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『リカバリー・カバヒコ』-青山美智子- を読んで
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あらすじ
5階建ての新築分譲マンション「アドヴァンス・ヒル」を舞台に、そこで暮らす住人たちがそれぞれ抱える悩みと向き合う姿を描いた連作短編集。
近くの日の出公園にあるカバのアニマルライドに触れると、自分の治したい部分が回復するという都市伝説があり、物語はその伝説に導かれた人々のエピソードで進行します。
たとえば、急な成績不振に悩む高校生の奏斗が頭脳の回復を願ってカバヒコの頭を撫でる第1話「奏斗の頭」、ママ友との関係に悩み孤立気味の紗羽が言葉の回復を願ってカバヒコの口を撫でる第3話「紗羽の口」など、それぞれの登場人物がカバヒコに悩みを打ち明け、自分自身と向き合うことで少しずつ心の傷を癒していきます。
感想
『リカバリー・カバヒコ』は、青山美智子さんならではの優しさと温かさに満ちた作品です。各エピソードは、悩みや不安を抱えた登場人物たちが、自分の内面と向き合いながら、少しずつ前を向いていく姿を描いています。
カバヒコに触れることで回復するという設定は一見ファンタジーのようですが、その「回復」は超常現象ではなく、登場人物たちが自身の痛みを認識し、受け入れ、そして再生していく過程を象徴しています。
特に印象的なのは、青山さんの言葉選びの巧みさです。物語の随所に散りばめられた優しい言葉が、読者にそっと寄り添い、勇気を与えてくれます。例えば、「ちはるの耳」での祖母の言葉は、心が追いつかず不安でいっぱいのちはるを励まし、その温かさが読む者の心にも深く響きます。
全体としては、どのエピソードも親しみやすい悩みをテーマにしており、それぞれが小さな再生の物語としてまとまっています。さりげなくも力強いメッセージが込められた青山さんの作品にまたしても元気をもらえる一冊です。
どんな人におすすめか
『リカバリー・カバヒコ』は、日々の小さな悩みや心の痛みに共感できる方に特におすすめです。
誰もが抱える些細な不安や悩みに対し、温かい言葉と柔らかな物語でそっと寄り添ってくれる本作は、忙しい日常の中でホッと一息つきたい時にぴったりです。
青山美智子さんの作品が好きな方や、優しい物語に癒されたい方にはぜひ手に取っていただきたい一冊です。また、連作短編集なので、短い時間でも少しずつ読み進められる点も魅力です。