守られない通達と形骸化する入試制度──年内入試規制の実態
年内入試に関する通達
文部科学省は先日、学力試験を年内に実施する大学が散見されているとして、試験の実施期日の順守を求める通知を全国の国公私立大に出したと報道されました。
本年度において東洋大学と大東文化大学が学校推薦型選抜において学力試験を課したことがこの通達の原因となったようです。
なぜいまさら
文科省は毎年、実施要項をまとめて各大学に通知を行っており、学力試験を課す場合は年明けの2月以降と定めていました。
とはいえこの通達は関西の大学では有名無実化しており、実際には年内入試の中で学力試験を課すことは少なくありませんでした。例えば京都産業大学の推薦選抜では英語と数学の学力試験が行われてきました。
中でも「基礎評価型」と呼ばれる形式では調査書すら点数化しないという、完全に学力型の試験となっていました。こうした大学は関西ではかなり以前から複数存在していたがこれまで問題化していませんでした。
そもそも関西系の大学では推薦書でさえも推薦文言があらかかじめ印刷されており、推薦者の署名捺印だけで完成するケースも少なくありません。その上多くの大学では併願可能な推薦であり、どう考えても推薦というよりは入学者確保の年内入試という形でしかありませんでした。
なぜこのタイミングで文科省がクギを刺してきたのか、よくわからないというのが大学関係者の正直な感想ではないでしょうか。
有名無実化する通達
今後、この通達がきちんと守られるかというと、その可能性は極めて低いと思われます。そもそもこうした推薦や総合型に対して、学力評価を行うことを義務化したのは文科省自身です。
どうしてこの段になってこの方針を覆すのでしょうか。
加えて今回の通達にはいくつもの抜け道が存在します。例えば学力評価の試験を英語や数学という教科名から変更し、小論文の中に組み込むこともできるでしょう。また調査書や推薦書の評価点の割合を下げるか、あるいは受験生に一律である程度点数を出してばらつきを抑えれば学力評価を合否の主な判定条件にすることは容易です。
そしておそらく文科省自身もこうした行為が発生することは分かっているはずです。したがって今回の通達はあくまでも世間一般へのアピール以外の何物でもない、ということになるでしょう。
したがってこのタイミングにおける文科省の動きは全く理解できないものです。二極化を是正する方向性を示すならば、より強い規制をかけるべきでしょう。
このタイミングで効果の薄い通達は一貫性に欠けるのではないでしょうか。
年内入試による青田買いはさらに進む
この通達が出された意図にはまったくそぐわず、おそらく大学入試における私立大学の年内入試による青田買いはさらに促進されることは疑いようがないでしょう。少子化が進む中で、少しでも定員を確保するためには、他大学よりも一刻も早く合格を出すことが最も手っ取り早い手段だからです。
したがって今後、共通テストを利用し国公立大学を受験する層と早期入試による私立大学進学者の層の分離はさらに進み、極端な二極化が起こることは間違いないでしょう。
この傾向が大学入試の難度や志願者動向にどの程度の影響を与えていくか、受験に関わる立場としては注視していく必要があるのではないでしょうか。