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江國香織と読書会 『旅ドロップ』のはるかな世界へ―― byみんなの読書会【#イベントレポ】

こんにちは、ライターの三橋です。今回は直木賞作家・江國香織さんの著書『旅ドロップ』の読書会に参加してきました!

『旅ドロップ』ってどんな本?

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いつでも旅に出られるよう、常にパスポートを持ち歩いていたこともあるというほど旅行好きな江國香織さん。そんな江國さんが、旅先で感じたこと、そして日常の中で見つけた旅にまつわるお話を、エッセイとして綴ったのが『旅ドロップ』です。1つ1つのお話は3ページにまとまっており、お話ごとに内容が完結しているため、ちょっとした時間に、自分の好きな順番で読むことができます。すぐに読み終わってしまい、読む順番によって味わいが変わってくるお話たちは、気づいたら溶けてなくなっている、色とりどりのドロップのようです。

第一部 『旅ドロップ』を読んで、自分が感じたこと

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第一部ではグループごとに分かれて、テーマ「『旅ドロップ』を読んで自分が感じたこと」について、それぞれの参加者が自由に伝え合いました。
私のいたグループでは、「身近なテーマで共感できるお話がつまっており、まるで自分の身に起こったことのようにすっと内容が入ってきた」と感じた人が多く、共感につながった自分たちの体験へと話が広がり、大いに盛り上がりました。
他にも、「江國さんの作品は映像化もされているが、文字で読んでこそ本当の魅力を味わえる」、「みんな感じてはいるけれど、なんとなく生活していると流れていってしまうようなちょっとした内容を、きちんとすくい上げてくれているところが好き」など、グループごとに様々な話題で話に花を咲かせており、参加者みなさんの江國さん作品に対する愛が部屋中に溢れていました。

第二部 著者・江國香織さん、編集者・刈谷政則さんによるゲストトーク

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ゲストトークでは、『旅ドロップ』の編集者である刈谷政則さんが司会者となり、参加者から江國さんへの質問を中心に会を進めてくださいました。緊張からか、最初はなかなか質問者の手が挙がらなかったのですが、「こんな機会は滅多にありませんから」という刈谷さんの言葉に誘い出され、中盤からはどんどんと手が挙がっていき、『旅ドロップ』のお話に関連するエピソードから、普段のお仕事のお話まで、幅広くお話をうかがうことができました。このレポートでは、そんな内容盛りだくさんのゲストトークの内容をちょっとだけご紹介します。

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◆みんな、不自由とは思わないの? 身軽だけど、身軽じゃない

参加者:
『旅ドロップ』のなかで、以前はこたえていたF氏からのニューヨークへのお誘いにこたえられず、身軽ではなくなったと感じた、とありますが、身軽ではなくなったきっかけや時期などはありますか? それとも、「先生は旅烏みたいだ」という私のイメージが間違っているのでしょうか……?

江國さん(以下「江」):

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旅烏ですか(笑)。身軽だったんです。自分では身軽なつもりだったし、例えば自分が結婚した後も身軽だと思っていて……いつ身軽じゃなくなったんでしょうね。F氏から手紙をもらった時に、ニューヨークに行かれないことが驚きだったんです。それが多分30代後半だと思います。

犬がいたんですよね。独身の頃もずっとうちには犬や猫がいましたけど、家族が一緒に暮らしていたので、動物の心配をしたことがなかったんです。でも、今は自分がいないと預けなくちゃならない、となると遠くにはそうそう行かれない。

あとは仕事ですね。前々から遠くに行くことがわかっていれば、仕事は調整できるんですけど……。でも、そんなの普通のことなんでしょう? みんな仕事をもったり、家庭をもったりすると簡単に遠くには行かれなくなっていくんですよね。

