学生非常勤講師というパンドラの箱に希望は残されているか?
教員の人手不足
全国的に教員の人手不足が問題化しています。
少し前に首都、東京でさえ倍率が1.1倍という低倍率を記録したということが話題になったばかりです。
東京ですら危機的状況なのに、地方はさらに悲惨な状況になりつつあります。
その中でも教員不足が深刻な自治体の一つが沖縄です。
沖縄県がいち早く開けた禁断の箱
その状況を打破するためのパンドラの箱を開けることを沖縄県教育委員会は決定したようです。
現役の大学生に臨時免許を交付し、教壇に立たせ非常勤講師として任用するということです。
これは一見名案のように思えますが種々の問題が存在します。
問題①:教員免許の問題
リンク先には教員免許取得予定者に対して臨時免許を発行する、としています。
しかしこれはどの時点で「取得予定」と見なすのでしょうか。
4年の前期の単位を取得した時期、とすると4年の後期以降となり人手不足の抜本的な解決にはつながらないでしょう。
仮に2年や3年次を考えているのであれば、どの単位までを取得したら「取得予定」と見なせるのでしょう。
私の記憶でも教員免許断念者のある程度の割合で、後半の単位取得が就職活動と重なって諦めているケースが多いように感じます。
そうであれば結果断念する予定の人に免許を交付することになりますが、これでは整合性が取れないでしょう。
そもそも免許更新時には失効者には臨時免許を出さなかったのに、免許を持っていない学生に臨時免許を出すというのもおかしな話です。
問題②:学生の本分は学業
現代の大学は非常に単位取得要件が厳しくなっています。
そのため、大学2、3年次でもしっかり講義が詰まっていますし、4年次には卒業論文の作成にゼミの勉強とかなり忙しいのが実際のところです。
これは私たちのような40代以上が学生だったころとは大きく異なる状況です。
非常勤講師は授業のみでよいとされていますが、実際には複数の業務を課されることがほとんどです。
教材作成だけでなく成績の管理、生徒情報の共有なども行う必要があります。勤務校によっては会議への出席を半強制的に求められるケースもあるようです。
そうした仕事が学業の合間に片手間で行うことが果たしてできるでしょうか。
いうまでもなく学生の本分は学業であり、いくら実地研修的な意味があるとしても非常勤講師はアルバイトです。
ところがそのアルバイトのせいで学業がおろそかになる可能性があるということになります。
学びを教える学校が他者の学びを阻害する結果になる可能性は十分にあるでしょう。
問題③:教員志望者を減らす可能性
学生に教員の枠を分けたとしても、教員志望者が増加したわけではありません。
学生非常勤講師制度は増えていない分を早めに刈り取って、当面の不足を補っているに過ぎないのです。
彼らのほとんどはそこ数年で正規の教員になる予定だった人たちですが、その人たちを低待遇の非常勤講師として使い倒すというのが今回の制度の問題です。
そう考えれば正規として勤務するはずだった人を逃がしてしまう可能性もあるということになります。
問題④:質の担保
そもそもが学生は教員になる研修を受けてはいません。そうした人間に臨時免許を与えて教壇に立たせるというのです。
昨今はたとえ免許取得者であっても、研修もなしに講師として教壇に立たせているにも関わらず初任者研修などの最低限の指導も行っていないことが問題となっています。
まして免許すら持っていない学生を教室の中に一人、放り込んで授業と生徒管理をさせようとすることは、教育委員会が教育の質をもはや問題としていないことを如実に表しています。
全国に普及しないことを祈る
正直な話、この制度を導入してしまえば、あとは焼け野原となるのを待つしかありません。
これは現在を乗り切るために資産を食い潰す、まさに焼き畑農業的な手法です。
一次的には事態を改善する効果があるかもしれませんが、持続的な教員の供給が絶望的なものになるでしょう。
また、教育の質の低下は更なる公教育への不信を生みます。
この制度は教員免許の意味を有名無実化させるものです。
そもそも実績の無い素人学生に丸投げするくらいならば、塾講師などの教育サービス従事者の中で教員免許を持っていない人に臨時免許や特別免許を交付する方がよっぽど教育の質を維持、向上させる効果があるでしょう。
この制度が広まらないことを祈るばかりです。
今回のパンドラの箱には希望が残されているとは到底思えないのです。