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「ICTで名を成した熊本市教育委員会の名が地に堕ちた日」



教員不足、52人の追加募集

熊本市教育委員会は2025年度の市立学校教員採用試験において、定員割れのために52人の追加募集を行うことを発表しました。

採用予定である314人に対し、52人不足の定員割れとなっており、追加募集の試験は12月1日に実施する予定のようです。

追加募集となった原因

全国的に教員の不足はここ数年の社会問題となっています。とはいえ、どこも1倍を割り込む事態までには至っておらず、あくまでも「スペア」としての講師が不足している状態に留まっています。特に政令市の場合、転勤などの面で県の採用試験よりも人気が高いことが多く、今回の熊本市の追加募集をせざるを得ないほどの不足に別の原因が存在します。

それこそが熊本市の部活動の地域移行見送りです。

部活動の地域移行

教員の不人気のもっとも大きな原因の一つが部活動顧問の問題です。公立学校において部活動の顧問はほとんど手当が支給されないまま時間外労働、休日出勤を強いられる強制労働と化しています。

もちろんその活動に意義を感じ、熱心に指導をする教員が存在するのも事実ですが、働き方改革が叫ばれる昨今において、また正当な権利意識の強い若者からすれば忌避されてしかるべき労働環境となっていました。

そんな中、部活動を学校や教員から切り離し、地域での活動へと移行させる方向で改革が全国的に行われてきました。しかしその流れに逆行するかのような方針を打ち出したのが熊本市です。

この発表は熊本県内の教員志望者にとっては熊本市ではなく熊本県を受験するきっかけに、教員志望の学生には他県への受験を、そして教員を目指す子供達には別の進路を考えさせる契機になったように感じます。

事実、不足しているのが中学校教員であるということを考えれば、そうした因果関係を否定するのは難しいでしょう。

教育行政の責任は大きい

熊本市教育委員会はコロナ禍において、それまでのICTへの早期の取り組みが全国的にも注目を集め、また高い評価を得ました。

ところがこの評価が昨今では地に落ちつつあるようです。あるいはICT対応で少ない人数の教員で十分な教育環境を賄うことが可能とでも考えているのでしょうか。

しかし現時点での教育、学校の法制度の下ではそれが叶うとは到底考えられません。今後もしばらくは人海戦術を余儀なくされることは間違いないのが日本の教育制度なのです。とにもかくにもこのままでは全国に先駆けて熊本市公教育の崩壊が起こるのは間違いないでしょう。

部活動制度に関しては民間移行が時間的にすぐにできない、あるいは現状を維持したまま移行が難しいというのは事実です。しかし批判が高まる中で熊本市の部活動改革検討委員会が現状維持をアナウンスしたことは明らかな悪手でした。

あれでは熊本市の公教育は教員に対し無賃労働を当然のように課し続けるというイメージを与えることにしかなりません。その結果、教員志望の若者への忌避感をこれまで以上に高めただけになってしまいました。

この発表、方針を打ち出した熊本市の教育行政、特に教育長である遠藤洋路氏の責任は重いと言わざるを得ないでしょう。

私立への流出はあるか

今回のような追加募集が毎年のように起こると、教員の質の低下が火を見るよりも明らかです。加えていえば、事実としての低下よりも、市民の公教育への不信感を高める効果が高いと言えます。

熊本市は人口規模の割に私立の中学校が少ないため、現在はそこまで私学への流出が極端に起こっていません。また祭りなどの影響から出身高校への帰属意識が高いことも中学までは公立という感覚を持つ住民が多いのも事実です。

しかし、今後TSMCなどの影響によって外部からの移住者や高校名に縛られない若い世代が親世代となっていけば、この状況も大きく変化することは容易に想像ができます。

事実、首都圏や大阪などの都市部では20年近く前からその動きが存在しました。現在、首都圏における中学受験熱はここ数年最高潮に達しており、受験者数も増加の一途を辿っており、その影響は福岡市などの地方大都市にまで広がっています。

早晩、熊本市にもその流れが波及する可能性は十分に存在します。ルーテル学院が小学校を設置したのはTSMCという一企業の動向のみにとどまるものではないと思うのですが、どうなのでしょうか。

はたしてこの追加募集がきちんと枠を埋めることができるのか、そして次年度の採用で同様の状況が発生するのか。興味深く注視したいと思います。

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