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世帯年収910万円という壁が給与抑制の言い訳に使われる可能性
高校無償化
2020年から私立学校に通う生徒にも就学支援金が支給されるようになり、高校進学に関しては無償化によって多くの子供の機会が広がりました。
公立高校の場合は学費自体はほぼ無料、私立学校の場合もある程度軽減されるようになったことで、進学先を幅広い選択肢の中から選べるようになったのは決して悪いことではないでしょう。
(私のような私学関係者からしてもありがたい話です)
とはいえ、実際には制服や学用品などの負担も決して軽いものではないため、多くの家庭の家計は火の車なのは変わっていないようです。
進む完全無償化
そんな中、大阪を中心に関西圏の自治体では私立学校を含む完全無償化が進みつつあります。
もちろん自治体の費用負担も大きい政策であるため、持続可能性などについてもきちんと考える必要はあるにしても、非常に歓迎すべき政策です。
これに倣って先日は奈良県も発表があっています。
東京都も同様の政策を2020年度から行っています。
ただ注意しなければならないのは、奈良や東京の政策と大阪のものは決定的に異なる点が存在するということです。
それは「910万円の壁」です。
「910万円の壁」
大阪府の私立無償化に関しては世帯年収の制限がありません。高所得家庭も貧困家庭も一律に無償化の恩恵にあずかることができます。
しかし、奈良や東京の場合には「世帯年収が910万円の場合」という制限がついています。
この「910万円の壁」問題は非常に深刻です。
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【東京都】年収910万円未満の世帯で私立高校授業料は実質無償に!
上図はベネッセのサイトからの引用です。これを見れば分かるように、910万円未満の場合は47500円、奈良県の場合63万円が支給されるとなっています。
しかし、それを超えた場合は支給がストップし、しかも国の就学支援金も無くなります。
では910万円の収入はそこまで裕福でしょうか。
もちろん平均所得からすれば決して少なくないのですが、いわゆる富裕層と呼ばれるレベルでは決してありません。
年収910万円の場合、45歳で手取りは660万円となります。ちなみにこれより年収が100万低い810万円の場合、手取りは600万円となります。
ここで奈良県在住、私立学校に通う子供が一人いる家庭で考えると910万円の場合は手元に残る金額は600万円、一方で810万円の場合手取りの600万円が無償化によってそのまま600万円になるわけです。
こうすると年収が100万円上がったにも関わらず子供の教育費を除いた可処分所得は全く変わらないというかなり矛盾した状況が発生するのです。
特にこの年収900万円あたりから所得税の税率も上がり(23%→33%)、行政補助もカット(830万円で児童手当限度額に)される傾向にあるため、実際には豊かさを感じにくいと言われています。
またこの制度のために給与を頭打ちにする言い訳を企業に与えてしまっている現状もあり、これが景気の低迷の原因の一つともなっています。
大阪府はモデルケース
こうした不公平感のある政策、特に910万円という所得制限は子供自身には責任の無い環境的な要因でしかありません。
それを理由に教育機会を失ったり、選択肢の幅が狭まることは決して合理的ではありませんし、豊かな国家とは決して言えないでしょう。
現在、私立高校無償化や補助が全国的に広がりつつあります。
もちろん、無償化が進むだけでありがたいのはやまやまですが、大阪府をモデルケースとして、所得制限を撤廃した形での制度普及が全国的に広がることを願いたいところです。