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【題未定】「一人飯」道の亜流、「車中飯」道への誘い【エッセイ】

 先日、校外へ研修に出かけた。こうした研修や出張の場合は昼食に悩むことがしばしばある。慣れない土地での、しかも昼休みの限られた時間で昼食を考えるのはなかなかに難しい。

 以前はネットで検索をし、時間内に行ける店を探して外で昼食をとることが多かった。その土地の名物を口にしたり名店に訪れるのは仕事の合間の息抜きにもなるし、午後からの活力にも繋がっていた。それこそ人気ラーメン店に行こうなどと考えれば、その先に待つ一杯は空腹と時間への焦燥から思い出深い味となったかもしれない。

 とはいえ、そうしたときでも誰かと連れ立って食事に出かけることはこれまでもほとんどなかった。個人的に誰かと食事を共にすることが苦手だからだ。もちろん家族とは食事をするし、ある程度の団欒は日々の活力であることは疑いようのない事実だ。しかしだからこそ、家族以外との食事を避けたいと思うのかもしれない。

 今回の研修の時もそうだったが、最近は出張中の昼食を自動車の車内で済ませることが多い。これを聞くと「寂しいやつだ」、「ボッチ乙」といった声が聞こえてきそうだが、ちょっと待ってほしい。確かに他人からしてみれば空しいように見えるこの行為だが、やっている本人からすればこれまでの昼食よりもよほど精神的な活力につながっているのだ。そのメリットを以下に示していきたい。

 第一に静かな空間で食事をできるということだ。私は他者と会話をすることが決して嫌いではないが、食事中は自分の時間を楽しみたいと考えている。その点、車内では自分一人しかおらず他者の存在を気にする必要がない。サンシェードをフロントガラスにおいておけば、そこは自分だけの空間となる。オーディオブックを聞きながら、誰に憚ることなく食事をする時間は私のゆとりの時間と言ってもよいだろう。

 第二に好きな物を安価に食べられるという点だ。昨今は物価高、懐事情が決して暖かくはない一労働者としては昼食代は可能な限り安価に済ませたいところだ。その点、スーパーの弁当やパン、おにぎりなどを買えばコストを抑えることができる。もちろん店舗内で美味を堪能する誘惑にかられないわけではないが、所詮は仕事の合間の食事である。そこまでこだわる必要もないだろうと思うのだ。
(手作りの弁当を持参すればコストはさらに安くなるが、弁当箱を洗えない環境には持っていきたくないという個人的な感覚がある。)

 第三に時間をぎりぎりまで有効に使えるということだ。食事を外でする場合、食事する時間だけでなく提供時間や往復の移動時間を考えなければならない。ところが現地近くの車内ではそうしたことを考える必要はなく、昼休みの時間を余裕をもって食事や休息に使うことができる。焦らずに午後の仕事に迎えるというゆとりは何物にも抱え難いだろう。

 「孤独のグルメ」などのヒットにも見られるように、昨今は「一人飯」を否定的に捉えない価値観が広がっている。しかし私の様な「一人飯」の修験者が真に求めるのは一人で飲食店に入り食事をするところには無い。「車中飯」という贅沢を是非とも一度、体験してほしい。

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