【題未定】若き日の夏、スーパーで得た社会の縮図」「ラッピングから学ぶ職業の基本【エッセイ】
大学時代、最も記憶に残っているのはアルバイトのことかもしれない。もちろん放蕩学生だった1、2年のときはともかく、心を入れ替えた後半戦はかなり真剣に勉強をしたし、ゼミでの学びは今でも私の教員としての芯になっている部分があることは間違いない。しかしそうした学び以外に、社会を知る充実感があったことも事実だ。
当時、バイトのほとんどは塾講師や家庭教師を行っていた。将来的な事情や時給、何より教えるという行為が好きであったという事情もある。とはいえ学習指導系のバイトばかりしていたわけではない。今回はそのときの思い出を書こうと思う。
そのアルバイトというのがとある大型スーパーにおける販売員というものだ。ただ、長期的な店員ではなくお中元のバイトという短期のものになる。そのスーパーは当時は熊本県内では1、2を争う巨大グループで、スーパー以外にもディスカウントストアなどを展開する熊本を代表する存在であった。そしてその旗艦店の一つでお中元アルバイトとして働くことになった。
お中元バイトの仕事は接客、レジ、品出しと包装と発送業務が存在する。そして女性アルバイトは前者二つを、男性アルバイトは主に後者二つを担当することが多かった。
品出しは見本の周辺に一定数の商品をバックヤードから持ってきて並べる作業を行う。それと並行して包装と発送業務をこなす。例えば洗剤の詰め合わせセットの注文を受けた場合、持ち帰りならばまず現物を確保するためにバックヤードまで走って注文数を確認し、カートに乗せて売り場へ戻り、包装をしてお客様にお渡しするという具合だ。一方、発送の場合は店舗発送と直送の二種類が存在する。直送は伝票を配送センターまで回すだけだが、店舗発送の場合は同じくバックヤードで確保し、包装をして記入済み伝票を張って発送する。
したがって男性バイトはかなりの力仕事となる。お中元で人気の油や洗剤は特に持って帰る客も多く、しかも高齢者や女性客が多い。必然車まで同行し、積み込みまで手伝うことになる。夏のバックヤードは蒸し風呂のように熱く、売り場との行き来は体への負担も大きい。若いからこそできた仕事だったと思う。
このバイトは1か月少々だったが、現在においても役に立ついくつものスキルや知見を得ることになった。最も目に見えるスキルとしてはラッピングだろう。お中元売り場では100単位での持ち帰り客が頻繁に訪れるため、注文を受けると大急ぎで包装をする。そのため一生分と言っていいほどのラッピングをしたのか、今でも紙と箱があれば包装できるようになってしまった。
得た知見として最も大きなものは在庫管理の重要性である。私がバイトしていた店舗は残念ながら在庫管理が非常にいい加減であった。きちんと管理していれば、注文を受けた時点で何が何個残っているかなどすぐに分かるためスムーズに対応が出来るはずだ。ところがあの店舗では毎回バックヤードまで走るということを繰り返していた。しかも納品された在庫は一切整理されずに雑然とおいてあるという始末。さすがにこれには呆れたため、個人的に全て整理して品目ごとに並べ直して一覧を作ったのを覚えている。
実際、このアルバイト先のスーパーのグループはそこから数年も経たない内に経営不振となり、別の地域の小売グループにまるごと吸収されることになる。こうした在庫管理などの甘さや、経営者一族の風紀の乱れなどが原因だったことは言うまでもないだろう。あの大手企業が、と誰もが驚く地域経済を揺るがす出来事であったが、内部を見た側からすれば決して意外性のある買収劇ではなかった。盛者必衰とはこのことであろう。
このアルバイトは短期間であったが、ほぼ毎日シフトに入っていたため、なかなかに学ぶことの多い時間だった。バックヤードで誰かれ構わず挨拶をしていたら色々な人に声をかけられるようになったこと、既婚の幹部社員と女性社員が怪し関係にあると見るからに分かったことなど、大学入りたての若造が社会を見る経験をさせてもらったことに関しては感謝している部分も大きい。だからこそ、四半世紀経った今でもその時のことを覚えているのだろう。
今思い返せば、現在の自分の仕事や社会人としての在り方の基本を学ぶ場所になっていたのだろう。もしかしたら教員の仕事にこうした基盤がいきづいているのかもしれない。