革に挑む創業ストーリー
株式会社SHO-CASEは、2020年10月に創業した建設テック企業です。
建設・内装・イベントの現場をDXしています。
ディスプレイ業界と課題
「ディスプレイ業」とは何か?
あまり知られていない「ディスプレイ」の業界。
一般社団法人 日本ディスプレイ業団体連合会によると
「空間を媒体としたコミュニケーション手段の一つで、総合的な情報サービスの一環として、快適な空間・環境を創造する総合ビジネス」と定義されています。
たとえば、飲食店舗や商業施設、展示会や見本市、博物館などの文化施設、イルミネーションなどの季節イベントといった、みなさんにとても身近な空間づくりを通して、社会に「賑わい」と「彩り」の価値を提供しています。
ディスプレイ業界の現場は、
新築の建設現場と大きく違う点が2つあります。
① 現場が狭い
改装工事や、既存の建物に展示物を設置するような工事が多く、足の踏み場もないくらい資材で溢れ、現場管理が充分に行えないことが多々あります。
② 工期が短い
イベントや展示会だと1日や2日、店舗の改装工事だと1週間~2週間で、時には夜間工事も伴う工事が頻繁に行われます。現場が始まるまでの計画・発注業務も短期間で段取りせねばならず、スピードと判断力が求められます。
大手ゼネコンを中心とした、新築の建設現場では顔認証や静脈認証の機械、カードリーダーなどの電源を必要とする機器を現場の入り口に設置し、現場作業員の入退場管理を行うのが近年の主流となっています。
しかし、現場が狭く、工期が短いディスプレイの現場では、そんな機器を設置する場所もないし、工期に余裕もないし、コスパも悪いため、未だに紙による管理が行われているのが現状です。紙による管理方法は、現場監督の残業の原因にもなり、本来の現場の管理業務に支障をきたしてしまっています。
そんな課題をスマートフォンを使って解決したいと思い、
高村はSHO-CASEを作りました。
起業なんて、これっぽっちも考えてなかった
代表の髙村は、高専を卒業後、新卒で業界最大手の乃村工藝社に入社。
いたって普通の新入社員でした。
仕事を覚えることに忙しい毎日で、同僚の退職話を聞いても特に気にすることもなく、ましてや自分自身が辞めて起業するなんて、考えてもいませんでした。
5年ほど勤務したのち、退職して「フリーランスの現場監督」としての道を歩みはじめます。
コワーキングスペースでのきっかけ
フリーの現場監督になってしばらく経ったころ、高村のもとに前職の先輩から連絡がきました。ある商業施設の改装工事で、管理者の人員が不足しているので手伝ってほしい、という依頼でした。
お世話になった先輩の依頼だったので、引き受けました。
現場が始まる前に、現場近くで立ち寄ったコワーキングスペースで、「ソーシャルビジネス講座」という無料のビジネス講座が開催されていました。(※現在は開催していない)
現場は、夜間の工事だったこともあり、日中の時間を使って学んでみようと思い、受講しました。
財務や会計、マーケティングにいたるまで、さまざまなことを学べる講座でした。この講座の卒業プレゼンで発表したものが、現在の「SHO-CASE」の原型となるものでした。
当時考えたアイデアは「人員不足の施工現場を救う、職人を紹介し合える掲示板」みたいな内容で、今の「SHO-CASE」とできることは異なりますが、
「現場の課題」→「解決するソリューションを見つける」
そのことを必死に考えていたという意味では、これが、高村にとって、業界の課題にはじめて正面から向き合ったキッカケでした。
人生を変えた
起業家養成学校「G'sアカデミー」
ある日、テレビで見かけた「助太刀」という現場と職人をマッチングするサービスのCMに興味を持ちました。当時、業界では珍しかったアプリCMに惹かれて調べると、代表の方が「エンジニア起業家養成学校"G'sアカデミー"」で優勝したという記事を見つけ、すぐにアカデミーのことを調べました。
「自分でプログラミングを学び、サービスを作れるスクール」であることを知り、すぐに申し込み。無事にアイデア試験を通過し、入学することになりました。
G'sアカデミーは、週末コースと平日コースがあり、高村は週末コースを受講。
最初の3か月はプログラミングの勉強、残りの3か月は卒業制作。
