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「家賃390万円の城」 Lineage リネージュ 昔話005

 リネージュをプレイしていた中で、1つだけいまだにモヤモヤしていることがあるので、ここで吐き出させてください。ゲーム内における戦争、攻城戦に関することです。
 非常に古い話ではありますが、関係された方について、ゲームプレイヤーとしての名誉にかかわる話になってしまうかもしれません。
 「事実と異なる」「そのような書き方は止めろ」という方がもしいらっしゃいましたら、ぜひご意見をお聞かせください。

 リネージュというゲームには城があります。城は2日に一度行われていた攻城戦と呼ばれる戦いを制した、1つの血盟(チーム)が支配します。
 次の攻城戦までの間は、その血盟が城主となります。そして城主となった血盟は次回以降の攻城戦において防衛を行うことになります。
 防衛では宣戦布告を行う血盟があらわれなかった場合、または宣戦布告を行った血盟を退けた場合は、継続して城主でいることができます。防衛に失敗した場合は、城を落とすことに成功した血盟が、新たな城主となります。

 また城主になると、その城が収めるエリアから税収を得ることができます(NPCが売っている商品に税金が上乗せされています。ドラゴンクエストなどのコンシューマーRPGでも町の中には道具屋・武器屋などがありますが、リネージュではそこで購入することができる商品に税金がかかっています。税率は城主に決定権があり、最大税率はなんと50%です。)。
 現在の仕様を私は知りませんが、当時は城主血盟の君主(リーダー)のみが、その金額を知ることとNPCから税収を受け取ることができました。

 その金額はいかほどでしょうか?ゲーム内のことですし、いくらと言われてもイメージが難しいですよね(笑)?
 そこで下世話な話になりますが、リネージュをプレイしたことがない方や、プレイ時期が異なる方にも伝わるように現実世界のお金、つまり日本円に換算をさせてください。
 先に結論を書きますが、1日あたりの税収は少な目に見積もっても約13万円でした

 ギラン城は門が2つあるため少人数では防衛しきれず、常に100人以上が防衛に参加していたはずです。ザックリ150人ということにしておきましょう。
 そして私の記憶が確かであれば、1人あたり90000アデナ(ゲーム内通貨です)が支払われていました(攻城戦は2時間ですので、その時間協力していただくことに対するお礼です。防衛に協力しなければ、モンスターを狩って経験値やアデナを稼ぐこともできたはずですから。)。
 つまり1350万アデナが防衛費として使われています(90000アデナ×150人)。

 そしてリネージュを含むネットゲームのアイテムやゲーム内通貨は、非公式に現金で売買されています。その当時の売買レートは100万アデナあたり19000円が相場でした(このような取引をRealMoneyTrade=RMTと呼びます。今でも多くのネットゲームで行われているはずですので、気になった方は"RMT"で検索してみてください。)。
 防衛費1350万アデナは上記のレートによる換算で25万6500円です。なお税収のすべてを防衛費に使っているはずはないので、間違いなく税収はこれ以上にあったはずですが、残念ながら私も具体的な金額は知りません。
 また攻城戦は2日に1回ですので、1日あたりの防衛費は約13万円と考えることができます。これが先ほどの金額の根拠であり、この記事のタイトル「家賃390万円の城」の正体です(13万円×30日で390万円。なお当時一番大きな城だったギラン城の場合です。実際にはそこから得る税収で費用を賄っているので、家賃という表現はしっくり来ないかもしれませんね。タイトル詐欺だと感じたら申し訳ないです。)。

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※ギラン城内のSSがなかったため、ギラン城ではなく後に実装されるアデン城の画像。ゲーム中最大の城です。

 しかしこのゲームの城主の地位には、当時のプレイヤーにとってお金には代えられないほどの名誉があったと思います(「お金」の部分はゲーム内通貨・日本円のどちらと捉えていただいてもかまいません)。
 ある君主が有力血盟に同盟を打診する際、「税収はすべて持って行ってもらってかまわないから、城を取るために同盟を組んでもらえないか。我々には金は要らない。欲しいのは名誉だ!」といって説得したという逸話もあります。

 前置きが長くなりました。それほどの魅力を持つ城主の地位ですから、それを取り巻く様々なドラマが生まれるのです。

 舞台はリネージュJP2カノープスサーバー、時はハイネ地域実装時に遡ります。
 リネージュには当時3つの城が存在しており、新しく追加されるハイネ地域には、4つ目の城となるハイネ城がありました。
 記憶によれば実装から1~2週間を経たのち、最初の攻城戦が行われることになっていたと思います。
 なお最初の城主はNPCですが、基本的にはNPCと戦うわけではなく、そこに宣戦布告をした血盟同士で争うことになります。

