[映画] (ネタバレ) イニシェリン島の精霊 [感想と考察]
不可思議な映画を見た。不可思議すぎて、自分の頭を整理するために書き殴ってみたけど、よく分からなかった。書き殴ってみた内容全てをここに記す。7,000文字。普段、こんな考察とかしないのに。
分からぬ。とにかく分からぬ。"精霊" という邦題だけで見てしまったので、最初から "Banshee" だと気がついていれば、もう少し気をつけてみていたかもしれない。にしても難しい。難しいんだけれども、考察見ずにまずは自分一人だけで一所懸命考えたい。そう、そんな風に考えたい、と思わせる映画だった。
悲壮感漂う、何もない綺麗な島の映像。何か社会から外れてしまったこの島で、一体何が起こるのだろうか、と言う期待感は、金田一シリーズに通じるものがある。
主要人物たちの振る舞いと挙動
もうお年寄りなので、記憶が曖昧なので、言葉はもちろんだけど、細かい事象もまちがってるかもしれない。悔しい。
パードリックとコルム
パードリックは、長年の友人であったコルムから急に「嫌いだ」と告げられ、話しかけることを禁じられる。その日はちょうど 4月1日。翌日になって、それはエイプリルフールの嘘だったのでは、とパードリックは軽い気持ちになって、コルムへ逢いに行く。しかし、コルムの気持ちに偽りはなく、「残り少ない人生を退屈な話で済ませたくはない、曲が書きたい。パードリックがジャマだ」(超意訳)と言って、完全に袂を分かつ。しまいには、これ以上話しかけてきたら「自分の指を一本ずつ切りおとす」とコルムは言って、関わり合いを禁じる。
コルムは礼拝後に懺悔室で特に懺悔することもなく、絶望感もないという。神父が「パードリックとのことに罪の意識はないか」と問う。また「パードリックのコトをどう思っているのか」とも。コルムは、パードリックを恋愛の対象とはしていないというコトを伝える。神父に「おまえこそ」と聞いて「われは神父やぞ」的なことになって怒らせる場面は、多分笑うところ。
そんな折、いつものようにミルクを売りにいくパードリック。店主から面白いニュースはないのかと聞かれた折りに、暴力で物事を解決する悪徳警官なピーダーの息子であるドミニクのコトを話し、ピーダーの逆鱗に触れて殴られ倒れる。そこにまったく話しかけずに、ただただ黙ってパードリックを助けるコルム。お互いに一切話しかけることもなく、ただ泣きだすパードリック。
その夜、パードリックは、酔ってコルムと警官のところへ。辛辣に警官とバイオリン弾きのことが嫌いだと伝える。コルムは音楽は大事だ、200年経っても残るが、人の優しさは永遠には残らない。50年も経てばみんな忘れると伝える。シボーンに連れられて家に帰るパードリック。
コルムは「今までで一番楽しい時間だった」とこぼす。
翌朝、パードリックは自分が悪いことをしたとコルムへ謝罪へ行く。これは、話しかけているわけではない、として。しかし、コルムは「とにかく関わるな、なぜ関わろうとするのか」と追い返す。その後、左手の人差し指を切り落としたコルムは、その指を持ってパードリックの家へ向かい、ドアに指を投げつける。
パードリックは、コルムと仲良くしている音大生が気に入らず、嘘をついてイニシェリン島から追い返すようなマネをしてしまう。その後、パードリックは、ドミニクから「コルムは、あのときのことを楽しかったと言っていた」とパードリックへ伝える。あのような辛辣な、優しさのない話し合いが、実は好きだったのではないかとパードリックは感じる。そして、音大生を追い返したことをドミニクに伝えると、ドミニクは「お前もみんなと同じじゃないか」と言って、パードリックから離れて行ってしまう。
パードリックは、コルムの家へ押し入って、コルムに対して悪辣な振る舞いと言葉を述べる。しかし、最終的にはいつもの優しいだけの人に戻り、コルムの曲が完成したことに賛辞を述べる。これからパブでお祝いしよう、あの追い返してしまった音大生もまだ島にいるかもしれないから呼ぼうと伝えて、パードリックはパブへ向かう。コルムは、残りの指を全て切り落として、誰もいないパードリックの家のドアへ、全ての指を投げつける。
