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教員不足の「追加募集をさらに追加」──教育崩壊の足音
熊本市教員採用試験追加募集の追加
先日、熊本市は初めて教員採用試験の受験者、合格者の不足を補うための追加募集を実施しました。ところが52人の追加を目標として募集をかけたところ、応募は19人となり依然として不足したままの状態が続いています。
そのためさらなる追加募集を行うようです。
この結果に対して教育委員会のコメントは以下のようなものです。
■熊本市・上村清敬教職員課長 「おっしゃるようにですね、なかなか合格できない方を正規採用の補填として、悪く言えばいいように使ってた部分があってバチが当たったっていうのはおかしいんですけど、(しっぺ返しみたい)そう受け取られても仕方ない面もあろうかと思いますんで、熊本市としてはこれまで10%を超えていた臨採の比率をなるべく低くしていこうと、それも含めて大量に採用しているところです」
「バチが当たった」という言いぐさに読んだ方はどのような感想を抱くのでしょう。あまりにも他人事、無責任な印象ではないでしょうか。そもそも子供が減少する、という体で正規採用を絞りその教員の不足分の人員を自分たちが不合格=不適切という人間に斡旋し、不正規雇用で使い倒してきたのが教育委員会、教育行政です。
この記事ではあたかも教育委員会がそのツケを払っているように印象操作されていますが、実際にツケを支払うのは教育を受ける子供達です。自分たちの無計画、行き当たりばったりの採用計画の結果、市民に迷惑をかける状況になっているにも関わらず「バチが当たった」という物言いはあまりにも他人事で不遜な言い方ではないでしょうか。
熊本市は政令指定都市である
熊本市は多くの全国の多くの自治体と異なり、政令指定都市です。政令市は教育行政において、市の教育委員会が人事採用の権限を持っているため、熊本県とは別に独自の教員採用試験となっています。
多くの都道府県において政令市の教員採用試験は都道府県のそれよりも人気が高いこと多いようです。その理由は人事異動において県の教職員が県内全体に渡って異動が発生するのに対し、政令市の教職員は原則、政令市内を異動することになるからです。
地方の政令市の場合、市内にいわゆる僻地を抱えているケースもありますが、それでも県内全域と比較するとはるかに利便性の高い地域のみの異動になります。また広域異動や人事交流も存在しますが、例外的な扱いが強いようです。
可能ならば都市部を好む若者、子育て世代の教員にとっては政令市の教員が魅力的に見えるのは必然でしょう。
政令市なのに教員不足
熊本市も全国の自治体と同様「未配置」の状態となっています。本年度も17人の不足からスタートしているようです。しかしこれは実態を表す数値ではありません。ここから年度途中での病気療養、退職、産休、育休などが上乗せされるからです。
つまり、政令市という条件的には恵まれているにも関わらず、人員不足が恒常的に発生しているということです。そしてそこには確たる理由が存在するのです。
それが何度も話題となっている部活動の地域移行の問題です。
熊本市はこの3月に部活動の地域移行に関して見送りを発表していますが、一方で熊本県は令和7年度末までには完全に地域移行を完了する予定を計画しています。この事からも熊本県内の教員志望者のある程度の人たちは熊本市から熊本県へ鞍替えした可能性は高いでしょう。
そもそも部活動の地域移行への教育委員会の問題意識の低さは、現代の若者たちにとっては働き方改革への後ろ向きなメッセージとなっているでしょう。教員という職業そのものから志望変更をする人間は少なくないのではないでしょうか。
教育崩壊
このままでは熊本市の公教育は早晩、崩壊することは免れないでしょう。しかし教育崩壊の恐ろしいところはそれが顕在化しにくい点です。教員が少なくても、教頭などが代理をすることで表面上は学校は成り立ってしまうからです。しかしその状況を恒常的に行なえばトラブルや安全管理の面で必ず齟齬が発生します。また学力に関しても同様です。ところがこちらに関しても学力への関心の高い家庭は塾などを利用するため、表面上は問題なく見えてしまうのです。
そして本当に立ち行かなくなった時点において一気に問題が表面化することになるでしょう。はたしてこの危機的状況を教育委員会のお偉方、あるいは市のトップがどこまで認識しているのか。現在、マスコミを通して得られる情報からはその状況認識が正確かどうか微妙なところでしょう。
もはや熊本市の公教育は危機的な状況にあります。追加募集の50人すら集められない政令市の教員採用はそれほどにその状況を表しているものなのです。
市政、教育行政のトップの英断が必要な時が来ているのではないでしょうか。