【題未定】九州の正月文化──三社参りが語る地域の風習【エッセイ】
正月に初詣をするのは日本中に定着した風習の一つだろう。当然ながら私が住む九州でもその風習は存在し、三が日などは人気のある神社は参拝客でごった返している。
それほどの定着した風習であるが、九州では神社をいくつお参りしたか、という話題が正月には交わされることが多い。この問いの意味を理解できない人もいることだろう。ところが九州ではこの問いに対して「三つ」という答えが老若男女を問わず淀みなく返ってくる。なぜならば、九州では初詣は三つの神社へお参りするというのが一般的な文化だからだ。
これを「三社参り」といい、九州内では非常に定着した参拝形式だ。この「三社」をどこにするかは住んでいる地域によってさまざまであるが、福岡であれば「太宰府天満宮」、「筥崎宮」、「宮地嶽神社」などを含む三社、熊本ならば「藤崎八旛宮」、「加藤神社」、「健軍神社」などを含む三社は比較的有名なところだろう。
この「三社参り」、兵庫県以西では行われている地域が多いということだ。一方で近畿より東側では一部を除いて行われていないようだ。例外的に「東国三社参り」が行われている。と言ってもこれは元は初詣ではなく、伊勢参りのみそぎとして「鹿島神宮」、「息栖神社」、「香取神宮」の三社をお参りする習慣が定着したものだということだ。
ちなみに九州人は三社も参るのだから信心深い、信仰が厚いかというとそうではない。これらはあくまでも文化習俗として定着しているに過ぎないからだ。事実、神社の種類、八幡宮や天満宮、稲荷を区別している人はほとんどおらず、地域の祖神や有名どころの物見遊山がてらで三社を回っているケースが多いようだ。
私もそうした不信心者の一人であろう。しかし今年はすでに熊本で7社、宮崎でも4社ほど回っている。散歩がてらに参拝をしている数を入れてしまうと相当な数の神社にお参りをしている計算になる。
この時期に感じるのは神社参りという文化は年中行事と化し、神社という場所が多くの人にとって日常的に訪れる場所ではなくなったのだ、ということだ。普段から神社へ足を運んでいると、普段の参拝客とこの時期の数の差に少々戸惑いを覚えるぐらいだ。特に大きく立派な神社であるほどその傾向は強く、正月三が日の行列には驚くばかりだ。
だからといってこの場で説教臭く普段から神社へ行けとも、あるいはこんな時だけ来るなというつもりもない。信仰や信教は個人の自由であり誰かが上から偉そうに教え諭すような類のものではないからだ。
加えて言えば、この時期の参拝客は総じて金払いが良い。お守りや破魔矢、みくじなどを何個も買い占めている姿を見ると、彼らの浄財で文化財の維持ができている側面もあるだろう。
そうした人々の価値観を否定するつもりはない。ただそうしたライトな参拝層の中のいくらかの人たちが寺社仏閣に興味を持ってもらえるように、神社巡りに関して今後もnoteで発信していきたいと再確認した正月になったのではないかと思うのだ。