その頃パードリックは、コルムが来ることを2時間待ち続けているが、そこへやってきたのはシボーン。シボーンは「本土へ行く、もう帰らない」と伝える。一旦、家までパードリックと一緒に戻るが、その道中で、左手の全ての指がなくなったコルムとすれ違う。二人とも、言葉をなくす。
シボーンが出て行ってしまったあと、パードリックは、コルムの指が散らばってしまっていることに気がつき、その指の後を追うと、その先で指を食べてしまったロバのジェニーが死んでいるのを見つける。「こんなことまでするなんて、ひどい」とだけ口にして。
その後、パブでコルムに詰め寄る。「明日の2時に火を付ける。犬は外に出しておけ。どちらかが墓にいくまで続くのだ」と、コルムに伝える。これでおあいこだと。
翌日、教会での礼拝の最中、パードリックは家へ戻り、放火の準備を進める。
パードリックが準備している最中、コルムは、懺悔室で「故意にではなかったが、ロバを殺してしまったことを罪に感じる」「また絶望感が戻ってきた」と告白する。神父は「ピーダーを殴ったこと」「自傷したこと」について罪の意識はないのかと問うと、コルムは罪だと認識していなかったことを伝え返す。
パードリックは、2時にちょうど火がつくように準備をしてから放火する。家の中にコルムがいることを確認して、家へと帰る。
翌日、コルムの家を確認しに行くと、砂浜にいるコルムの姿を見つける。犬を連れてコルムのそばへ近づくパードリック。コルムは「これでおあいこだな」と言い、ジェニーの死に対して謝罪する。パードリックは「もう引き返せない」的なことを言う。コルムは「犬の相手をしてくれてありがとう」と伝えると「anytime」とパードリックが返し、戻っていく。
マコーミック
老婆たるマコーミックは、パードリックの妹であるシボーンのところへ訪れる。
一度目の教会での礼拝の後、パードリックへ「2人しぬことになる(2つの死体が上がる、だったかも)」と伝える。
シボーンが本土へ行くことを決意し、湖畔でたたずんでいるところ、対岸から手を振るマコーミック。しかし、よく見るとマコーミックは、手招きをしている。こっちへ来いと。その後、すぐに現れるドミニク。
ジェニーが殺された後、コルムの家へ向かっているパードリックに向かって「犬には手を出すな」と忠告する。パードリックは、コルムの家にいる犬に向かって「手を出せるわけがねぇ」と一言こぼす。
コルムの家が放火された後、それを見届けた警官のピーダーがパードリックの家へと向かう。家に入る手前で、マコーミックが現れ、ピーダーにむかって手招きをする。マコーミックへ着いていくピーダーは、湖で溺死しているドミニクを見つける。
シボーン
島にいる数少ない若い女性。趣味は読書で、読書と兄しか私にはないと言っている。
パードリックが、コルムから「退屈な人」と言われたことに対して、シボーンはパードリックへ「いい人」「優しい」「バカではない」と伝える。
郵便局兼小売店へベーコンを買いに行った際、店主から郵便を受け取る。その郵便は既に開かれていて、既に内容を検閲されていた様子。内容は、本土の図書館司書(?)の仕事の決定通知と思われる。
コルムから人差し指を投げつけられた後、パードリックへ指を届けさせるわけにはいかないと、パードリックを制止してコルムに指を届けに行く。なぜ、こんなことを続けるのかと問うが、押し問答にしかならず、解決には至らない。
本土へ行くことを決意し、封書を郵便局に出す。いやな目つきで店主が見ている横で。その夜、ベッドでただ泣き出すシボーン。パードリックは「何があった?」と問うが「何でもない」とだけ。
小さな船に乗って本土へと向かう。崖の上に影を見つけて手を振る。手を振り返すパードリック。シボーンは何かに気がつくと、パードリックの奥に黒ずくめの何かがいるのが見える。
シボーンからの手紙がパードリックへと届く。何もないイニシェリン島とは違い、とても良いところだ。人も温厚で優しい、理想(?)的なところだから、兄にも来て、一緒に暮らして欲しいと伝える。
