教員採用試験の前倒しという行き当たりばったりの愚策
この数年、教員不足が顕在化し採用試験の倍率低下はとどまるところを知りません。
この状況に対し政府や文科省も一応の対策を行う方針を見せていますが、それもどこまで実効性があるのか微妙なところでしょう。
なぜならば、場当たり的な賃金引上げ(しかも僅かな金額)や免許制度を緩める案が大半で、現場の業務量削減に関しての具体的な方針が見えないからです。
そして、ここにきて更なる悪手に彼らは手をつけるようです。
それが採用試験の前倒しです。
採用試験の前倒し
従来、教員採用試験は7月に1次、8月に2次、発表は秋口というのが一般的でした。
これを6月に1次試験を行うということのようです。
この理由に関して記事中では以下のように書かれています。
どうやら教員志望者が公務員試験や民間就職と時期が被るために受験を控えている、という見立てのようです。
しかし、本当にそうでしょうか。
公務員試験と教員採用では試験の対策内容が大きく異なります。試験の準備を同時並行に進めるのはかなり厳しく、実際にはほとんど併願者はいないのではないでしょうか。
また、民間企業への就職志望者と教員志望者は層が異なるケースが多いためそれほど影響はないでしょう。
むしろ、3、4月の説明会から5月の試験、6月の内々定となると6月に教員採用試験を受験することも準備をすることも絶望的です。
教育実習の問題
さらに根本的な問題として教育実習の時期設定が存在します。
教育実習は一般的に6月の前後に行われることが多いようです。入学、始業から時間が経ち、春運動会なども落ち着いた時期となるからでしょう。
また実習生が授業を停滞させたとしても、そのリカバリーが効く時期でもあります。
仮に、6月に採用試験を行うとなるとこの時期をずらすしかなくなります。
実習時期がずれれば、これまでの行事やカリキュラムの見直しまで必要になります。こうした準備をせずに制度を導入しても現場の負担が増加するだけです。
こうした受け入れ先の初等、中等教育機関の負担に関しては全く考慮されていないことも問題ですが、学生側に関しても同様です。
記事内にもありますが、文科省は3年次に教育実習を行うことを計画しているようです。
しかし教員養成系学部の学生ならまだしも、学部3年の学生に教育実習に行く余裕はあるでしょうか。
近年は大学の単位認定も厳しくなっており、制度設計を根本的に変えなければ同時期に実習は難しいでしょう。
(しかも3年でも採用試験を受験できるようにするという計画まで存在する)
こうした教育現場への無理難題を吹っ掛ける行為が採用試験緒倍率を下げ、教員志望者の減少につながっていることにどうして気づかないのでしょうか。
現場感覚の無さと教育行政と学校管理の乖離
このような現場感覚を無視した改革とそれに振り回される学校現場という構図はこれまでも繰り返されてきました。
ゆとり教育の断行や教員免許更新制の導入、英語外部試験活用などここ最近のものでも枚挙に暇がありません。
この原因は明らかに教育委員会制度です。
教育行政は教育の独立性を保つ観点から、初等、中等教育機関は国や政府の直接的な管理下になく、あくまでも地域行政の中におかれ、さらにその中でも独立性の高い組織構成となっています。
これは教育の政治利用を避けるという仕組みとして機能していますが、このせいで行政と現場での意思疎通が行われず、分断が起きる原因となっています。
そしてこうした分断こそが、行き当たりばったりにしか見えない改革案に繋がっているのかもしれません。
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