【題未定】新宿タワマン刺殺事件に思う、自分にもあり得た世界線【エッセイ】
新宿タワマンの刺殺事件がSNSで話題になっている。51歳の中年男性が水商売の20代女性に入れあげて、所有していた車やバイクを売却したお金をつぎ込んだことでトラブルになり、女性を刺殺したという事件だ。
男性が売却したという車やバイクを見ると、この男性が相当な趣味人であったことがうかがえる。車の車種はNSX、本田が国産のスーパーカーとして送り出した伝説の名車だ。ボディはアルミ製、ミッドシップ(エンジンが座席後方に位置)し新車価格は当時でも1000万円を超えるぐらいだったと記憶している。男性のNSXはアメリカで販売されていたアキュラブランドのもので、左ハンドルというから、市場価格はともかくその希少性は高い。バイクにしてもNRだという。新車価格は500万円オーバー、限定300台で生産された超レアなバイクだ。これらを同時に所有しているのは日本全国で見ても稀だろう。それほどの人が所有していた車両を売却し、その金を女性のために準備するというのだから入れあげ方は相当なものだろう。
言うまでもないことだが、この50代男性が女性を刺殺した行為そのものは養護しようのない事実であり、れっきとした犯罪だ。一部報道やSNSで言われているような女性の「詐欺」的な行為が仮にあったとしても、それを理由として殺人をすることは何人も許されるものではないし、免罪される余地はない。私自身も彼を擁護する気などさらさらない。しかし同時に果たして彼の行動をどれだけの人が笑うことができるだろうか。
ある一定の年齢まで、独身男性は趣味に時間とお金を費やすことが生活の満足度となっている。現在、42歳の私の同世代においてもそうした充実感を見せている例は少なくない。しかし、5年後はどうだろうか。私よりも少し上の世代に目を向けると、世帯を持たないアラフィフ男性の姿は40代までの趣味を謳歌する自由人といった印象から一転し、寂しさを抱えた中年へと変貌するように感じる。
40代の半ばを迎えると体力的に衰えが見えてくる。それまでは趣味に際限なく時間を費やしても平気だったのに、趣味の時間さえ億劫になることもあるという。細かい作業は老眼で難しくなり、肥満との戦いは日々繰り返され、生活習慣病の不安も毎日の食事に顔を見せるようになる。そうなったときに、それまで趣味を生きがいとして生きてきた人間が寂しさから飲み屋に通い、若い女性に入れあげる可能性は決して否定できない。私は現在、結婚をし、子供もいて今回の50代男性とは異なる状況におかれている。しかし何らかの選択肢の違いによっては、彼の姿は私のあり得た未来の一つもあるのだ。(そしてこれから先、彼のようになる可能性も決してゼロではない)
繰り返しになるが、彼のやったことは犯罪でその点に関してはかばうことはできない。しかし「独居おじ」などと揶揄したり、若い女性に本気になったりすることをあざ笑うことを果たしてどれだけの男性ができるだろうか。多くの男性にとって彼のありようは別の世界線における自身である。願わくは、第二、第三の彼が新たに出ないようにしたいものだ。
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