「教科書選定」に関わる汚職とその影響
日本においては義務教育課程の場合、教科書は自治体ごとに採用を行います。
先日、教科書大手の「大日本図書」の大阪府藤井寺市立中学校の教科書選定に関わる贈収賄事件が報道されました。
こうした問題は、実は数年前にを起きており、公教育と教科書出版会社との癒着は根深い問題のようです。
2016年の「三省堂」から始まる収賄事件
6年前の2016年、国語などの教科書を出版する「三省堂」の贈収賄が発覚しました。
これは検定に関わる「調査員」を担う教員に対し、教科書内容に関して意見を伺い、その謝礼を払うという形で金品の授受が行われていました。
この事件は10社が同様のことを行っており、関与した教員の数は延べ4000人に上る一大疑獄事件となりました。
実はこの事件以前にもこうした贈収賄は起こっていて、古くは戦前にさかのぼります。
こちらの事件の結果、検定制度から国定教科書の導入と大幅な制度変更が行われました。
贈収賄事件が定期的に起こる要因
数年おきに贈収賄事件が発生することから、公教育や教科書採択制度には本質的にこうした事件を起こす要因があるようです。
教科書会社からすると、地域ごとに一斉採用となる教科書は特定の自治体だけで大量の発注を見込める大口契約です。
さらに、教科書採択は数年に一度しか見直すことがないため、一度採択されると数年は発注が入り続けることになります。
逆に言えば、一度採択から外れると数年は発注が見込めないことになり、出版社としては苦しい状況になるでしょう。
そのためにも、なりふり構わず採択を取るという業者が出てもおかしくありません。
教員側からしても、教科書を事前に確認出来るなどのメリットがあります。
また、教科書会社から声がかかるということは、有能な教員として教科書会社や教員間で評価されているという優越感をくすぐられるという大きな得点が付きます。
教科書会社は教科書採択に関わる「調査員」になりそうな教員に接触するために、評判などを調査していて、声をかけられること自体がフラットな組織の教員業界においては価値を感じる人も多いのでしょう。
6年前の事件後、献本などがほとんどなくなった
私立学校の場合、教科書の選定は各学校ごとに現場の教員が行います。
そのため、次年度採用する教科書の内容を比較して選びたいと考えるのは当然でしょう。
しかし、6年前の事件後、教科書会社は次年度採択予定の教科書の見本を持ってくることがなくなりました。
その結果、教科書の一部を取り出した「見本版」の冊子しか見ることができなくなり、事前に選定を行いにくくなったのです。
さらに、それまでは教員の人数に+αで献本を届けてもらっていました。事件後、こうした献本も賄賂に当たるとして規制が強くなりました。
教科書の場合、購入などにも制限がかかり発注も通常の書籍とは異なります。また、毎日、複数年使用することもあるため、汚れや破損の備えての予備が無い状況は貸出などもできず、授業に支障が出るケースもあります。(この辺りは、完全デジタル教科書になれば解決することかもしれません)
制度疲労が来ている
教科書の検定や採択に関してはもはや制度疲労が来ているのかもしれません。
公教育の地域一斉採択に関しても、同じ自治体内の文教地区とそれ以外で同じ教科書を利用することの教育的意義には疑問符が付きます。
また、人口のそれなりに大きな自治体においては、採択権者の権限が強すぎるために贈収賄が起きやすい土壌が生まれています。
こうした点からも、教科書制度に関しては見直す時期がきているのかもしれません。
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