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【題未定】シルバー民主主義からの活路:石破自民への失望と国民民主の台頭【エッセイ】

 先日の衆院選において自民党は議席数を大きく減らした。この要因は様々であるが、政権与党としての緩みが出たことで支持層が離れたというのは間違いないだろう。とはいえ岩盤支持層が盤石であるのも事実で、実際には衆院における最大勢力であることは間違いない。

 この岩盤支持層の多くは地方の農村部の住民や高齢者である。そうした傾向は都市部と地方の小選挙区の結果を見れば明らかだ。この層はよほどのことが無い限りは自民党以外の候補に投票することは少ない。というよりもその候補と支持団体が自民党に属しているから自民党を支持するという言い方の方が正確だろう。そして候補自身は地元への利益誘導のために自民党に所属するという関係が55年体制から変わらない図式となっている。

 では今回自民党を支持しなかった層はどの層だろうか。一つは高齢で無党派に近い人達だ。彼らは自民党の様子を見て、状況に応じて最大野党に支持を変える傾向がある。この層が今回、立憲民主党の議席数増に寄与したのではないだろうか。

 さて、それとは別にここ数回の選挙で自民党を消極的に支持してきた層が存在する。それが30代を中心にした若年層だ。彼らの多くは経済政策を理由として自民党を支持してきた。30代はリーマンショックから東北大震災の時期に大学を卒業している。この時期の就職に苦労した世代の旧民主党への忌避感は強い。また20代の後半層はアベノミクスの恩恵にあずかり、就職を優利に勧めた層だ。したがってこの世代は自民党、安倍晋三に強い信頼感を感じていた世代でもある。また外交的にも弱腰外交からの転換、中国の軍事的台頭など国際情勢の変化からいわゆるタカ派を支持する傾向が強いことも特徴である。もちろん、アベノミクスの全てがうまくいったわけでは当然無いが、就職率や賃金上昇のきっかけとなった原体験は心理的に大きいだろう。

 彼らの多くは安倍晋三を中心とした自民党政治に対してはシンパシーを感じているが、旧世代的な自民党政治に対してはむしろ反感を持っている。この点、実際には安倍晋三こそ実は腹芸の最も得意な政治家であるとも言えるのだが、そう見えないところが彼の政治的なセンスかもしれない。したがって、安倍総理からの菅総理、岸田総理という禅譲に関しては差こそあれども自民党支持を崩さなかった。小変更や微修正は行われていたが、少なくとも方向性は大きく変化していなかったからだ。

 ところが先日の自民党総裁選で石破茂氏が当選し、総理となった。ここに彼らの自民党への忌避感が極限に高まった。そもそも石破茂氏は財政的にも緊縮派、しかも安倍氏と対立していた。さらに後ろから撃つ、と評されるタイプであり、加えて外交的にも親中派と見られているのも大きかった。彼らが石破自民を支持する理由が無くなってしまったのだ。

 そこでこの若者層の受け皿になったのが国民民主党である。国民民主党はそれまでの自民に近い政策を軸に、若者層の雇用や所得、若者の社会保障負担の軽減を訴えてきた。またそれをSNSを中心に拡散したことで支持が拡大したようだ。
(文字メディアでの拡散の強い国民民主に対し、動画メディアでの拡散の多いれいわ新撰組、参政党の違いは支持層の年代にも表れていて興味深い)

 今回衆院選の負けた自民が依然として最大勢力であること、立憲民主党の議席大幅増という結果は高齢者が政治に大きな影響力を持つという事実をまざまざと示すことになった。しかし一方で国民民主党の躍進により、30人程度の議員を国会に送り込むことができれば、キャスティングボートを握って若者層の意見を政治に反映させることが可能であるという理論を現実化することともなった。

 もちろん、今後の政局の動き、国民民主党の働き如何ではあるがそうしたシルバー民主主義を打開する道筋が少しでも見えたという点において、今回の衆院選はこれまでの選挙とはその意味が大きく異なるものだったのではないかと思うのだ。

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