けど、私はそうならないと思っていたんです。だから、常にパスポートを持ち歩いていたんですね。30歳を過ぎても。一緒に飲む友人や仕事の方にも、会う時には「パスポート持ってきてよ」と言っていて、「何か話していて、『じゃあ行こっか』ってなった時にすぐ行かれた方が楽しいでしょ」って話していたんです。

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ただそのうち、あんまり身軽じゃないなと思うようになって、酔っぱらって落としたら嫌だから、最近はパスポートも持ち歩かなくなって……。でもね、まだ諦めきれずに米ドルだけはかばんに入っているんです。ちょっとおまじないっぽく。

でも、そうですね、身軽じゃなくなりました。

多くの人がそうなんですよね。なんだか、みんな不自由ですよね。すぐ行かれたらいいのに。

ただ、旅行だけが身軽の印ではないので。例えば、「こういう場所があるよ」、「美味しいお店があるよ」って言われたらすぐ行くとか、「面白いDVDがあるよ」って言われたらすぐ借りるとか、そういうところはまだ身軽だと思っています。

◆美しい翻訳の裏側 知らないものたちとの戦い

参加者:
私は通訳の仕事をしていて、よく江國さんが翻訳されている本で日本語の勉強をさせてもらっています。特にトレヴェニアン著『パール・ストリートのクレイジー女たち』の翻訳版は、訳文が本当に美しくて。原著も読んだのですが、原文に忠実でありながら、日本語の言葉選びも1つ1つ美しくて。訳されている時にどのように訳されているのか教えていただきたいです。

江國さん:

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私の本で日本語の勉強をされているなんて光栄です。ありがとうございます。トレヴェニアンという作家を教えてくれたのは刈谷さんで、『パール・ストリートのクレイジー女たち』の原著も刈谷さんにいただいたんです。

刈谷さんからトレヴェニアンを教わったのは、20代の頃。『シブミ』とか『ルー・サンクション』とか『アイガー・サンクション』、あと『バスク、真夏の死』とかすごく面白い小説がたくさんあって、それらを読んで大好きになりました。

『パール・ストリートのクレイジー女たち』は、「トレヴェニアンの作品でまだ翻訳されていないものがあって、びっくりして取り寄せたんだけど、僕は英語だと全部は読めないからあげる」、と刈谷さんがくれたんです。それで、単に楽しみのために読み始めたんですけど、あまりにもよくて。お話も素晴らしいんですけど、英語が本当に綺麗。
私の想像ですが、あの小説に関しては彼は英語という言語のことを考えて書いたんじゃないかと思います。単なるストーリーだけではなくて、英語らしさを、これでもかと盛り込んでいるような気がして……。それでつい「自分で訳したい」って言っちゃったんですよね。

刈谷さん:別の編集者にね。

江國さん:そうなんです、ごめんなさい、別の編集者に言っちゃったんですよ。でもね、それは本当に実現するとは思わずに言っちゃったんです。確か、「すごくよくて、自分で訳したいくらい!」という感じで。

そうしたら、実際に翻訳をさせてもらえることになったんです。私、普段は毎日必ず2時間お風呂に入らないと、何もできないんですけど、訳し始めたらもう、お風呂も後回しにするくらい楽しくて。起きたらすぐ作業場所の前に行っていました。

ただ、私の知っている翻訳者の方々は、どうしてって言うくらい博覧強記なんですね。何でも知っているんです。なんでそんなにもの知りなんだろうって思っていたら、もの知りじゃないと翻訳はできないっていうことが分かって。当の本人たちにそれを言うと、謙遜して「翻訳しているからものを知っていくんだよ」っておっしゃるんですけど。私はものを知らないので、訳すときは英語よりもものを知らないといけないということの方が大変でした。 

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例えばね、『パール・ストリートのクレイジー女たち』に「航空母艦」というのが出てくるんです。英語で「aircraft carrier」って言った時に、それが「航空母艦」だっていうのはわかるんですけど、「航空母艦」がどんなものなのかを知らなくて。私は、航空母艦というのは船だと思っていたんです。よく知らないけど、戦争をする船だ、って。そしたらそれが空爆したって書いてあったんです。空爆ってことは飛行機だと思って、「航空母艦って飛行機なんだ」と思い直して訳していったら、そのあと「港に帰った」ってなっちゃって。ものすごく混乱して、本当に混乱して、担当の編集の人に電話したんです。それで「航空母艦って船ですか、飛行機ですか」って聞いたら、「飛行機を積んだ滑走路付きの船」って言われて。それってみんな知ってます? それって有名?

