教員就職者の奨学金の返済免除は教員不足の一手としては不足、そして…
かつて存在した返済免除制度
かつて日本育英会(現:学生支援機構)の奨学金は教員に就職した場合は返済免除となる特例制度が存在しました。
この制度は平成10年に対象を大学院で受けた奨学金のみと改正がされました。
さらに、団体の再編に伴った動きとして、返還免除規程を含む日本育英会法が平成15年に廃止となったため、全ての制度も廃止されました。
ところがその廃止された制度が復活する可能性が出てきました。
教員不足解決の一環
このタイミングでの復活の理由は明らかに教員不足解決の一環であることは明らかです。
しかし、果たして想定されているような効果があるかどうかは微妙です。
かつての免除制度では、大学に進学したいが費用的に難しいという家庭の生徒が興味のある学問を勉強する方便として教員志望になるケースが存在していたように思います。
ところが近年は大学進学者に対するそうした層がそれほど多くいるような印象は受けません。
進路の多様化と大学教育の拡充
2000年代に入ってほとんどの医療技術短期大学は大学の学部に改組され、また薬学部が大量に新設されるなど、大学進学者に対する医療系学部の占める割合がかつてより増加したことはその理由の一つでしょう。
私立大学文学部の改廃や理学部の一学科制への改組など、教育学部以外の中高教員免許取得者の数は年々減少しています。
(大学進学者数は増加していたのに、です)
小学校に関しては私立大学で小学校教員免許を取得できる大学が増加したこともあり微減のようですが、それでも減少しています。
こうした大学の学部の改廃と分野の拡充、進路の多様化は教員免許取得以外の選択肢を広げることになり、免許取得者の減少に繋がる要因の一つになったのではないでしょうか。
ブラック労働の顕在化
それに加えて教員志望者の減少の直接的な原因がブラック労働の顕在化です。
それまでも多少は問題になってきましたが、組織内部のトラブルとして扱われ大手マスコミなども報じてきませんでした。
ところが、田中まさお氏の訴訟や精神疾患による休退職の増加、そしてなにより我が子のクラスの担任がいなくなる可能性という切迫した状況になったことで社会の目が向くようになりました。
身内に教員がいない教員志望者がこうした教員の実情を知り、免許取得を諦めるというケースも少なくないようです。
返済免除は決定的な一手にはなり得ない、そして賛成はするが複雑な感情を…
現在の免許取得状況、免許取得者の採用試験受験状況を見る限りでは奨学金の返済免除が教員確保の決定的な一手になることはないでしょう。
まずは労働条件の改善など、労働者としての当然の権利を獲得しない限りは若い人たちの目は向かないのではないでしょうか。
とはいえ、返済免除自体は教員志望者を後押しに対して一定の効果は見られるでしょうし、個人的には賛成もしたいとは思っています。
しかし、あと数年の差で奨学金を全額返済した私個人としては複雑な感情です。