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それぞれの心の奥

ある朝、珈琲店に入った。
店内はモカブランっぽい落ち着いた感じで、シンプルな卓席の他にカウンターもあって、ちゃんと客席として機能もしている。
(いい感じのカウンターなのに お店サイドの諸事情で
物置になっていないパターンのヤツ)

それでいて、喫茶厨房ん中の小さめの棚に
コーヒーカップが行儀良く並んでいる。
(珈琲専門店とかで よくある雰囲気のヤツ)

お出迎えの挨拶も、ゆっくりめのテンポ感で 語尾を抜いた優しいパターン。
(だいぶ練習しないとできないヤツ)

独りなので即座にカウンターへ。
(最近、ソロ活にハマっている)

店内色は濃度が深いのに 窓が大きいので、カウンター先まで程よく光が入っている。割とイイ感じの店ではないかな。
実は、カウンターに座る理由が もうひとつある。

”スタッフの動きが見たい”

書いてて思ったが、コレって趣味かも 笑
(思い起こすとカウンターに座る率多し)

自分も飲食店経験があるので 中の仕事をすぐ見てしまう。
(基本的に今は雑誌とか漫画見ないな)

とかくコーヒーに関しては興味がいっぱいだし、コーヒーを淹れているシーンは実に美しいと思っているので ついつい見たくなるのだ。
(これも趣味かも知れない 笑)

その店はマシーンでの抽出らしいので グッとくるシーンは見受けられないが、黒ズボンに白シャツ、ネクタイの出で立ちなので それだけで品格を感じ、グッときてしまう。
(これまた よくある珈琲専門店のユニフォームっぽいヤツ)

カウンター越しからの若い男性スタッフの丁寧な声掛けと
お水、おしぼり、メニューの提供。
ピラピラとページをめくりながら 周りの空気感を感じている。
何だか凄い勢いで駆け回ってる 人の気配を感じる。
顔を上げて眺めてみると、先ほど丁寧な対応してくれた男性スタッフが猛スピードで仕事をさばいてる姿が。
(え、え?この規模でスタッフ1人?いや、それ無茶やろ)

ザッと見て席数は30席強はありそう。動線は良さそうなので動きやすいと言えば動きやすそうだが、ナゼにワンオペ?
そう思いながら 男性スタッフの動きを追っていたら、奥からもう1人の若い男性スタッフが。
(あ〜よかった〜、1人じゃなかった〜)

大きな安堵感。
同業者ともなるとワンオペの過酷さは身に沁みるから。
ところが、安心したもの束の間。
奥から現れた男性スタッフは全く動く気配がない。
しばらく見ていても、最初に対応してくれた男性スタッフは、
手も足も動かし続けて駆け回り フル稼働。
それでも奥から現れた男性スタッフはシンクの前でダルそうに立っているだけ。
(ん?ん?ん?なに?どゆこと?なぜ動かない?)

動かない男性スタッフを観察していると、なんとなく体調が悪そうではある。もしそうであれば実質的にワンオペだ。
結局大変ではないか。
(これはキツい、誰か代わりは居ないのか?居るワケないか…居たらとっくに入ってるよな)

そう思った矢先に、またもや奥から白髪の男性が登場。
(え、え、え、?!、居るならもっと早く手伝ってくれよ〜)

歳の頃と雰囲気からすると この店のオーナーだろうか。
だったら安心だな。
体調悪そうでなスタッフは上がってもらってオーナーが回してくれるだろう。
奥から現れたオーナーらしき白髪の男性は、そそくさと反対側のカウンターへ歩いて行き、奥で何やら うごめき、その後 登場したカウンターの方へ戻り、やがて見えなくなった。
登場した奥に別のシンクがチラッと見えるので そちらで作業されているのであろう。しかし、体調が悪そうで全く動かないスタッフは相変わらずシンク前にとどまり、もう1人の男性スタッフが真っ赤な顔をしながら動き回っている。
注文を取るのも、オーダーを作るのも、出すのも片付けも、新規のお客さんの対応も会計も全部1人でやっている。しばらくすると体調が悪そうで全く動かないスタッフは奥へ消えていった。
オーナーらしき白髪の男性も そこには居ないかのように 出てくる気配は無い。
(もう、奥へ行って居ないんじゃないの?)

ずっと動き続ける彼。
なぜ彼は1人で動いているのだろう。確かに動きは早いし、無駄もないし、何でも出来る人なのだろう、にしても他にスタッフがいるのに特にヘルプの声掛けもしてなかったようだし…。
(あ、もしかしたら この若い男性がオーナーで他の人がスタッフかも…)

だとしてもワンオペは不自然だ。皆に働いてもらえるようナゼに声掛けしない?
色んな妄想が止まらなくなり始めた。
その店その店で色々な事情や やり方があるとは思うが、その色々が見えないが故に想像が増大してしまう。
これは自分の悪い癖。捨てなければならない事案だな。

ダルそうな男性スタッフが戻ってきた。
新規のお客さんご来店。
よく動く男性スタッフは遠くのテーブルのお客さんの対応中。
するとダルそうな男性スタッフが声を出した。
彼のお出迎えの挨拶もとても優しい。
(なに?ちゃんと出来る人やん)

その間にお帰りのお客さんが会計へ。ダルそうな男性スタッフは丁寧に対応。
新規オーダーのコーヒーも淹れていた。
(お、やっと動いた〜)

でも、目の前のカウンターの下げものやテーブルの片付けには一切行かず、やっぱりシンク前でダルそうにして またもや奥に消えて行った。
その間、よく動く男性スタッフは店内は小走り、厨房はほぼダッシュで、全てをこなしていた。

シックでモダンな落ち着いた感じの珈琲店。
その雰囲気に似つかわしく無い労働状況。
労働量が どれだけ多かろうと、他のスタッフが どうしていようと、ひたすら動き、丁寧な対応で働き続ける何者か分からない男性スタッフ。

(彼の心の奥には一体なにがあるのだろう)

そう思いながら 足速に店を出た。

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