刈谷さん:
知らない人はいないと思いますよ。

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江國さん:
そうですか!? いや「航空母艦」という言葉は知っていますよ。本当にみんなわかっているものなんですかね? 私は「航空母艦」の説明を聞いた時にほんとにびっくりしちゃって……。

しかもこの話にはさらにおまけがあるんです。本ができたお祝いに、担当の編集者と時々行く焼き鳥屋さんに行ったんです。それで、この航空母艦の話を編集の人としていて、「だって航空母艦なんてわからないわよ!」って言ったら、「戦艦大和とか聞いたことない?」と言われて、「だってあれは宇宙船だから別の話でしょ!」って言ったんです。私「戦艦やまと」って「宇宙戦艦ヤマト」しか知らなくて。そうしたら、それまで口もきいたことのなかった焼き鳥屋の店員さんが「ぷっ」って笑ったんです。その人、いつも笑ったりしないで、すごく怖い顔して仕事をしているので、その時彼が笑うのを初めて見て……という笑えるエピソードまであるよ、という話でした。(笑)

一事が万事そうなので、翻訳するときはそれが大変だったですね。ものがわからないことが。

刈谷さん:大きな子どもみたいなところがあるんです。

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この他にも、江國さんが米国に留学していた時のお話や、本を書いたり選んだりする際に考えていることについてのお話など、本当にたくさんのことを話してくださいました。長年のお付き合いである刈谷さんとだからこそ出てきたのであろう貴重なお話も多く、江國さんのものの考え方や人柄を感じることができ、江國さんがますます好きになりました。

会の最後にはサイン会も行われました。

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今回の読書会をとおして、好きな本について、自分と同じくその本を好きな人と話すことの楽しさ、そしてその本にこめられた作者の想いを知ることの面白さに出合うことができました。
作者さんのお話も聞ける、という機会はなかなかないので、みなさんも、気になる本の読書会を見つけましたら、ぜひ参加してみてください!

カルチャーライブ!今後のお知らせ

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【池田香代子と『夜と霧』読書会】
●日時:2020年2月6日(木)19:30~21:30
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強制収容所から奇跡的な生還を果たしたユダヤ人のヴィクトール・フランクルが自らの体験を記した『夜と霧』は、なぜ私達を引きつけるのか?スペシャルゲストは新版の訳者、池田香代子さん。
作品の背景について、新訳について、生の声でお話いただきます。
フランクル作品をはじめて読まれる方も、『夜と霧』をもっと深く読みたい方も参加者とともに、名著を語り、味わってください!

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【亀山郁夫先生と『カラマーゾフの兄弟』「100分de名著」放送記念の読書会】
●日時:2020年2月28日(金)19:30~21:30
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ドストエフスキー研究の第一人者で、NHK Eテレ「100分de 名著」『カラマーゾフの兄弟』回の講師である、名古屋外国語大学学長の亀山郁夫先生をゲストにお招きし、人生の根本的な問題を読書会を通して、みんなで考えます。
亀山先生に加え、もう1名スペシャルゲストを予定しています。当日をお楽しみに!

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みなさまのご受講をお待ちしております。

最後に、江國香織さん、参加してくださったみなさま、このレポートを読んでくださったみなさま、本当にありがとうございました!!

撮影・編集/小川利奈子 文/三橋七緒
2020.1.29 作成

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