兄からは、反対の手紙が届く。イニシェリン島には動物も自然もあるし、ジェニーが行かないでくれと言っている。イニシェリン島にシボーンこそ帰ってきて欲しいと。
ドミニク
島で一番のバカだと揶揄されている人物で、警官のピーダーの息子。
コルムに嫌いだと言われて塞ぎ込んでいるパードリックを連れて、自宅の父のところにある密造酒をもって、パードリックと飲み明かす。
教会へ向かうパードリックとシボーンと出会う。ドミニクは、前夜に密造酒を持ち出したことがバレ、ピーダーに折檻され顔中に怪我をする。一日だけで良いから泊めて欲しいと訴える。人のいいパードリックは妹の顔色をうかがわずに、1日だけならと許可する。夕食の時にもhateをまき散らしているシボーンをよそに、なんとかしてシボーンに興味をひいてもらおうと、何かしらのアプローチをするものの、全てただ怒らせるだけで終わる。最終的にシボーンは「今日だけだからな」といって、先に寝てしまう。
その後、多分家に連れ帰られてしまったドミニクは、海っぺりで黄昏れているパードリックに酒を持ってきて話しかける。「コルムは、パードリックに変わって欲しかったんではないかと」伝える。更に「前から二人は、仲が良かったようには見えなかった」というコトも言ってのける。そして、ドミニクの思った変わり方をしようとしていないと呆れたのか、怒ったのか、パードリックを一人残して去ってしまう。
翌日なのか、数日後なのか、決心を固めた湖の畔にいるシボーンへ告白する。しかし、シボーンはそれはできないと拒否し、落ち込んでその場を去って行く。生きているドミニクは、ここが最後のシーン。
結局、コルムはどうしたかったのか
コルムは少なくとも、本当に嫌っていなかっただろうコトは、その動作から見え隠れしている。そのため、行動の全てにおいて矛盾が生じている。
「嫌いだ」と言っているのに、困ったときには手を差し伸べる
「音楽が大事」と言っているのに、バイオリンを弾くために不可欠な左手の指を切り落とす
「(パードリックの)ロバが死んだ」とからかう警官を、誰よりも先に殴り倒す
これは私の主観だけれども、どんなときも怒りや嫌悪の表情ではなく、慈しみや呆れの表情に見える
全編を通して、パードリックは、シボーンを除いて酒屋の店主+α、ドミニク、そしてコルムとしか会話をしていない。ピーダーに挨拶はするが、常に無視されている存在。
妹のシボーンは、パードリックに対して「いい人」「バカではない」と言いくるめている。しかし、パードリックが「シボーンより頭良いかも」的なことを言うと、本人に聞こえないように「そんな訳あるか」とこぼす。
パードリックが「島一番のバカはドミニクだけど、じゃぁ二番は」という問いに対して、シボーンは「そういう風に考えて順位付けしたことはない」的に丸め込もうとする。
結果、パードリックは確かに人の良い人間なのかもしれない。が、きっとバカに位置する。そして、最後の手紙にも書いているように、変化を期待しない。そして、自分の周りにいるものが一番大切で、重要で、コルムという友人だけをずっと大切にしてきた。愛してきた。
パードリックは、ずっと愛してきたものをそのままにしたいと願っていたことは、このように全体を通じてよく理解できる。ロバが死んでしまったことで、その原因が(故意だったことを知らなかったとは言え)最愛だったはずのコルムが死んでも良いと考えてしまうほどに。
コルムには、音楽を中心に大切にしているものがあった。人は愛だけでは生きていけないと問うように。他に歴史に名を刻むことが重要だというように。
ぱっと考えると、コルムはパードリックに変わって欲しいと、心の底から願った結果として、自分が音楽を続けられなくなってでも、パードリックにどうにかなって欲しいと願ったのではないだろうか。
そして、曲が全てできあがった後、和解するかのように見えたが「音大生を追っ払わなくても良かった」という言葉を聞いたからなのか、それとも元々の約束通りなのか、指を全て切り落としてしまう。
