見出し画像

大阪府はどうして私立高校を無償化するのか


注:本記事は私学教員である筆者のポジショントークが多分に含まれることをご理解の上、ご覧ください。

大阪府、私立高校無償化

大阪府は令和6年度より私立高校を原則無償化していく方針を打ち出しています。

この新制度の目的は以下のようなものとされています。

  • 自らの希望や能力に応じて自由選択の機会の保障

  • 子育て世帯の教育費負担を軽減

  • 国公私立の高等学校等の切磋琢磨による教育力向上

もちろんこうした目的があること自体は嘘ではないでしょうし、ある程度はこの目的の達成は可能でしょう。しかし一方ですでに次のニュースのような弊害が出ているようです。

なんと70校以上の公立高校で定員割れを引き起こしているというのです。

公立の定員割れの理由

この理由として考えれらるのは当然ながら無償化によって私立高校を選択できるようになった人たちの私立高校人気による公立高校離れです。

これに関して府教育委員会は以下のように分析しています。

大阪の私学入試は2月上旬、公立入試は3月上旬というスケジュール。「早めに進路を決めたい」というニーズで私学を選ぶ生徒もおり、試験日程を早めたほうがよいのではないか、という意見があるという。

私立高校の場合、専願日程が2月中旬のため進路を決定したい層が試験時期の早い私立高校に逃げたという分析をしています。

しかしこの点に関してはあまりに安直な分析ではないでしょうか。たしかにそうした安易な選択をする受験生がいることは否定しません。しかしそれだけで考えるのはあまりに早計でしょう。

私立の公立に対する優位性

私立高校は公立高校と異なり、私企業としての側面を持っています。当然ながら生徒が集まらなければ廃校になりますし、そうでなくとも職員の給与や待遇の悪化が現実問題として存在します。

一方で公立高校ではその学校が廃校になろうとも、定員割れしようとも教員の待遇は守られたままです。

その結果、私立高校は低学力校であってもかなり進路保証その他に対して手厚い指導を行いがちな傾向があります。

もちろん公立の教員も大半は熱心な人たちです。しかしそうではない不勉強であったり、意欲の低い人が一定数存在するのは間違いありません。私立高校にもそうした教員は存在しないわけではありませんが、公務員と比べて淘汰されやすい環境です。また不良生徒の排除や隔離に対しても公立よりも私立の方が自由が効くのは間違いありません。

そうした点を考慮するとむしろ低学力層の生徒ほど私立高校を選ぶことへの妥当性が存在することになります。

行政サイドはこの結果を予想していなかったのか

府教育委員会は定員割れが大量発生するというこの結果に危機感を持っているようですが、果たして行政サイドはこの結果を予想していなかったのでしょうか。

私の個人的な感覚で言えば、むしろ行政サイド(そして大阪維新)はこの結果になるように政策を打っていたように見えます。

この話をする前提条件として押さえておくことは、私立無償化に対して教育委員会は一切権限を持っていない、ということです。私立学校に関して教育委員会は何らの監督権限を持っておらず、私立学校はあくまでも独立した機関であり、私学振興課でさえも名目上の監督官庁に過ぎないのです。

そして今回の私学無償化の真の目的はおそらくですが大阪府による私学への高校教育のアウトソーシングでしょう。

公立高校は県にとって大きな負債となる存在です。生徒が集まらない地域にも一定数設置をすることが求められますし、箱モノを整備することも、また教員を確保する必要もあります。箱モノは長期にわたる負債となりますし、教員は公務員として一度採用すると安易に解雇することができないため、長期間にわたって人件費を圧迫することになります。

一方で私学の場合は低所得層はそもそも国の補助で無償ですし、残りの層の学費補助を行えばよいだけで済みます。またこの補助も箱を整備する必要もない上に、あくまでも実生徒数の分だけのため、人口減によって予算を縮小することも容易です。

今回の大阪府の政策は私学がある程度点在している県においては比較的スムーズに導入が可能であり、おそらく大規模自治体の行政側の人達はこの政策を自県に取り入れることを前向きに検討しているのではないでしょうか。

全国へ波及するか

この私学無償化、高校教育のアウトソーシングの流れは全国的に波及する可能性が高いと感じています。

ただ、多くの自治体では教育委員会など教育行政との板挟みとなる可能性が高く、大阪維新ほどの剛腕な首長、議会無しには難しいでしょう。

とはいえ、首都圏や京都、兵庫、愛知などの私立高校が十分に存在する県においては可能性のある動きなのではないでしょうか。

いいなと思ったら応援しよう!