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【題未定】教員じゃなくてもできる仕事を割り振ることは可能か【エッセイ】

 教員採用試験の倍率が全国的に低下している。もちろん給与や安定の点から、現職教員が大量退職する事態にまでは陥っていないが、明らかに新規参入者が減少していることは学校現場での肌感覚でも十分に分かるほどに深刻化している。

 私の勤務する私立、しかも高校もその波に翻弄されているのは間違いない。とはいえそれはマシな方で公立学校、特に小中学校においてはその影響はさらに大きい。配置定数が決まっているにも関わらず、病休や育休が発生しても加配がないということが頻繁にあるようだ。学校によっては教頭まで毎日HRに行っているという状態があるようだ。これが健全な教育環境であるとは到底言えないだろう。

 この状況の改善にさまざまな提案や議論が行われている。そしてその中の一つに「教員ではなくともできることを別の職員に回す」という案が存在する。要は「授業」などの教員免許必須の業務以外を嘱託職員などに委託し、教員の時間的ゆとりを作ろうという考えだ。

 こうした考え自体は決して間違ったものではない。実際、諸外国ではそうした試みがかなり以前から行われていることもある。ところが正直なところ、現場教員の感覚からするとこれは難しいのではないか、という認識を持っている。その理由を以下に示していきたい。

 学校教員の業務のうち、教員免許が必要なものは「授業」や「HR」など生徒を直接指導する業務である。これに加えて評価、生徒指導、進路指導などが免許業務に分類されるだろう。ところが直接的にこれらの業務には入らないが、付随する形で保護者の面談、声掛けなどが存在する。これらは直接的には免許が必要ではない可能性が高いが、指導に対する影響力が大きく、他者に委託をした場合は本来の業務に支障が出る可能性が高い。それ以外にも採点業務なども生徒の状況把握に効果が高いだろう。加えて行事の運営や監督、給食指導なども同様である。

 もちろん、これらの業務のうちのいくつかは必ずしも教員がやる必要のないものもあるだろう。しかしそれらを委託することで「取り上げられる」と感じるトラッドな現場教員も少なくないはずだ。そして逆に委託したい若手教員との間で対立が起こるのは必然である。その結果、現場では教員の業務か、委託職員の業務かが学校ごとにまちまちになる。この状況から、加配職員を減らし人件費を削減した校長が評価される制度に収れんされていくの時間の問題だろう。

 結局のところ、文科省や教育委員会からの調査業務や印刷が委託できる業務となってしまう。ところがそれならばそもそも用途の限られた人員を増やすこと自体が非効率である。調査の量や回数を減らし手順を簡略化したり、印刷をしなくとよいように完全ICT化する方が経済的かつ効率的ではないだろうか。

 教員の労働問題は教員不足、業務の増加、教員自身の意識の三点が根源にある。そして小手先で教員不足をいじったところで解決には結びつかないだろう。行政主導による業務の削減、そして教員自身の「何でも屋」からの意識改革がなされない限り現状の教育危機を脱することは難しいのではないかと思うのだ。部活動も含めて、全てを引き受けることで対応する意識から、自身の業務の適正範囲を認識して職務を果たす感覚へアップデートが迫られているのではないだろうか。

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