立山町高齢職員待命処分(S39/5/27)

【概要】


「女性の品格」で話題となった第5代昭和女子大学理事長坂東眞理子氏の出身地であるらしい富山県中新川郡立山町が今回の舞台。話は昭和39年、東京五輪が開かれていた頃の話である。立山町の職員が定員を超過する事態となったために、その整理を企図して高齢(当時は55歳以上)職員に対して退職を勧告した後、勤務成績の不良事情等を考慮して待命処分を行った。要は職務を外されたのだ。そうしたところ、高齢であることを理由に行った本件待命処分は社会的身分により差別をしたものであって、憲法14条1項に定めるいわゆる「法の下の平等」に反する、として訴訟が提起された。

【条文】

まず、論点となった「法の下の平等」というのは憲法に定めがあり、以下の通り同趣旨の内容が地方公務員法にも反映されている。

憲法
第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

地方公務員法
第十三条 すべて国民は、この法律の適用について、平等に取り扱われなければならず、人種、信条、性別、社会的身分若しくは門地によつて、又は第十六条第五号に規定する場合を除く外、政治的意見若しくは政治的所属関係によつて差別されてはならない。

上記が本件の基本的なものだが、本判決は国家公務員の法令についても都度言及しながら論理を展開している。その中で参照されている「人事院規則」にも少し触れておこう。

国家公務員法
第十六条 人事院は、その所掌事務について、法律を実施するため、又は法律の委任に基づいて、人事院規則を制定し、人事院指令を発し、及び手続を定める。人事院は、いつでも、適宜に、人事院規則を改廃することができる。

を根拠に作られる国家公務員に関する具体的な定めが「人事院規則」である。これは内容によっていくつかの系列に分けられており、各系列には枝番号が付されている。今回参照されている一一一四は、「一一」の系列に属し、この系列は「分限(ぶんげん)」について定めたもの。分限処分とは、勤務実績が良くない場合や、心身の故障のために、その職務の遂行に支障がある場合などに、その職員の意に反して行われる処分のことだ。

昭和二十七年 人事院規則一一―四(職員の身分保障)
第七条 法第七十八条第一号の規定により職員を降任させ、又は免職することができる場合は、次に掲げる場合であつて、指導その他の人事院が定める措置を行つたにもかかわらず、勤務実績が不良なことが明らかなときとする。
一 当該職員の能力評価又は業績評価の全体評語(人事評価政令第九条第三項(人事評価政令第十四条において準用する場合を含む。)に規定する確認が行われた人事評価政令第六条第一項に規定する全体評語をいう。次条第一項において同じ。)が最下位の段階である場合
二 前号に掲げる場合のほか、当該職員の勤務の状況を示す事実に基づき、勤務実績がよくないと認められる場合
2 法第三十四条第一項第六号に規定する幹部職員(以下単に「幹部職員」という。)は、前項の規定による場合のほか、法第六十一条の二第一項に規定する適格性審査において現官職(当該幹部職員が現に任命されている官職をいう。次条において同じ。)に係る標準職務遂行能力(法第三十四条第一項第五号に規定する標準職務遂行能力をいう。)を有することが確認されなかつたときには、法第七十八条第一号の規定により降任させ、又は免職することができる。
3 法第七十八条第二号の規定により職員を降任させ、又は免職することができる場合は、任命権者が指定する医師二名によつて、長期の療養若しくは休養を要する疾患又は療養若しくは休養によつても治癒し難い心身の故障があると診断され、その疾患若しくは故障のため職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えないことが明らかな場合とする。
4 法第七十八条第三号の規定により職員を降任させ、又は免職することができる場合は、職員の適格性を判断するに足ると認められる事実に基づき、その官職に必要な適格性を欠くと認められる場合であつて、指導その他の人事院が定める措置を行つたにもかかわらず、適格性を欠くことが明らかなときとする。
5 法第七十八条第四号の規定により職員のうちいずれを降任し、又は免職するかは、任命権者が、勤務成績、勤務年数その他の事実に基づき、公正に判断して定めるものとする。

【判決】


最高裁は高齢であるということは社会的身分に当たらないと示しつつ、14条に列挙したものは例示的なものであって必ずしもそれに縛られるものではないことを明確化、上記の国家公務員のルールも引き合いに出しながら、本件処分の合理性を説いている。

(判例文)
思うに、憲法一四条一項及び地方公務員法一三条にいう社会的身分とは、人が社会において占める継続的な地位をいうものと解されるから、高令であるということは右の社会的身分に当らないとの原審の判断は相当と思われるが、右各法条は、国民に対し、法の下の平等を保障したものであり、右各法条に列挙された事由は例示的なものであつて、必ずしもそれに限るものではないと解するのが相当であるから、原判決が、高令であることは社会的身分に当らないとの一事により、たやすく上告人の前示主張を排斥したのは、必ずしも十分に意を尽したものとはいえない。しかし、右各法条は、国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく、差別すべき合理的な理由なくして差別することを禁止している趣旨と解すべきであるから、事柄の性質に即応して合理的と認められる差別的取扱をすることは、なんら右各法条の否定するところではない。
(中略)
しかして、一般に国家公務員につきその過員を整理する場合において、職員のうちいずれを免職するかは、任命権者が、勤務成績、勤務年数その他の事実に基づき、公正に判断して定めるべきものとされていること(昭和二七年人事院規則一一―四、七条四項参照)にかんがみても、前示待命条例により地方公務員に臨時待命を命ずる場合においても、何人に待命を命ずるかは、任命権者が諸般の事実に基づき公正に判断して決定すべきもの、すなわち、任命権者の適正な裁量に任せられているものと解するのが相当である。これを本件についてみても、原判示のごとき事情の下において、任命権者たる被上告人が、五五歳以上の高令であることを待命処分の一応の基準とした上、上告人はそれに該当し(本件記録によれば、上告人は当時六六歳であつたことが明らかである)、しかも、その勤務成績が良好でないこと等の事情をも考慮の上、上告人に対し本件待命処分に出たことは、任命権者に任せられた裁量権の範囲を逸脱したものとは認められず、高令である上告人に対し他の職員に比し不合理な差別をしたものとも認められないから、憲法一四条一項及び地方公務員法一三条に違反するものではない。

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