 さてカノープスサーバーの初期には、城主の地位をかけて争った2つの同盟がありました。その1つがRendir同盟、そしてもう1つが黙殺同盟と呼ばれていました。
 この時期までの流れを振り返ると、最初の戦争ではRendir同盟に属する血盟がすべての城の城主となりました。しばらくの間は防衛戦にも勝利し続けましたが、やがて黙殺同盟に全ての城を落とされてしまうことになります。  
 しかしRendir同盟は、まだ城の奪還を諦めていたわけではなく、黙殺同盟にとっては依然最大の敵対勢力でした。

 そのような中で新しく追加されるハイネ城。最初の城主となるのはどちらの同盟なのか。全くの初心者などを除き、誰もがその動向を気にしていたと思います。
 この理由は前述の税金にもあります。黙殺同盟は全ての城を制覇すると、全てのエリアの税率を最大税率の50%に引き上げました。仮にハイネ城1つだけでも他の勢力が城を取れば、そのハイネエリアだけは最低税率の10%ということも起こりえます。そうすると誰もが税率10%の町で買い物をするようになり、黙殺同盟の税率引き上げは意味を失ってしまうのです。

 ところでリネージュの戦争は、スポーツや他ジャンルのゲームのように、攻城戦の時間内を使っての真っ向勝負だけで行う。というものではありませんでした。
 同盟や敵対関係にある血盟との交渉があったり、敵対血盟にスパイを潜入させたり、勝利を掴み取るために多種多様な手段が用いられていたと思います。
 それらの行為は利用規約で禁止されているわけでもなく、それもルールの範囲内ということになります。モラルに反するとか、そういった意見はあるかもしれませんが。

 ハイネ開戦を数日後に控えたある日、Rendir同盟と1つの中立血盟の間で、双方の幹部を集めた交渉の場が設けられました。その中立血盟の名は「酒飲みたくない?」血盟(名前をハッキリ書くかは迷ったのですが、この後に書く話から調べればわかってしまうことなので、書いてしまうことにしました。)。名前はふざけていますが(失礼?)、当時のカノープスサーバー内で最強の血盟という話題になれば、真っ先にその候補として名前が挙がるほどの強さでした。

 この会議において、酒飲みたくない?血盟(以下「酒血盟」と記載します。)からRendir同盟に出された提案は、要約すると以下のようなものでした。
1.酒血盟はハイネ城開戦の際、城主になるために宣戦布告を予定している。
2.ハイネ城開戦の際、Rendir同盟は戦争に参加しないでほしい。敵対はもちろん協力もしないでいただきたい。
3.この条件を受け入れてもらえる場合は、酒血盟がハイネ城主となれた際にRendir同盟に加盟する。

 酒血盟が城主を目指すというのであれば、なぜRendir同盟に攻城戦を手伝ってほしいという要請ではないのか?その理由は、次のように説明されました。
 「現在カノープスサーバー内では、酒血盟とTopJ血盟(Rendir同盟と敵対する、黙殺同盟です。)のどちらかが最強クランと噂されていると思う。今回、そのどちらが最強なのかを決める場として、ハイネ城開戦の場を使わせていただきたい。またこの件について、直接の相手方であるTopJ血盟を含む、黙殺同盟からの了承はすでに得ている。」
 いかがでしょうか。これを読んでいる皆さんが当事者であったとすれば、この申し出を信じますか?そして受け入れますか?

Rendir同盟幹部「……わかりました。その提案、お受けしましょう。我々はハイネ城の最初の戦争には参加しないことをお約束します。」

酒血盟幹部「ありがとうございます。それでは相手方にもその旨を伝えます。ハイネ城主となれた際にはRendir同盟に所属させていただきますので。」

Rendir同盟幹部「ご武運を。」

このような会話がなされた後、酒血盟の幹部の方は退室されました(会議はギラン城下町の宿屋で行われたと記憶しています。リネージュの宿屋は鍵を渡された人以外は同室に入ることができず、プライバシーが確保されます。)。

 私が面白いと思っているのは、そして冒頭で書いたとおり、あれから20年近くが経った今でもモヤモヤし続けているのはこの後です。
 この後は血盟チャットかパーティーチャットで話をしました。

