『第六行仏威儀』第二十段①〔偉大な聖人は生死を身心に任せる〕

〔『正法眼蔵』原文〕
 了生達死の大道すでに豁達カッタツするに、ふるくよりの道取あり、

「大聖ダイショウは生死ショウジを心にまかす、生死を身にまかす、
生死を道にまかす、生死を生死にまかす」。

 この宗旨シュウシあらはるゝ、古今のときにあらずといへども行仏の威儀忽爾コツジとして行尽するなり。

道環として生死身心の宗旨すみやかに弁肯ベンコウするなり。

行尽明尽、これ強為ゴウイの為イにあらず、
迷頭認影メイトウニンエイに大似ダイニなり。

回光返照エコウヘンショウに一如イチニョなり。

〔抄私訳〕
「大聖は生死を心にまかす、生死を身にまかす、生死を道にまかす、生死を生死にまかす」とは、全機(全ての働き)の生、全機の死をこのように言うのである。今の「生死」を、「心」とも「身」とも、あるいは迷とも悟とも取るから、「心にまかす」とも「身にまかす」とも使うのである。

この「宗旨」が表れても、本当に「古今の時」で表す昔だ今だと言うのではない。「行仏の威儀」の道理は、「忽爾として行尽するなり」である。「道環」とは、袈裟の環はまったく始めも終わりもないものであり、どこから始まり、どこが終りとも見えず、無始無終なことにしばしば使うのである。

「行尽明尽、これ強為の為にあらず、迷頭認影に大似なり。回光返照に一如なり。」とある。

「行尽」だ「明尽」だといっても、誰かいて「行尽」とか「明尽」とか言うのではない。だから、「強為の為にあらず」と言うのである。また、「迷頭認影」と言えば、大変迷の法に似ているが、そうではない。頭に迷って影を認めるとは、頭にたとえ迷っても影を求める時に、あれとこれといってもただ一物であるという意味合いである。仏性に迷っても、狗子クシ(犬)が出現すると言うようなことである。

「回光返照」(道を外に求めることなく、自己の本性を照見すること)も同じ意である。光を巡らすのも返りて照らすのも同じことである。

「大似」「一如」の言葉は、ただ「行仏」の上で使う言葉と心得るのである。そのまま「迷頭」のすがたを「大似」と言い、「回光」を「一如」と言うのが「行仏」の上の言葉であるのである。

ただまた、「行尽明尽」「強為の為にあらず」という言葉が、「迷頭認影」の意味合いに「大似」と言うこともできるが、これは喩えではない。「明尽」という言葉が突然出てきたように思われるが、前に「行尽」とある言葉に付いて出てきたので、理はただ同じことである。

〔聞書私訳〕
/「大聖は生死を心にまかす、生死を身にまかす、生死を道にまかす、生死を生死にまかす」とある。

我々の心で、我々の生と死を心に任せるのは、たとえば、一本の草を、刈り、植え、或いは取り、或いは棄てるなどというように任せるのを心に任せると心得るのは、まったく当たらない。「心」と言うのも、「法界唯心」(法界はただ心である)と心得、「三界唯心」と使い、「身」と言うのも、また「尽十方界真実人体」(尽十方界はこの真実人体である)と説くのである。

この時こそ隔てるところなく、本当に「心」に「生死」を「まかす」と言うことができ、生は生に任せ、死は死に任すことこそ、「生死を心にまかす」ことであり、いわゆる全機現(全ての働きの現れ)の意味合いである。

また、「心が生ずれば種々の法が生じ、心が滅すれば種々の法が滅す」のである。

〔『正法眼蔵』私訳〕
 生死を了解し通達する大道がすでに広々と開けていることについて、昔から言われていることがあり、
(了生達死の大道すでに豁達するに、ふるくよりの道取あり、)

「偉大な聖人は、生死を心に任せ、生死を身に任せ、生死を道に任せ、生死を生死に任す」というのである。
(「大聖は生死を心にまかす、生死を身にまかす、
生死を道にまかす、生死を生死にまかす」。)

この生死の主旨が現れるのは古今の時に関係はないけれども、
行仏の威儀は忽タチマち現れ行じ尽くすのである。
(この宗旨あらはるる、古今のときにあらずといへども行仏の威儀忽爾として
行尽するなり。)

始めもなく終りもない大道として、生死を身心に任せる主旨が、
すみやかに理解され合点されるのである。
(道環として生死身心の宗旨すみやかに弁肯するなり。)

行仏を身に行じ尽くし行仏を心に明らめ尽くすことは、
強いてすることではない。
(行尽明尽、これ強為の為にあらず。)

自分の頭はどこかと迷い、
鏡に映る影を見て自分の頭だ、と認めるのとよく似ている。
(迷頭認影に大似なり。)
〔これは、迷いも悟りも別物ではないことを聞かせるのである。〕

行仏とは回光返照のことである。
(回光返照に一如なり。)

                                 合掌

                         
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