要するに、この時点でも、まだコルムの期待通りにはなっていなかったと言うことは理解できる。どうなって欲しかったのか、どう変わって欲しかったのか、何になって欲しかったのか。恋だ愛だ優しさだと生やさしいことではなく、大人になれと言うことかもしれない。でも、本当にそんな単純な結論なのだろうか。人生の価値観の相違か。埋められない何かだろうか。そこには、どんな大切な何があったのか。
少なくとも、最後の最後のシーンまで、パードリックは一人、同じ生活を続けていることは分かる。
結局、分からない。
ただ、コルムは最後仲直りしようとしていたのではないか。なにせ、家が燃えたことで「アイコだ」というのだから。自分のすべての左手の指と家を失っているのに。
結局、誰が死んだのか
マコーミックがバンシーであることは、明確であるとまず結論する。そうでないと、マコーミックの役柄の意味が分からない。
バンシーは、死を間近にした人の家の近く、家の窓の外に「老婆の姿」で現れる。このマコーミックは、「2人しぬ」と予告をしている。そんな彼女が、家、または家のそばに現れたのは、パードリックの家の中と、コルムの家のそば。
もう一つ特徴的なこととして、マコーミックが手招きをする光景がある。
シボーンが湖畔にいるとき。もう一つは、ドミニクが死んで、ピーダーを呼ぶとき。
まず、少なくともまちがいなく死んでいるのは「ドミニク」。ピーダーの家の近くにマコーミックが現れた描写がないので、キーポイントは「手招き」だと判断できる。
とすると、死んだのはピーダーと言うことになる。ドミニクの死体を見つけた後、ピーダーはパードリックの元へは行っていない。なので「ピーダー」がもう一人ではないかと判断できる。
が、個人的にこれは早計ではないかとも考える。何せ、一度目の手招きをしている時に「シボーン」もいるのだから。特に、完全に家に入り込んでいて、相手をしているのはシボーンそのものである。
シボーンの話をしよう。シボーンは常に読書をしていて、この島の中では聡明、かつ外の世界に憧れを抱いている女性として描かれている。年を取って音大生と音楽を奏でるような音楽者のコルムに対しても「モーツァルトは17世紀じゃなくて18世紀の人物だから」と一言付け加える程度に頭は良いが、性格も多少悪い。けれども、確かにシボーンは正しい。シボーンは自信過剰であるかもしれない。
また、あの手紙が本当に正しいかどうかは分からない。なぜなら、開封されているから。文面の正当性は不明ではあるが、少なくとも店の女店主は見ている。そして、シボーンが投函するところも女店主は見ている。この女店主は、好き勝手できる状況を持っている。
そして、船に乗って出かけるときに、がけの上にはパードリックともう一人、黒ずくめの誰かがいた。それは誰か。黒ずくめの服装をしていたのは、マコーミックではなかろうか。彼女は見ていたのか、手招きしていたのか。ただ立っているだけだったが、少なくとも死の妖精がそこにいた可能性は高い。
そして、シボーンのその後は描かれていない。
本土へ来て欲しいという手紙を送ってはいるが、それの発信者は誰か分からない。なにせ、手紙は簡単に検閲できるものがいるくらいなのだから、それが本物かどうかも分からない。そう、シボーンは死んでてもおかしくはない。
ただ、この場合、なぜそこまでするのか、と言う疑問がわいてくる。
結局、分からない。
何を伝えたかったのか
このねじ曲がった愛憎劇は、一体我々に何を伝えようとしていたのか。
今までのわたしの話をまとめて単純化すると、変わろうとしない人を無理に変えることはできず、周りにいる人たちが、馬鹿を見る、ということになってしまう。
今いるところに満足をせず、高みを望んでいる人がお節介に誰かを助けようとすることで、足を引っ張られるという、今でも変わらない社会の構図を写しているだけなのだろうか。
難しい、イロイロとでも考えた。多分、この考えるまでに至らせたこの映画がすごいのだと思う。考えずにいられない状況を作り上げた、この映画が。
そして、これ以上余計なことを考えたくないので、他の人の考察も感想も見たくない。そんな映画だった。ただただ見てみて欲しい。機会があれば、再考するためにもう一度見てみたいとも思う。