Rendir同盟幹部A「どうだ今の話?本当だと思うか?」

Rendir同盟幹部B「いや、まず嘘だろうな。酒(=酒のみたくない?血盟)がハイネ城主になったところで、Rendir同盟には入らないだろう。」

Rendir同盟幹部A「お前もそう思うか。それならなぜこんな提案を飲んだ?」

Rendir同盟幹部B「どうせ真っ向勝負しても勝てないからね。今のRendir同盟では、酒とTopJが相手では100%勝てないだろう。それなら0%じゃないだけ、この話に乗ったように見せた方が、可能性があるだろう?」

Rendir同盟幹部A「……100%負ける勝負をするよりはな。」

Rendir同盟幹部C「まあカノープス最強血盟は酒ということで!じゃあ後は結果を待つだけかな。」

 Rendir同盟が出した結論は「信じないが、受け入れる。」。
 この一連の会話、口調はもう少し砕けた感じだったかもしれませんが、まるで戦争ものの創作物を見ているかのような、ドラマを感じませんか(感じなかったらすみません……)。
 結果は予想どおりです。ハイネ城の城主となったのは、"黙殺同盟の"酒のみたくない?血盟でした。
※会話は当時のスクリーンショットが残っているわけでもないので、記憶を辿りながら書いています。しかし何度となく思い返した場面ですし、大きくは間違っていないと思いたいです。

 この場に私はRendir同盟の一構成員として参加していました。幹部のような位置づけではなかったので、ほぼ発言権はなかったと思ってください。そんな私がなぜこの席にいたのかは、自分でもよくわかっていません。
 またこの記事はそのような立ち位置だった私が、一方的に書いている話です。酒血盟の方はこの時点ではRendir同盟をだますつもりなどなく、本当にTopJと同盟抜きの対決をしたのかもしれません。
 酒血盟がハイネ城主となり、そして黙殺同盟となったことは、当時を知る誰の目にも明らかな事実です。ただRendir同盟に参加しなかったことは、最初から予定されていたことなのか、そうではないのか、それは私にはわかりません。

 勘違いしていただきたくないのは、私は酒のみたくない?血盟およびRendir同盟の方に対して、この件で何か文句があるとか、批判をしたいという気持ちはまったくないのです。

 「勝てない勝負をして疲弊するよりは、この方が良いだろう」という冷静な判断をしたRendir同盟。「カッコ悪い。」と言う声はあるかもしれませんが、私には間違った判断をしたとは思えません。
 Rendir同盟は力を蓄えて、いつか城を奪還するつもりだったのですから、ここで勝てない勝負をして消耗すべきではないと判断したのです。

 そして余裕をもって勝てる勝負でありながら、より確実に勝利を手にするため、謀略までも用いた(と私は思っている)黙殺同盟。
 この行為をモラルに反すると見る方もいるとは思いますが、私はアリだと思うのです。むしろリネージュの戦争は綺麗ごとだけに収まってほしくないとさえ思っています。

 それにも関わらず、私はこの場面を思い出すたびにモヤモヤします。ただ書くことで少しだけ気持ちの整理ができました。
 かつて全城制覇までしたRendir同盟の衰退していく様が、もの悲しく感じられただけなのかもしれません……

 締めくくりに。
 ちょうど私がリネージュをプレイしていた当時、「100の質問」というものをよく目にしました。mixiの日記や個人サイトで「〇〇さんから100の質問が回ってきたので答えます!」みたいな感じで使われていたものです(多くの場合、最後の質問が「次にこの100の質問に答えてほしい人を、〇人指名してください。」となっており、そこで自分が指名されているのを見た人は、回答することがマナーのような空気があったのです。
 ある日、知人から回ってきた100の質問に回答していた際、質問の1つにこのようなものがありました。

Q.「あなたがさみしいと感じるのは、どのようなことですか?」
当時の私は、ほんの少しだけ考えて
A.「いつかはすべてが終わってしまうのだということ。」
と回答しました。

 諸行無常。本文中に登場したRendir同盟も酒のみたくない血盟も、当然ずっと昔に解散して今は存在しません。
 リネージュは今も存在しますが、この件の舞台となったカノープスサーバーさえ、今は存在しません(サーバー統合によるものですので、姿を変えて存在しているとも言えます。)
 そしてこの文章を書いている私も、読んでくださったあなたも、いずれ存在しなくなります。

 ただそのときそこに存在したという事実は確かにあります。
 ある人はこう語りました。「人は、その人のことを覚えている人がいなくなったとき、本当の意味で死ぬんだよ。」

 Rendir同盟は、カノープスサーバーは、そしてリネージュは、私に忘れられない思い出をくれました。
 私もまた誰かにとっての、忘れられない思い出を遺したいものです。ごく身近な人にとってそうなれるだけで、私は幸せを感じることができます。

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