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永岡文部科学大臣の発言に出た「不登校特例校」とは何か
不登校児童生徒の数が過去最多となったことに対して永岡文部科学大臣が記者会見で「多くの子供たちが学校の学びから置き去りにされていることは、教育の根幹を揺るがす憂慮すべき課題だ」のようにコメントしています。
不登校対策の3つのガイドライン
永岡氏はコメントの中で、不登校対策に関して3つのガイドラインを示しました。
「不登校特例校」の設置促進
タブレット端末を活用した兆候の早期発見
全ての児童生徒を対象のメンタルチェック
2、3に関してはさらに教員の業務負担を増やすもので、教員採用試験の倍率低下や働き方改革の方向とは明らかに逆向きの施策であり、議論を呼びそうです。
今回はその2つではなく、1に出てきた「不登校特例校」とは何かということをまとめたいと思います。
「不登校特例校」の定義
「不登校特例校」に関して調べると、以下の結果が出てきます。
学習指導要領にとらわれず、不登校生の実態に配慮した特別な教育課程をもつ学校。正式名は「不登校児童生徒を対象とする特別の教育課程を編成して教育を実施する学校」で、文部科学大臣が指定する。(中略)学習指導要領の規定に縛られず、不登校の児童・生徒にあったカリキュラムを整えており、(1)年間総授業時間を750~770時間程度と規定より1~2割抑える、(2)習熟度別や、学年の枠を超えたクラス編成をする、(3)体験型学習、校外学習、ボランティア活動に力を入れる、(4)教室に入るのが苦手な子供に適した小グループ指導や個別学習の時間を設ける、(5)専任教員の増員やスクールカウンセラーを設置する、などの柔軟な対応をとる特例校が多い。都道府県や市町村の枠を超え、遠方から入学する児童・生徒が多いという特徴をもつ。
基本的には学校に来ることが難しい生徒への対応のために、柔軟性を上げた対応が可能な施設、ということになります。
またいわゆる学区、校区の越境を可能にしている、ということも特徴のようです。
ここだけを見ると、行政もフレキシブルに対応する制度を作っていたのか、と感心する向きがありますが、一点だけ落とし穴があります。
それは現時点では、設置数が非常に少ないのです。
「不登校特例校」はどこに存在するのか
「不登校特例校」は令和4年時点で全国に21校存在します。
ところが上のリンクを見てもわかるように、九州では1校(しかも鹿児島)など地方にはほとんど設置がありません。
また中国地方や北陸地方には一つも存在していません。
こうした数の少なさや地域の偏りを考えると、現状では十分な対応ができているとは言えないようです。
フリースクールや非一条校との違い
現在の学校制度においても、フリースクールなどの出席も学校の出席として認められるケースがあります。
以下の前提を満たした場合、出席とされると文科省のガイドラインに記載があります。
不登校児童生徒が学校外の施設において相談・指導を受けるとき,下記の要件を満たすとともに,当該施設における相談・指導が不登校児童生徒の社会的な自立を目指すものであり,かつ,不登校児童生徒が現在において登校を希望しているか否かにかかわらず,不登校児童生徒が自ら登校を希望した際に,円滑な学校復帰が可能となるよう個別指導等の適切な支援を実施していると評価できる場合,校長は指導要録上出席扱いとすることができる。
「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」令和元年10月25日
別記1
こうした施設の課程やカリキュラムが在籍校のそれを履修したと見なせたり、きちんと保護者との連携がなされている場合に限り、出席扱いとすることができます。
つまり、「不登校特例校」でなくとも不登校生徒に対しての対応は可能ということです。
では「不登校特例校」のメリットは何でしょうか。
「不登校特例校」のメリットとデメリット
メリットは主に以下の3点です。
クラス編成や学級人数
総合的な学習(探究)などの取り組み
卒業に必要な時数の違い
1については学年を超えたクラス編成や、学級定員が少ないなどです。大人数での教室に入りにくい生徒などの対応が可能です。
2については、各校で独自の総合的な学習や探究が行われており、興味の範囲が広がったり、自信を持てる分野を探すこともできます。
3についてですが、卒業要件となる授業時数に緩和措置がなされており、出席する時間数を減らすことができます。
また、対応する教職員も不登校などのトラブルを抱えた生徒の指導経験が豊富な人材が多く、柔軟性が高い環境と言えます。
一方でデメリットもあります。
これは環境が整い過ぎている、という点です。
残念ながら、高校卒業後にそうした恵まれた環境で仕事に従事できる可能性は極めて低く、社会に出てからは周囲の環境に合わせないといけない場面が増えるのは確実です。
しかし、高校までを配慮された環境だけで生活した場合、実社会に順応することは難しい、あるいは時間がかかることは明らかです。
「不登校特例校」の増加に異論はないが…
とはいえ、現状では別環境で生活しなければ適応が難しい生徒への配慮としてはこうした環境の整備は不可欠でしょう。
しかし、同時にこうした「学校」という環境の前に、自校におけるオンライン授業での出席や、オンデマンドでの受講の評価を認めるなどの制度を整備し、全国津々浦々の学校でできる緩和措置を進めることも必要ではないかと思うのです。