「デザインする」とは見た目のよいものをつくること?—日本のビジネスにおけるデザイン観にパラダイムシフトを起こしたい
本日、日本の主要書店にて『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと—世界に通用するデザイン経営戦略』が発売されました。
世界では当たり前の、デザインの責任者を経営戦略策定チームに入れることが日本ではできていない現状。日本の素晴らしい商品やサービスを世界に伝えるには具体的にどうすればよいのか。このことを中心に本は書かれています。
特に「デザインする」とは見た目の良いものをつくることだと思われている日本のデザイン観を変えたい。経営戦略とは別に、ロゴやHPをバラバラに作り始めてしまっている日本のビジネスのレベルをあげたい。その思いをもとに企画・編集しました。
(2020/5/14更新)本のウェブサイトを作成しました!こちらも合わせてご覧ください。
すべては育児情報検索からはじまった
意外に思われるかもしれませんが、ニューヨークでの子育て情報検索からこの本ははじまりました。数ヶ月後に出産を控えていた私は、異国の地での子育てに不安を感じていました。大変だとよく聞くため、必死にニューヨークでの育児情報を検索していたのです。そこで出合ったのが、今回の本の著者のおひとり、渡邊デルーカ瞳さんのブログ、HI(NY)LIFEでした。
子育てに関する情報を探していて偶然見つけたブログでしたが、それ以外にも面白い記事がたくさんあり、それから毎回読むのを楽しみにしていました。そして何より、あのDEAN&DELUCAのDELUCAさんとご結婚されているのが日本人、しかもニューヨークでご活躍されているアートディレクターだということに大変興味がありました。
瞳さんとビジネスパートナーの小山田育さんはニューヨークを拠点に20年近くブランディングやデザインに関わってこられました。主なクライアントは米国コカコーラ、国連、MTV、フォーシーズンズ、ヴィクトリアズ・シークレット、マンダリンオリエンタル、プラザホテルなど世界中の有名企業から日本の中小企業まで様々です。
外にいるからこそ見える日本人の知らないこと、知っていたほうがよいこと
そんなある日、いつものようにブログを読んでいた私は編集者としての自分がむくむくと顔を出すのを感じていました。そのエントリは、育さんがブランディングについて述べていたものです。
そこで、私はこの部分にひっかかりを覚えました。
日本でのプロジェクトが増えるなか、わたしたちがまずはじめにぶつかった壁は『日本ではブランディングが正しく理解されていない』ということでした。そして、なぜ日本ではブランディングが正しく理解されていないかを考えた時に、その根底にあるのは、日本での『デザイン』の解釈が他の国々と異なっているからだということに気がつきました。
この何十年も培われた日本のデザイン観を覆すのは、パラダイムシフトを起こすのと同じこと。そしてそこは私たちのゴールではありません。
もちろん、日本のデザイン観を変えることはこの方たちのゴールではないかもしれません。でも、日本のデザイン観は世界のスタンダードからずれていますよ、と説得力をもって伝えられるのはこの方たちしかいないのではないか?東京オリンピックもあるのに、大阪万博も決まったのに、少子化による人口減が止まらないのに、世界を相手にしなければやっていけないのに、日本のビジネス、このままではやばいのではないか?
私はニューヨークに住むビジネス書の編集者です。つくる本のテーマは「日本の外にいるからこそ見える日本人の知らないこと、知っていたほうがよいこと」。まさに、この記事の内容は日本人の知っておいた方がよいことなのではないか、と思った私はリサーチをはじめました。
ブランディングの本を読まない人に届けたい
私がまずやったことは、すでに出版されているブランディング本の調査です。ざっとですが、既にある本のほとんどがマーケターの書いたもので、また自分の直接携わっていない大企業の事例を分析しているものが多い印象を受けました。そしてどの本も既にブランディングに興味のある人が読みそうだ、という印象がありました。
ブランディングが必要な人という全体集合があるとします。そのなかで、ブランディングが必要だと知っている人は既にブランディングの本を読んでいるはずです。その人のための本はすでに沢山あるので、新たにつくる必要はありません。もしお二人に本を書いてもらうとしたら、本当はブランディングが必要なのにそれに気づいていない人、ブランディングの本を読まない人に届けたい。こうしてターゲットが明確になりました。この本のメインターゲットはブランディングが必要なのに気づいていない、中小企業の経営者です。
タイトルは『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと—世界に通用するデザイン経営戦略』。長いなーと思った方、正解です。私もそう思います。この本はブランディングの本なので、シンプルに「ブランディング」という言葉を使えばもっと短いタイトルにできたはずです。しかし、ターゲットが「ブランディングが必要なのに気づいていない人」であることから、あえてブランディングという言葉はタイトルからはずし、なんとかそのような方にも興味をもってもらえるよう、ぎりぎりまで試行錯誤しました。
また、他の本は事例集に終始しており、実際に何をやれば良いのかまで具体的に言及しているものが少ないと感じました。そのため、具体例と合わせて自分たちでも実行できるよう、Exerciseをつけました。
日本人デザイナーの悩み
既にあるブランディングの本と並行して、私はこれまで塩漬けにしていたTwitterアカウントをひらき、日本のデザイナー、アートディレクター、アートディレクター、経営者の方を色々とフォローしていきました。本当に日本のビジネスではブランディングが理解されていないのか、この本が彼らの認識とズレていないかを確認するためです。
結論、この認識は間違っていないと確信しました。
下記は経営者にデザインや技術の大切さをわかってもらうのは難しい。ほぼ無理と言ってもいい。分かる人とだけ仕事をしよう、という記事です。やはりボトムアップを行わなければ、日本全体のビジネスレベルは上がらないと感じました。
日本のデザイナー、クリエイティブディレクター、アートディレクターも、クライアントに経営におけるデザインの重要性をなかなか分かってもらえず苦労している現状がある。一方で、クリエイティブ側も経営についてもっと深く理解していく必要がある。そういったニーズに答える本になればいい、という指針になりました。
具体的には、わからずやのクライアントに出会ったとき、この本をそっと渡して「世界のスタンダードはこれです」「日本でできている企業は少ないので、もしやれば頭ひとつ抜けられますよ」とブランディングの重要性を理解していただくイメージです。この本が、日本のデザイナーさんにそっと寄り添う存在になればと思います。
出版記念イベントにきてください
長々と書いてしまいましたが、日本のデザイン観を変えたい。日本の素晴らしい商品やサービスをもっと世界に広めたい。そのような思いでこの本をつくりました。この本をきっかけに日本のビジネスにおけるデザイン観が少しでも変わればと思います。
(2019年5月7日追記:ありがたいことに、イベントは満員御礼となりました。ありがとうございます!)2019年5月8日19時より青山ブックセンターにて出版記念イベントが開催されます。著者のお二人がニューヨークから来日されるまたとない機会です。経営者の方はもちろん、ビジネスパーソンやデザイナー、学生、海外で働きたい方、HI(NY)LIFEが気に入った方など、少しでも興味のある方は参加してくださるととても嬉しいです。
おまけ
過去に自分がいいねしたものからこんなツイートを見つけました。つぶやき主はデザイナーから漫画家に転身した前田さん。青山ブックセンターで別日にイベントをやる方でもあります。DEなんとかの方(妻ですが)の本、ご夫婦に読んでいただけたら嬉しいなあ。