九州大学は九州の「東大」:九州の大学別受験事情①
私は九州で高校教員をしていますが、生徒たちの多くは九州内の大学を進学先として希望しています。
これはおそらく他の地域、特に首都圏や関西圏以外の地方とは異なる状況のように思います。
こうした九州に住んでいる人間の偏差値表や受験動態数では測ることのできない肌感覚的なものを、今回は書いていきたいと思います。
九州中から人を集める福岡
福岡県は自県進学率が6割を超えており、九州内の他県の進学先のトップも福岡ですので、福岡県の大学には九州内の多くの高校生が進学を希望します。
事実、福岡市は日本の中でも人口が増加している珍しい年であり、その移住者の多くは九州他県や福岡県内からの転居者です。
福岡市内には非常に人気のある大学が複数存在し、進学を期に福岡に住むことも多いようです。
誤解を生む表現ですが、九州の「東京」という言い方は地元民の感覚的な部分では納得のいく表現でもあります。
九州人の中には、本物の東京は海外に近い印象を持つ人もいます。実際、福岡からであれば釜山は船で行けます。福岡から飛行機で行けば、フライト時間自体は東京よりもソウルが短いのです。
そうした背景を抱えた中で、最も多くの九州の受験生が希望するのが「九州大学」です。
九州唯一の旧帝国大学
九州大学は九州内で唯一の旧帝国大学で、1911年の開学以来、九州の学術研究や人材育成のトップを走ってきた大学です。
学部数は12学部を数え、「指定国立法人」の指定を国から受けています。
研究力も高く、九州で最先端の研究を学びたいという場合には一番最初に候補に上がる大学です。
その分入学難度は高く、河合塾のボーダー偏差値で文系60.0、理系は57.5、と九州内では群を抜いています。
特に福岡においては大学そのものや卒業生の評価が高く、福岡市が九州の東京ならば、九州大学は九州の「東大」といってよい存在です。
こうしたことを書くと、偏差値原理主義の方から「レベルが違いすぎw」というコメントをいただくかもしれませんが、地元の評価ではこうした認識は決して冗談ではないのです。
「七社会(互友会)」と九州大学
福岡市に本社を置く有力企業7社によって構成される任意団体を「互友会」と言います。通称を七社会と言い
九州電力
福岡銀行
西部ガス
西日本シティ銀行
九電工
西日本鉄道
九州旅客鉄道(JR九州)
以上のインフラ、金融の7社が構成企業です。どれも九州の財界に強い影響力を持つ企業ばかりです。
引用記事にあるように、最近はこうした企業のトップに九州大学出身者が増えています。これは福岡の存在感が全国の中でも高まっていることも要因でしょう。
もちろん、以前から九州大学から七社会というルートは九州人の立身出世の典型例的なイメージはありました。東京大学から官僚になるイメージに近いかもしれません。
九州トップの企業とはいえ、所詮は九州という日本の10分の1の人口の島でしかありません。九州大学出身者であれば、七社会の企業よりも収入や待遇の良い就職先はいくらでも存在します。
しかし、こうした企業に就職をする九州大学出身者の多くは、九州を良くしたいというエリート意識をもっていることも多いようです。
さらに、最近はトップまで含めて九州大学出身者が増えつつあり、九州のエリートコースの定番化がますます進んでいる印象です。
九州という独自の文化圏
九州でも東京志向の人などは一定数存在します。
しかし、印象として福岡が九州の首都としての役割を果たすことで、ある種独自の文化圏が形成されており、東京志向の人は転勤族など、根っからの地元民ではない人が中心という印象です。
古い曲ではありますが、クリスタルキングの『大都会』は福岡のことだそうです。リリースされた1979年の頃からこの感覚は変わっていないということになります。
進学における選択も、九州の高校生の多くは九州大学、それが難しければ九州内の国公立大学を選ぶ傾向が強く、関西や関東の大学を希望する生徒は非常に少ないです。
また、近年は海外進出などを考えた場合でも、東京を経由するメリットが薄くなっています。
ここにアジアの玄関口としての福岡の強みを加味すれば、わざわざ東京に行かず、九州内での進学、就職で完結するライフスタイルが支持されるのも無理のない話といえます。
以上のような状況から、九州大学に進学することは、九州という地域の価値観の中においては受験難度や研究実績以上の価値を持っていることがわかります。
そういった意味で九州大学はまぎれもなく、九州の「東大」なのです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?