プログラミングは、HTMLから始まり、PHPやJavaを学び、プログラムを組むことで自分のアイデアが実現できる喜びを感じました。しかし、難しい言語であるLaravelなどの難解な言語には苦労したそうです。
それでも、施工現場での個人情報の管理や書類管理の大変さなど、高村自身が現場監督として経験した課題の解決策を形にするために、スマホで簡略化できるアイデアに辿り着きました。
しかし、現場ページや個人アカウント、入場者リストなど、より高度な機能を必要とする開発は、1人では難しく、自分のスキルの限界を感じました。
人生を変える出会いがそこにはあった
このとき、高村が目指すものに協力してくれる意志を示してくれたのは、スクールでよく同じテーブルに座っていたN氏でした。
N氏はエンジニアの経験があり、私たちは共同で卒業プロジェクトを成功させることができました。
(実際には、ほとんどが彼が作成してくれましたが・・)
結果は、11組中4位の成績。
僅差で入賞は逃したものの、発表の瞬間、2人で握手を交わしたことを今でも鮮明に覚えているとのこと。
新しいものを作りたい、社会の問題を解決したいと考えている方には
アカデミーへの参加をおすすめします。
試作品のデビューは、あの国際大会
アカデミー卒業後、高村とN氏は「SHO-CASE」の展望について話し合いました。まず、デザインを完成させて試作品を形にし、一般の方に見せる段階に持っていくことを決めました。
デザイナーを見つけて、試作品の開発が進みはじめたころ、業界の関係者に試作品を見てもらえる機会に恵まれ、ある企業の目に留まりました。
当時(2019年)、ディスプレイ業界は東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の準備に追われていました。
某企業も40以上ある競技会場を、ほぼ同時進行で工事を進めなければならず、元請企業の管理者だけでは到底すべての現場を毎日管理することは不可能とされていました。
なので、せめて各会場の作業員が、「いつ・どこで・どんな作業をしていたのか」を、記録・管理し、万が一事故が起きたときに、すぐに状況把握ができる労務管理ツールを探していた、ということで、SHO-CASEの試作品は世界的に有名な国際競技大会の現場でデビューを飾ることになったのです。
コロナ禍をチャンスに
コロナウイルスによって大会は1年延期となり、SHO-CASEは1年間の開発猶予を与えられました。
今思うと、当初の予定通りのスケジュールで開催が進んでいたら、導入はできても、運用はできていなかったのではないか、と思います。
それは、「実際の現場で、まだ誰にも使ってもらえていない」という大きな課題があったから。
サーバへの負荷の程度、どんなエラーが起きるのか・・。
ITに不慣れな現場では、経験したことのない状況に、職人さんがどんな反応をされるだろうか・・。
開発チームとともに、そんな不安を抱えながら過ごす、苦しい時期もありました。
どこかでテストで使ってもらおうにも、コロナ渦は多くの現場が止まっていて、稼働している現場はあっても、感染予防のために現場に行くこともできませんでした。
そんなとき、知人の紹介で、新規オープンするボルダリングジムの現場でテスト導入をさせてもらえることになりました。
「コロナによる体調管理」という名目で、下請けの協力会社さんにも登録してもらいながら、実際の職人さんの使い勝手や、感想を聞くことができました。
なかには「そんなシステム登録したくない!うちは紙でやるよ!」と拒絶する人もいました。業界の課題解決をしたい想いで作ったサービスを、使いたくないと云われる辛さをはじめて味わいました。
起業の勉強は、横文字だらけで辛い日々
創業当初は、事業計画もなく、作り方もわからず、どうやって勉強したらいいかもわからずにいたとき、田所雅之さんが運営する「スタートアップ経営者塾」で、起業のいろはを学びました。
起業する前に身に付けておけばよかった知識だと後悔するほどに学ぶことが多く、現場畑で育った高村には、「IPO」や「ペルソナ」、「バリュエーション」など、横文字が飛び交う会話に圧倒される日々でした。
それでも楽しく学べたのは、ともに学んだメンバーのおかげ。
