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「教育学部の教授に小中高教員経験者、起用を義務化」は何のために行うのか?

教育学部の教授に教員経験者採用を義務化するという話がニュースになっていました。

文科省は今秋、大学設置基準を改正し、教員養成を目的とする教育学部などの教授らのうち、小中高校の教員経験者を「2割以上」にするよう国公私立大学に義務付ける。

この目標自体は決して大幅な増員というわけではなく、現状では16.1%であり、そこまで難しい数値ではなさそうです。

実効性があるのか

この施策にはどういった目的があるのでしょうか。

現在、国立大の教員養成学部では、教員経験のない研究者らが目立ち、現場での経験に基づいた授業のできる人材が不足している。

私が学生時代に教員養成系の講義を受講した際も、ほとんどの教官は小中高の経験がない人だったように感じます。

しかし、一方で教員経験のある教官もいましたが、経験の無い人と比べて参考になるアドバイスをしていたかどうかというと疑問です。

基本的に大学の教授の本務は研究ですし、その研究からフィードバックを受けて何らかのスキルアップにつなげるのは学生個人が行うべき作業です。

教員経験というだけのn=1の事例で語るよりも、現場を外部から観測した客観性の高いデータを提示するのが大学の学びであるようにも感じます。

天下りポストの確保と厄介払い

さらにこの記事の中には恐ろしいことが書かれています。

教授や准教授などとして起用する教員経験者は、元校長や元教頭、現職の管理職らを想定している。

管理職の天下りポスト確保政策の一環であることは疑う余地が無いようです。

そもそも校長の再任用に関しては現場からの不満の声が少なくありません。

現職の校長や管理職からしても指揮系統が乱れることで混乱を生みますし、担任や教科授業を長らく担当しておらず、現場での戦力として数えられる人はそれほど多くはありません。
(もちろん中には熱心に取り組まれたり、再度勉強している尊敬に値する人も存在します)

にもかかわらず、教員の人数としてはカウントされるため、若手、中堅教員の負担の原因となっているのは明らかです。

どうやらこの施策は明らかに現場からの厄介払いの意味も多分にあるように感じます。

ピーターの法則

教員の仕事は現場での担任や教科指導と、管理職の職務が大きく異なります。

そのため管理職に昇進する人は必ずしも現職教員のスキルが優れているとは限りません。

工場勤務の優秀な職工が昇進して管理職になると、これまで得た技術が新しい仕事に役立たず無能になる。このようにして、仕事は「まだ『無能になる』地位まで達していない人材」によってなされることになる。

ピーターの法則が必ずしも成り立つわけではありませんが、一般の行政、事務職と比べると営業職や教員は、現場の業務と管理業務とが乖離しており、その傾向は高いように感じます。

果たして管理職経験者の知見が、教員育成に対して有効性がどの程度あるのかは不明です。

早期離職を防ぐ効果

文科省は以下のように目的を説明しています。

教育理論だけでは分からない苦労や実態を学生の段階で知ってもらうことで、教員になってからの早期離職を防ぎたい考えだ。

しかし、苦労や実態を学生の段階で知って、その上で教員になることを希望する人はどれほどいるのでしょうか。

実際、教育実習へ行って就職活動を決意したり、行政職志望に変更する人は少なくありません。

そもそもの問題は労働環境の問題であり、それを改善しなければ根本的な教員志望者の減少には歯止めがかかるはずはないでしょう。

正直、今回の施策に期待できるところは少ないと感じています。

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