ボトムアップで組織を改革 | 静岡鉄道株式会社連続インタビュー〈労働組合編〉
鉄道に始まり、バス、不動産、ホテル、スーパーマーケット、カーディーラーなど、静岡県を中心に広く事業を展開している静鉄グループ。
そのグループ本社である静岡鉄道株式会社(通称:静鉄・しずてつ)は、当時、コロナ禍の閉塞感に苛まれており、社内の人間関係や社員の定着などに課題を感じていました。
そこで「自分たちの会社は自分たちでよくするんだ!」という想いのもと、同社の人事部と労働組合が協力し、会社全体を巻き込む形でスタートさせたのが「みんなの100日プロジェクト(通称:100プロ)」です。
▼静岡鉄道株式会社 川井社長インタビュー記事はこちら▼
発言しやすい環境、挑戦できる風土、助け合える関係を築くことなど、社内のさまざまな〈のびしろ〉を改善するために始まった取り組みは、すでに同社の雰囲気を大きく変えているといいます。
100プロは、これまでにどのような課題を解決してきたのでしょうか?
また、社員の意識はどのように変わったのでしょうか?
100プロの最前線で活躍している方々からお話を伺いました。
「みんなの100日プロジェクト」とは?
——「みんなの100日プロジェクト(通称:100プロ)」とは、どのような取り組みですか?
住吉さん:
100プロとは、社員のみんなが主導して会社の環境を良くしていくための取り組みです。
社内アンケートで集めた「会社がもっとこうなったらいいな」という〈のびしろ意見〉のもと、社員たち自ら課題を設定、解決に取り組みます。
2021年度より取り組んでいるプロジェクトは7つ——〈心理的安全性の向上〉〈男性育休の推進〉〈副業解禁〉〈人事評価改善〉〈福利厚生改善〉、〈生産性向上〉〈給与水準向上〉です。プロジェクトごとにチームを組んで活動しています。
——これまでにどのような課題を解決してきましたか?
和田さん:
私が関わったプロジェクトの一つに、副業解禁があります。
副業は厳密にいうと、それまでも完全に禁止されていたわけではありませんが、制度としてしっかり整備されておらず、実際に副業をしている人もほとんどいない状態でした。
そこで私と住吉含めた有志数名でプロジェクトを立ち上げ、ガイドラインをつくって社内で調整していったことで、一つの制度として大きく前進しました。
現在、副業制度は「xRail(クロスレール)」という名前で、社員の成長や挑戦を後押しすることを目的として広く活用されています。
この出来事は会社の制度を変えるとともに、私の“意識”も大きく変えてくれました。
——どのように意識が変わったのでしょうか?
和田さん:
私自身、それまでは積極的に手を上げて何かを発言しようと思うことが、それほどありませんでした。というのも、心のどこかに「どうせ言ったところで何も変わらないんじゃないか」という後ろ向きな気持ちがあったからだと思います。
しかし実際に声を上げ、行動してみたら、変えることができた。
私の考えた企画が会社を動かしたんです。そこから、何事も「アクションを起こせば変えられるかもしれない」とポジティブに考えられるようになりました。
それは、私に限ったことでもないようです。
組合員のアンケート内にも建設的なアイデアやフィードバックが増えてきた印象があります。推測ですけど、「自分たちも声を上げていいんだ」「何かが変わるかもしれない」という意識が社内に浸透してきた証拠ではないかと思っています。
プロジェクトがうまくいったポイントは?
——プロジェクトがうまくいったポイントはどこにあるとお考えですか?
和田さん:
情報発信を丁寧にやったところだと思います。
100プロの大きなテーマの一つが「会社の風土・雰囲気を変える」です。一つひとつのプロジェクトで成果を出すことも、もちろん大切ですけど、それ以上に、自分たちの行動で会社が変わるという意識を社員みんなに持ってもらうことが重要です。
そのためにも、一部の人たちだけが知っている・参加しているだけでは弱い。多くの社員を巻き込みつつ、会社全体で風土・雰囲気を醸成していく必要がありました。
——情報発信にはどんな工夫をされたんですか?
和田さん:
プロジェクトの周知を入念に行いました。
弊社にはさまざまな働き方の社員がいます。中には、業務に余裕があって社内の情報に敏感な社員もいれば、忙しくて業務外の情報を見逃してしまう社員もいる。本社勤務で常にパソコンに触れている社員もいれば、鉄道の現場や介護施設でパソコンから離れて仕事をしている社員もいる。
そういった社員にも平等に情報が届くよう、社内SNSで発信するだけでなく、紙に印刷して掲示板に貼ったりと周知を徹底しました。
住吉さん:
伝わりやすい表現やデザインにもこだわっています。
たとえば、お互いの趣味や仕事内容などプロフィールを知ることで社員間のコミュニケーションの向上を目指したプロジェクトがありました。名前を「働くみんなを見える化する しずてつ仲間図鑑」といいます。
一昔前だったらあまり深く考えず「プロフィール施策」のような味気ないタイトルにしていたと思いますが、伝わりやすさを意識して、このようなキャッチーなタイトルにしました。
——xRailもしずてつ仲間図鑑も「おっ!」と思わせる名前ですよね。そのような情報発信のやり方はキックオフの段階から計画されていたのですか?