オンラインによる事業計画・ピッチ資料の壁打ちなど、忌憚なき意見をいただけたあの時間がなかったら、今のSHO-CASEはここまで来れていなかったと思います。
ビジネスコンテストで受賞
おかげで、2021年2月に横浜で開催されたビジネスコンテスト「横浜ビジネスグランプリ」で奨励賞を受賞することができました。
はじめて公式な場で、誰かに自分の事業を審査してもらったあのときの感覚は今でも忘れられないです。
また、対外的な評価を得る機会に恵まれたことも、貴重な経験でした。
銀行からの融資、アクセラレーションプログラムの採択など、自分一人の力ではどうにもできなかったことが、この横浜ビジネスグランプリをきっかけに広がりを見せていきました。
はじめての現場利用はトラブルだらけ
2021年4月、最初の現場での利用がスタートしました。
画面上のボタンが反応しない、登録したメールアドレスがわからないなど、さまざまなトラブルが起きましたが、現場の方々の協力のおかげで、何とか運用はできました。
このときの現場に、偶然にも前職時代にお世話になった職人さんがいて、現場が終わった後に使ってみた感想を詳しくヒアリングしました。
ヒアリングした改善点を開発チームとともにアジャイルで回し、現場のピーク時にはほとんどエラーが起きないレベルにまでなっていました。
現場の職人さんも、普段は慣れないスマホでの労務管理を楽しんでくれるようになり、「今日みんな入場したかー?」「退場忘れるなよー!」と、みんなで協力し合って運用をしてくれました。
あの風景を見た時の感動は何とも言えない嬉しさがこみ上げました。
課題は「伸びしろ」。成長を続けるSHO-CASE
当時のSHO-CASEはあくまでも、現場の入退場の手間を削減するだけで、本来現場で管理するべき項目に対して、不足している機能はたくさんありました。
それは創業して4年経つ今でも同様で、法律に基づく現場の管理をすべてカバーしようとすると、まだまだ多くの開発リソースが必要になります。
また、顧客の現場の運用ルール自体も変えてしまうことになるので、1つの現場に導入されたからといって、すぐに全社導入というわけにはいかず、古い慣習が根付く施工会社のしかるべきプロセスを通してやっと導入が決まるか決まらないかという、時間と根気が必要な日々です。
まずは自社の売上と利益が第一優先の建設ビジネスの中で、人員不足や働き方改革などの多くの課題を抱える企業様がいます。顧客はその課題をすべてカバーできる完璧なプロダクトを求めてきます。
それに対して、スタートアップでは圧倒的にリソースが足りないのです。
しかし、私たちの強みは最も顧客と近い存在でいられることです。
元現場監督という強みを活かし、サイドビジネスとして現場管理業務を請け負うことで、現場の最前線で顧客に寄り添い、現場に出て、文字通り泥臭く営業活動を重ねながら資金繰りとプロダクト開発を継続させ、事業の成長を目指しています。
現場の負担を減らし、安全で健全な建設業界を叶えるために
私たちが目指すのは、空間づくりの仕事に”健全”で”安全”な価値を届けることです。紙運用の手間によって本来なら費やすべき現場の安全管理の時間が損なわれ、不健全な働き方になっている現場の課題を解決するために弊社は存在します。
しかし、それはあくまでも手段であって、”健全”で”安全”な価値を届けるには、現場だけの課題解決だけでは本当に作りたい世界を作れないと思っています。
企画から始まって、見積り→計画→発注→現場開始、といった建設業のバリューチェーンにおいて、上流の工程である計画段階で足踏みをしてしまうと、その遅れによるしわ寄せはすべて現場に影響してきます。
そのため、我々がいくら現場の課題を解決しても、上流の工程が遅れてしまうと結局負担となるのは現場の人なんです。
そんな不健全な状態から、誰もが安心して働ける現場(職場)環境の仕組みを作り、安全な環境で、健全なサイクルでビジネスが行われる建設業界を私たちは目指しています。
そのためには、私たち業界関係者だけではなく、発注側の国や行政、民間企業の方々にもこの仕組みを理解してもらう必要があると思っています。
その上で、空間づくりの現場で働く人たちのことを少しでも考えてくれる人たちがいる未来が作れたら良いな、と日々願っています。