見出し画像

『赤い月の香り』-千早茜- を読んで


『赤い月の香り』-千早茜-

あらすじ

千早茜さんの『赤い月の香り』は、調香師の世界を舞台にしたドラマチックな長編小説で、渡辺淳一文学賞受賞作『透明な夜の香り』の続編です。

主人公はカフェでアルバイトをしていた朝倉満。彼は、客として来店した天才調香師・小川朔に誘われ、彼の暮らす洋館で働き始めます。

朔は人間離れした嗅覚を持ち、依頼人の望む香りを作り出す才能を持つ人物。依頼人たちが持つ香りへの執着や欲望に満も巻き込まれながら、自分の変化と朔に招かれた理由を見つけていく過程が描かれています。

香りを通じて人々の心や欲望に触れ合うミステリアスな物語です。

感想

『赤い月の香り』は、香りというテーマを独特の文学世界に昇華させた美しい作品です。

千早茜さんの描写力は圧倒的で、香りが目に見えないものながらも、読者の五感にしっかりと届くような錯覚を覚えます。

特に、朔の嗅覚を通じた香りの描写や、色彩や雰囲気の描き方が極めて美しく、知らない世界がまるで目の前に広がっているかのような感覚を味わえます。

物語の中心にあるのは、香りに秘められた人間の欲望や感情。そして、母親とのトラウマで人間関係に悩む朝倉満が、小川朔や他の登場人物たちとの出会いを通じて少しずつ変わっていく成長の物語でもあります。

満の内面の変化を繊細に描き出しながら、調香師としての朔の幼少期や、彼と周りの人々との複雑な関係性が明かされていく構成が巧みです。

また、前作『透明な夜の香り』を読んでいる方にとっては、朔と一香の関係が再び登場するのも嬉しい展開です。この2人の間にある特別な絆が今作にも影響を与えており、続編でありながら新しい物語としても楽しめる作品に仕上がっています。


どんな人におすすめか

この作品は、感性豊かで繊細な描写に浸りたい方や、ミステリアスな要素を含む深い人間ドラマを求める方におすすめです。

特に、香りという目に見えない存在を通じて人の感情や欲望を紡ぐというテーマに興味がある方は、その世界観に引き込まれること間違いなしです。

また、前作を読んでいない方でも十分楽しめる構成になっているため、香りや感覚の世界に興味を持っている方にはぜひ手に取っていただきたい一冊です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?