住吉さん:
そうですね。キックオフの段階から意識していました。「みんなの100プロジェクト」という名前も、多くの社員が「なんだろう?」と反応してくれることを狙って名付けました。
また、プロジェクト開始時は動画を作成し、組合の執行委員長や書記次長にも取り組みへの熱意を語ってもらいました。
そのように、施策の内容だけではなく、人の気持ちを動かす仕掛けもプロジェクトを認知してもらうための大切な要素だと考えています。
会社と労働組合の共同プロジェクト
——会社側の立場にある人事部と、従業員側の立場にある労働組合が共同で立ち上げたとのことですが、両者の関係は以前から良かったのですか?
和田さん:
プロジェクトの始まる前は、対立こそありませんでしたが、「共同で何かを達成しよう」という雰囲気もありませんでした。
会社側は会社側で、組合側は組合側で自分たちのやるべきことをやっていて、春闘のようなイベントのときにだけ必要なやりとりをして……といった感じですね。一言で言えば「事務的」。
しかし、100プロを始めてから交流が増え、団結力が増したと感じています。
——人事部から100プロを提案いただいた時、組合の方々の反応はどうでしたか?
和田さん:
最初からノリノリでしたね(笑)
組合のほうでも、このプロジェクトが始まる前から課題や不満のヒアリングは行っていました。
とはいえ、目に見えるアクションは稀で、会社に意見を届けるだけで終わることがほとんど。「せっかくアイデアが出ているのに形にできないなんて……」と、組合員たちは歯痒く思っていました。
そんな時に、人事部から100プロの提案をいただきました。
「従業員の意見にしっかり耳を傾ける」というスタンスに共感し、全面的に協力したいと考えました。
住吉さん:
プロジェクトを提案したのは人事部ですが、組合の協力があってこその100プロです。
おそらく、人事部主導で「やりたい人募集してます」とだけ声をかけても、これほど手は上がらなかったと思います。組合が関わってくれたことで、「社員を巻き込んでやろうとしている」という意思が伝わったんじゃないでしょうか。
意見の食い違いはあった?
——プロジェクトを進める上で、人事部と労働組合の対立は起きませんでしたか?
住吉さん:
意見の食い違いは、まったくなかったわけではありません。ただ、どちらかというと、プロジェクトそれ自体ではなく、根っこにある立場の違いの部分で悩むことが多かったです。
たとえば、先にも少し出ました副業を例にお話ししますと、社員側としては自由にやらせてもらいたいわけですが、人事部からしてみると、なんでもかんでも副業にOKを出すわけにはいきません。
会社としては、個人の成長に繋がるような副業をやってもらいたいという想いがあるわけです。そういった点で、「どこに線引きをするか」で話し合いが長引くことはありました。
——たしかに、立場ゆえに譲れない部分もありますよね。
和田さん:
ただ、食い違いが起きた時でも、バチバチと対立することはありませんでした。
話し合いを重ねていく上で、お互いの立場や想いを慮れるようになっていたからです。相手を言い負かすのではなく、お互いに歩み寄り、妥協点を見つけるようになっていけたのだと思います。
自分は組合員ではあるんですけど、プロジェクトに関わるうちに、会社側の考え、人事部の目線もわかるようになってきました。同じように人事部長も会社側の立場でありながら、組合側の想いを汲み取ってくれていたと感じます。
住吉さん:
目標や方向性、価値観にズレがあるとプロジェクトは上手くいかないと考え、最初のうちはどのチームにも事務局スタッフが入る形で、プロジェクトの設計書づくりを手伝いました。
また、実際のプロジェクトが始動してからも、人事課側と組合側の打ち合わせは定期的にしています。
立場は違えど想いは同じ!
和田さん:
同じ目線、同じビジョンを持つことがとても大切だと感じています。
たとえば弊社であれば、ウェルビーイング——社員の幸福が結果的に社会の利益、地域の利益に繋がっているという考え方があります。
会社と組合で立場は違うけどゴールは同じ。目標はウェルビーイングの実現なんだ!
そのようにゴールを共有できていれば、意見が食い違ったとしても建設的な話し合いができるのではないでしょうか。
——これから100プロを通して改善していきたいことやビジョンはありますか?
和田さん:
今までの100プロは、どちらかといえば副業や育休といった働きやすい環境づくりがテーマの中心にありました。
課題は完全に解消されたわけではありませんが、ひとまず大きな不満は取り除けたのではないかと思っています。
そこで今年度より、新たに募集、取り組んでいるテーマは「各部署の抱えている課題」です。部署の課題を解決するとともに業務の効率化を図るなどして、会社の利益に直結するような取り組みを行っていくつもりです。
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